43 オキムネにお泊りのススメw
参りました。もう本当に僕の心臓がもちません。つきましてはもう夜も遅くなり、明日も学校があるので、おいとまさせていただきたいのですが。
「ええーっ、泊っていけばいいじゃない」
満面の笑顔のばあちゃん。出来上がってらっしゃいますな。
「そうだ。オキムネ。泊っていけ。そして、『金塊』見せろっ! 『金塊』よこせっ!」
絵栗鼠。全然分かってないだろうが、その発言は危険だって。ただでさえ心臓がもたないのに。
「オキムネちゃん。家は隣なんだし、泊まっていきなよ。妙印子さんに言えば、許してくれるでしょ?」
えーもう、母さんに言った日にはですね。「ほどほどにね」と笑顔で言った上で避妊具一箱分を渡してくれかねません。そういう人なんです。うちの母は。
「明日ったって、明日も 絵栗鼠ちゃんと一緒に学校行くんでしょ? この家から一緒に行けばいいじゃない」
はい、ばあちゃん。それをやるとですね。かなりの確率でですね。僕と 絵栗鼠の同級生のサダヨシという男が何故かいて、しっかりと目撃され、「昨日は腕組デートだったのに、今朝はもう『同棲』。オキムネの裏切り者ーっ」と泣き叫びながら走り去ります。
それだけで済めばまだいいんですがね。そのまま学校に行くと黒板に「独占スクープ! 熱愛発覚!! 告白はしない宣言したあのオキムネが『同棲』していた」と書かれていかねません。
「…… 何だか随分と面白い友達がいるんだね。でもまあ、オキムネちゃんは絵栗鼠ちゃんと寝るのが恥ずかしいの?」
別に僕と絵栗鼠が二人だけで寝るわけではないですが、有り体に言うとそういう面もあります。
「思春期の男の子は難しいねえ。まあ、うちの三人の息子も私から見れば何を考えているんだか分からないところがあったし。まあいいか。おやすみなさい。妙印子さんによろしくね」
ご理解いただきありがとうございます。ばあちゃん。では、おいとまを。
「待てっ!」
そこで僕の肩をがっちりつかんだのはやはりと言うか絵栗鼠。
◇◇◇
なっ、何かな? 絵栗鼠。僕はもう帰るんですけど。
「まだ『金塊』を見てない」
またその話なの? ばあちゃんが徐々に親しくなってからだって教えたでしょ。自由恋愛でもいきなり『金塊』見たらおまわりさんが来るの。
「分かった。スリスリする」
そう言うが早いか僕の右腕を取り、頬をスリスリする絵栗鼠。だから心臓がもたないって。
ちょっ、ちょっと待て。絵栗鼠。親鳥が卵を孵化する時、どうするか知っているか。
「馬鹿にするな。それぐらい知ってるわい。何日もかけて温めて孵化させるのだ」
そう何日もかけて温めるのだ。いきなり高温で温めててもゆでたまごになるだけで孵化はしない。
「? 何が言いたい?」
こういうこともやり過ぎるとよくない。何日もかけてやるのだ。今日はもうおしまい。僕は家に帰る。
絵栗鼠は少し考えてから頷く。
「分かったのだ! 明日からもばんばんスリスリするからな」
うーん。それはそれで困るのだが。今日のところは仕方ないか。
 




