185 それは「伝説」じゃなくて「黒歴史」でしょうw
すりすり すりすり
うう、周囲の視線が。バイト先の下総屋は学校から離れたところにあるからバスで行く。
エリスは相も変わらずすりすりを続けているし。
そうすると一般の方から「全く今の若いもんは、人前で、はしたない」という話になる。
ところが同じバスには同じ学校の女生徒のみなさまがいっぱい一緒に乗ってらっしゃる。
さっき校長先生から「とっとと帰らないとうちの旦那が描く百合漫画同人誌の登場人物にするよ」という世にも奇妙なご指導を受けた方々だ。
その方々がね。うちの学校以外の方に解説をしてくれるのですよ。いえ、別にお願いしたわけじゃないですよ。
「あの二人はうちの学校が誇る日本屈指の『推しカプ』なんですよー」
どこから湧いたんですか? 「日本屈指」という言葉。
「男の子は新田興宗君で、女の子は剣汰瓜絵栗鼠ちゃん。可愛いでしょう?」
うわー、フルネームで紹介されちゃっているよ。
「おおー、あの新田さんのせがれさんかい?」
何やら嬉しそうなおじいちゃん一人。はあ。
「新田さんはすげえぞ。オタクの中のオタクだ。『オタク一匹ガキ大将』と言われた男だ」
その「オタク」のところが「男」だったら自慢の父親なんですけどね。
「新田さんがな『美少女銭形平次』のコスプレをして、『♪おーたくだったら、ひとつにかけるー』と歌いながら五円玉を投げたのはもはやコスプレイベント界の伝説だっ!」
もはや針のむしろです。何なんですか? 「美少女銭形平次」って? それは「伝説」じゃなくて「黒歴史」でしょう。
◇◇◇
「ほうら、おばあちゃん。あの二人が『レジェンド オブ 推しカプ』の新田君と剣汰瓜さんだよー」
「はあーありがたやーありがたやー。何だかよく分からないけどありがたやー。いい冥土の土産ができた。ありがたやー」
「もうおばあちゃん。冥土の土産なんて言わないで。あの二人はこれからも面白いことたくさんしてくれるから。冥土の土産どころか二人揃ってメイドの土産をくれるよー」
一見、美談のように聞こえる会話ですが、こちらの預かり知らぬところで凄いこと言われてます。二人揃ってって、僕もメイドの土産の中に入っているんですかあ?
◇◇◇
とことこ とことこ
あ、何だか幼稚園児くらいの子が二人で手をつないで来た。
「「しんでんさん。けんたうりさん」」
は、はい。何でしょう?
「「ぼくたち、わたしたちもがんばって、しんでんさんとけんたうりさんのようなりっぱな『おしかぷ』になりたいです」」
もう大丈夫なのか? ここの町? 教育長が百合漫画同人作家やっている町だからなー。ちっちゃい子からおじいちゃんおばあちゃんまで。
 




