173 少年よ。尻をまさぐれw
保健室に入る前から、僕とエリスはねこや先生に飛びつかれた。
「二人ともアールニゴウさんがっ! アールニゴウさんがっ!」
今にも泣き出しそうなねこや先生。さすがに鵜鷺先生も神妙そうだ。
「ねこや。どうしたっていうの? アールニゴウさん」
「ともかく見てよ。ピョンちゃん。今、保健室のベッドに寝せているんだけど」
普通の学園ものならシリアスなシーンだ。しかし、このパターンでは、いやこのパターンでなくてもしょうもないオチが待っている可能性が高い。
早くもエリスは隣で大あくびしているし。
◇◇◇
保健室を開けると奥のベッドに確かに寝ているR-2号。そして、その上で泣いているのは、
「うおおおおん。アールニゴウッ! 何でおまえ死んじまった。わしはっ! わしはっ! おまえに働かせておいて、それで『まだまだぢゃ』と言って、毎日、学校で遊ぼうと思っていたのにいい」
三太さん、それはあまりにも正直過ぎますって。早くもシリアス展開に暗雲が漂ってきたなあ。
「三太さん。縁起でもない。アールニゴウさんは死んではいませんっ! 白目むいて、呼吸してなくて、心音が確認できなくて、全く動かないだけなんですっ!」
ねこや先生、いやその、惚れてしまえばなんとやらというのは分かりますが、それで「生きている」と強弁するのは養護教諭としていかがかと。
「いやそれならっ、ねこやっ!」
今回は暴走制御サイドですね鵜鷺先生。
「こんなところで寝せといて、私たちを呼ぶ前に救急車を呼ばないと」
鵜鷺先生、それは正しい。ただ相手は「普通の人間」ではなく「ケンタウリ星特産新型アンドロイド」なんですよー。さてどうしたものかと思っていると、エリスがぽろっと一言。
「何だ。ただの『電池切れ』ではないか。つまらん」
◇◇◇
「絵栗鼠ちゃん。いくら親族の方でも言っていいことと悪いことがあるよっ!」
ねこや先生、エキサイティングッ!
「そういう『死んだカブトムシに乾電池を入れろ』という現代っ子みたいなことを言っていてはだめ。命というものは……」
エリスの両肩を掴み、揺さぶって、説教するねこや先生。しかしそれがエリスに通用する訳がなく、あごが外れるんじゃないかというくらいの大あくび。
しかしここに至って、ようやく僕は昨晩からの違和感に気が付いた。R-2号は毎朝家でコンセントから充電していたんだ。それをねこや先生の家に泊まったら出来なかったから「電池切れ」になる。
最新なのかレトロなのか分からんぞ。「ケンタウリ星特産アンドロイド」。
とか言っている場合ではない。他の人がエリスとねこや先生の揉め事に気を取られているうちにR-2号にかかっている布団をめくって、どこだ? R-2号のプラグはどこだ? 確か尻の辺りにあったはずだが……
「少年。何をアールニゴウの尻をまさぐっておるのだ?」
げっ、三太さん。いやこれは尻をまさぐっているのではなく……
「「「え? 新田君がアールニゴウさんのお尻をまさぐっている?」」」
何でこういう時だけ気が合うんですか? 鵜鷺先生にねこや先生。おまけにいつの間にやら校長先生も来ているし。
「オキムネー。お前って奴はー」
まっ、待てっ! エリス。誤解だ。やめろっ! 胸倉を掴んで締め上げるんじゃないっ!




