52 邂逅! 「ケンタウリ人VS猫」w
いつものことながら、そのような僕の葛藤を全く考慮しないエリスは物怖じすることなく猫屋先生に語り出す。
「先生。こっち側の右のほっぺたが痛いのだ」
「どれどれ、よく見せてみて。あれれ、すごいすり傷だねえ。でも不思議。何で右のほっぺただけがこんなになってるのかな?」
「それはな、先生。あたしがこういうことをたくさんやったからなのだ」
エリスは自分の右のほっぺたを僕の左肩にこすりつける。わあっ、まっ、待て待て待てっ!
「ぎにやー、いたいいたいいたーい」
そりゃそうなるだろうよ。すり傷だらけのほっぺたをこすりつけた日には。
「なに? なに? なに? どゆこと? どゆこと? どゆこと?」
ぴこぴこぴこぴこ
ねっ、猫屋先生。眼を爛々と輝かせるのはまだいいとして、猫耳が動いてるのは何故です?
「そりゃあ先生。猫だもの。耳くらい動くよー。そんなことよりさあ、あ、あなたたちの名前を聴いてなかったわね」
あ、僕は新田興宗。こいつは剣汰瓜絵栗鼠です。
「ぬふふ。新田君に、絵栗鼠ちゃんね。それで、何でまた絵栗鼠ちゃんは新田君にすりすりしてたのかな?」
「あたしはオキムネの『金塊』がほしいのだ。でも『金塊』を手に入れるには『恋人』にならなければいけないのだ。だから、頑張ってたくさんすりすりしてたのだ」
「ズッギューン」
ぴこぴこぴこぴこ
先生、「ズッギューン」って口で言う人、初めて見ました。それにまた猫耳が動いているし……
「なっ、何て、健気で可愛らしい女の子なのっ! いやーもうこれは日本も捨てたもんじゃないわ。日本人バンザイ」
「先生。あたしは『日本人』ではないぞ。『ケンタウリ人』なのだっ! そして、『皇帝』なのだっ!」
「んまああああ」
ぴこぴこぴこぴこ
「今年の新入生よね。これは思わぬ大型新人が入ってくれたわ。分かる。分かるよ。絵栗鼠ちゃん、あたしもね、あたしもね。『日本人』じゃなくて『猫』なんだっ!」
ぴこぴこぴこぴこ
「先生っ! 分かってくれたのかっ! 嬉しいのだっ!」
「分かるよーっ!」
うわああああ。これはもう、出会ってはいけないもの同士が出会ってしまった感が満載なんですが。
◇◇◇
「まあそれはともかく」
猫屋先生、ここで真顔。
「そのすり傷をそのままにしとくわけにはいかないよね。ちょっとかわいいお顔が隠れちゃうけど、消毒してガーゼつけとこうね」
猫屋先生、エリスを椅子に座らせると、脱脂綿にアルコールをつける。
「ごめんね。ちょっとしみるよ」
「いだー」
その時だった。聞き覚えのあるBGMが流れてきたのは。
♫ちゃらっちゃ ちゃらっちゃ ちゃらっちゃっちゃちゃららららー
こっ、これは?




