44 オキムネ父もまた「剛の者」w
ただいまー。
僕は自分の家に帰って来た。たった一日しか経っていないのに物凄い久しぶりという感じがする。何にしても疲れた。
「おかえりー」
満面の笑顔の母さん。しかし、すぐに渋い顔になる。
「なにー、オキムネ一人ーっ? 絵栗鼠ちゃんはどうしたのよ?」
実の息子が一人で帰ってきて、露骨に渋い顔するって何よ。絵栗鼠なら老谷さん家で寝るよ。だってあそこに住むことになったんだから。
「そういうことか。じゃあオキムネも老谷さん家で寝るのね。いやー急いでドラッグストアに行って買ってきてよかった。持って行きな。新商品だって」
母さんが取り出したのは避妊具一箱。ホンットーに嫌になるくらい予測とおりの展開ですね。
◇◇◇
いえ、もう僕は老谷さんたちにはおいとましてきましたから。自分の部屋で寝ます。
「何っ! 彼女を放って来たの。このヘタレ」
十五歳の自分の息子に性行為を奨励する母親ってなんなの。それに絵栗鼠は僕の彼女じゃありません。
「…… まあ母親にそういうことを隠す気持ちも分からなくはないが、母親の目を舐めるな。おとーさーん。あなたとあたしの息子は十五歳にして初彼女が出来ましたー!」
「何だとー」
ビール瓶片手に赤ら顔で姿を現す父さん。これはこれで出来上がってますね。ふうっー。
「十五歳で彼女が出来るとは『オキムネのくせに生意気だ』」
「えー、お父さんがあたしを口説いたのも高校生の時じゃない」
「いや、あれは俺が高二で十六歳。母さんが高一で十五歳だった。十五歳で彼女が出来るとは『オキムネのくせに生意気だ』。大事なことなので二度言いました」
何なのと思われると思いますが、これが我が家の実情です。我が家は「夫婦漫才の芸人」ではありません。専業農家です。
「そう言えばそうだったね。オキムネの手の早さはお父さんの上を行ったってことね」
「こうしてはおられん。オキムネに後れを取った以上、これから愛をとりもどさねば。クリスタルキングもそう言っている。行くぞっ! 母さんっ!」
「わーい。行くっ! 行くっ!」
そう言うが早いか、父さんと母さんは別室に消えて行った。
夫婦仲が良くて何よりです。避妊具無駄にならなくてよかったね。
◇◇◇
ふうっ、やっと寝られる。二階の自分の部屋に戻った僕は一息ついた。
しかしっ! 寝付けなかった。
いえ、自分の両親のことはどーでもいーんですよ。昔からあの調子だし。
寝付けない原因。それは絵栗鼠の柔らかさだ。明日もスリスリするって言ってたしなあ。
でも勘違いしちゃいけない。絵栗鼠は別に僕のことが好きなわけじゃないのだ。建国資金としての「金塊」を僕が持っていると思い込んでいるだけで。
かと言って嫌われているわけでもないよなあ。いくら老谷のばあちゃんにけしかけられたと言っても、嫌いな相手にスリスリはしないと思う。
うーん。悶々とする。




