80 「期待の大型新人」下総屋に現るw
バスはあっという間に駅前に着く。学校とも僕の家とも離れているのに毎日駅前に来ているなあ。
目的地の「下総屋」は駅前のロータリーの一角にある。オタクの牙城みたいに思われているところもあるけど、文庫本の古本を買い求めるご年配の方も結構いる。電子書籍の普及で文庫本を売っている一般書店も減っているからとも聞いている。
エリスがひっついて離れないので、仕方なく僕が二人分のバス代を料金箱に入れた。ううっ、周囲のいろいろな人の視線が痛い。
まあ仕方がないと言えば仕方がないのだ。僕も高校に入学する三日前までは(てめえこの白昼堂々べたべたしやがって、見せつけるんじゃねえ。爆発しろっ!)と思っていたんだから。
◇◇◇
さて、下総屋に入ってみると、外より視線はきつくない。みなさん立ち読みとかに気を取られているみたい。少しホッとする。
では店長の犬咲さんが待っているという事務室へ。あ、でも事務室ってどこだ?
キャッシャーがある。夕方とはいえ、平日だから幸いそんなに混んでいない。そこにいるお姉さんに聞いてみよう。
「あのお、今日バイトの面接するので犬咲さんにアポ取ってある新田と剣汰瓜なんですが……」
すると、それまで笑顔で仕事をしていたお姉さん。何故か急に懐から眼鏡を取り出し、おもむろにかけると僕とエリスを凝視。むむむ。
だけどすぐに眼鏡を外し、また笑顔に。
「待ってましたよ。高校の鵜鷺先生とねこや先生の紹介ですよね。期待の大型新人というお話で」
え? 何なんですか? その「期待の大型新人」というのは?
「もうね。犬咲さん、手ぐすね引いて、両腕まくりして、腰に手を当てて栄養剤五本一気飲みして、鼻血だして待っていますからね。むっふっふ。あ、有象くん、悪いけどちょっとキャッシャー代わってくれる? あたしはこの『期待の大型新人』たちを犬咲さんのところに連れて行くから。むっふっふ。むっふっふ」
何かこれから「人体実験」に連行されるような雰囲気になってきたんですけど。エリスはそういうこととは一切関係なく僕にひっついているし。
「でわでわ、事務室にご案内―っ!」
◇◇◇
事務室への入り口はどこにでもある鉄製の大きなドア。荷物の出し入れが頻繁にあるからだろうね。まあ普通のドアです。「異世界へのゲート」とか「このドアを開ける者、全ての希望を捨てよ」とかは書いていない。
まあそれを書いたら、マニアが勝手に入ってきちゃうだろうけど。
「犬咲さん―っ! お待たせしましたーっ。『期待の大型新人』お二人ご案内でーす」
わあっ、お姉さんがドアを開けたぞ。
 




