59 ねこや先生 カミングアウトw
「ね・こ・や。これはどういうこと? その金髪碧眼はだあれ?」
鵜鷺先生、しばしの沈黙の後、声を絞り出されました。お疲れ様です。
「あたしの彼ピ」
ねこや先生、ノータイムでそのリアクションですかあ。
「彼ピってあんたねえ。彼ピを学校に連れてきちゃ駄目でしょ。部外者立入禁止だよ。学校は」
「うーん。ピョンちゃん。大目に見て。ちゃんと面倒見るから」
いやねこや先生。捨て犬拾って来たんじゃないんだから。
「それに何? このガラスの破片。窓ガラス割れてるし」
「彼ピが窓から保健室に突入してきたの」
「はあ~」
大きく溜息を吐く鵜鷺先生。
「何それ。あんたの彼ピって、どこの出入りのヤクザよ。これ何とかしないとまた校長先生に怒られるよ」
「うーん。あたしの得意のDIYで何とかするわ。だから見なかったことにして。ピョンちゃん」
◇◇◇
「あっ」
ポンと手を叩く鵜鷺先生。
「それで思い出した。ねこや。あたし、校長先生に言われて来たんだよ。お願いだからもうすぐに住民票出してって。事務の人が通勤手当の設定が出来なくて困ってるって」
「!」
途端に緊張感溢れる表情を見せるねこや先生。うわ、こんな真剣な顔、初めて見た。
ねこや先生は鵜鷺先生の向き直ると凛として、こう言った。
「ピョンちゃん。あたしの名前は猫屋新杏。それ以外の何物でもない。通勤手当はいらない。そう校長先生に伝えて」
「そういうわけにはいかないんだって」
うわっ、何だかセンシティブな話題そう。少し距離を取ろう。
そう思った僕はスリスリするエリスを背中に抱えたまま、ゆっくりと後ずさり。
何の気なしに見た机の上に住民票? えっ? 根小屋貞子?
次の瞬間、僕の目の前には、ねこや先生の顔があった。
「み・た・な・あ~」
◇◇◇
ぎいやあああああー
その時のねこや先生の顔はこの世のものとは思えないほど恐ろしかった。いやもうその辺のホラー映画をものともしない般若の形相。怖いっ! これは怖いっ!
「新田くんっ!」
はいいい。ねこや先生は真正面から僕の顔を見据えると、既にエリスが僕の首回りに腕を回しているのにもかかわらず、僕の両肩をつかんだ。
「新田くん。君は何も見なかった。あたしの名前は猫屋新杏。決して根小屋貞子なんて名前ではないっ! オゲ?」
はっ、はいい。
「増してやあたしの両親が夫婦そろって小説『リング』シリーズの大ファンで、単行本はおろか映像も全て取り揃え、挙句の果てに英語も満足に聞き取れないくせにアメリカまで行って『The Ring』を封切りで見てきて、最後の止めに実の娘に『貞子』と命名したなんてことは知らなくていいことなのっ! オゲ?」
そうだったんですか。いや、ねこや先生がそこまで事細かに教えてくれなかったら、そんなことは絶対に分かりませんでしたが。




