202 オキムネ。ちゃんと働け。バイト代出んぞw
「くっ、やむを得ぬ。犬咲店長。バイト代があればオキムネの『金塊』が手に入るのだな?」
「そうよ。絵栗鼠ちゃん。しかし、それには今日は真面目にアルバイトすること。それが明日の勝利に繋がる道」
「明日の勝利……それはオキムネの『金塊』か?」
「ふふふ。それは絵栗鼠ちゃん次第」
ちょ、ちょっと犬咲店長。勝手に話を進めないでくださいよ。
「新田君」
ここで僕の目を真っすぐ見つめる犬咲店長。なっ、何ですか?
「恩に着るわー」
またそれですか。
◇◇◇
とにもかくにも憤怒の表情で僕の背中に張り付いていた悪霊エリスは引きはがされた。僕はお客様方がR-1号、R-2号の握手会に並ぶのに、「ここが最後尾でーす」と描かれた看板を持つという初めてバイトらしい仕事をした。
で、エリスが何かやったかと言えば、後方で大あくびをしながら立っていて、
「オキムネ。ちゃんと働け。バイト代出んぞ」とか言っている。
まあ下総屋のメンバーは犬咲店長、琴理さん、有象さん、そして、僕。おまけに下総屋のメンバーではない老谷のじいちゃん、三太さん、ねこや先生までフル稼働。
エリスにあれこれ言っている余裕はないし、余計なことをせずにエリザベス・ザ・ファーストのコスプレをして立っていてもらえばいいのかな。それで同じバイト代というのは納得がいかない話ではあるけど。
◇◇◇
知性的な孔明コスプレのR-1号、肉体派の呂布コスプレのR-2号。握手を希望するお客様方の人気はどっちかに偏るかなとも思ったけれど、計ったように綺麗に二つに分かれた。
知性派イケメンが好きな女性と肉体派イケメンが好きな女性は同じくらいの数いるのね。いやあ勉強になりました。こういうことが分かるのもバイトの醍醐味か。
割と見ているとR-1号と握手したがる人は礼儀正しい。だけど、話し込みたがる人が時折いる。それを無難に止めるのはやはり犬咲店長。うーん。伊達に店長やっているわけじゃないのね。
R-2号と握手したがる人は隙あれば体にべたべた触りたがる人が結構いる。こっちは自称R-2号の恋人ねこや先生が鋭い視線を送る。
夢中になってやっているうちに時間はどんどん過ぎていき、さすがに行列に並ぶ人の数も減ってきた。結構疲れたなあ。
「オキムネ。サボってんじゃないぞ」
だから何で何もしていないエリスがそういうこと言うんだよ。
◇◇◇
「おつかれさーん」
一番働いているはずなのに元気だなあ犬咲店長。今の時刻は……うわ9時半だよ。
「店長。今日一日の売り上げ。開店以来の新記録です」
淡々と言う有象さん。この人、下総屋の縁の下の力持ちかも。
「そうでしょう。そうでしょう」
ご満悦な犬咲店長。
「はーい。約束とおりバイト代出しまーす。特別ボーナス付きでーす」
何ともらった封筒の中には一万円札! 今日は時給1200円で四時間仕事したから随分多いんじゃあ。
「ん~、一昨日、コスプレしてもらった分もあるからね。それでも少し多めにしてあるけど」
お年玉以外で一万円札は初めてだ。バイト万歳。高校生万歳。
「ちょっと犬咲~、あたしのバイト代は~?」
「ねこや。あんた公立学校の養護教諭だから公務員でしょう。『営利企業従事』の許可はもらってんの?」
「何それ?」
その場でずっこける犬咲店長。
「まあ、あんたのところの校長先生なら話が分かるだろうから、相談してからまた来て。それまで預かっとくから」




