137 「奇術」です。そう、「奇術」なのねw
♪じゃーんじゃじゃじゃーん じゃじゃじゃじゃーん じゃじゃじゃじゃーんじゃんじゃん
保健室から漏れ聞こえる昭和アイドルの音楽。うーん。本当に続けているんだなあ。
「ふあ~あ」
隣でエリスは大あくび。いくらアンドロイドとはいえ、もうちょっと臣下をねぎらってやれよー。皇帝陛下。
◇◇◇
ノックをして保健室に入ると、R-2号が赤フン姿のまま、音楽に合わせてダンスしているし。三太さんはさすがに疲れたのか、パーカーをはおって、腕組みをして、パイプ椅子に腰掛け、R-2号のダンスを見つめている。
その眼光は鋭い。これで見つめている先が赤フン姿で昭和女性アイドルのダンスを踊る金髪碧眼の筋肉質兄ちゃんでなければカッコいいのだけどね。
♪じゃーんじゃじゃじゃーん
あ、音楽が終わった。最後にポーズをとる、R-2号。
「キャーッ、ステキー。パチパチパチ」
これはもちろんねこや先生。鉄壁のR-2号LOVEですね。
「ふっ。まあ少しはよくなったが、まだまだじゃのお」
腕組みをしたまま目を閉じる三太さん。僕には何が「まだまだ」なのか、さっぱり分かりませんが、きっと僕には分からないディープな世界があるのでしょう。あまり分かりたくもないですが。
「ふあ~あ」
エリス、二回目の大あくび。飽きているんだね。ホントに。
◇◇◇
「あー、アールニゴウさんの赤フン姿は大変な目の保養でありがたいお話ではあるのですが」
おずおずと切り出す校長先生。
「三太さんの校務員としての勤務は今日まで。男の魂の塊の引継も大事ですが、校舎管理の引継もしていただけると」
あ、校長先生、そっちを忘れていたわけではなかったのですね。
◇◇◇
「ふっ、校長先生」
相変わらず芝居がかる三太さん。
「わしから見れば、アールニゴウの男の魂の塊はまだまだ。引継は全然終わっておりやせん。なので明日以降も、わしゃあ学校に来ます!」
ピシャーン
三太さんの背後に雷が走る。効果用の照明とかではなく、本当の電流。もちろん流したのはR-2号。
「うわあああ、何だ何だっ? 漏電か? やばいっ! 感電するう」
大慌てでパイプ椅子から逃げる三太さん。今までの格好つけが台無しじゃないですか?
「新田君、今のは何?」
エリスではなく僕に聞いてくる校長先生。ある意味正解です。エリスが本当のことを言っても厨二とか思われないでしょう。
「『奇術』です。校長先生」
「そう、『奇術』なのね。新田君」
何かだんだん阿吽の呼吸みたいになってきましたね。
「いだー、いたたた」
腰を押さえて四つん這いになる三太さん。ほらほら腰が悪いのに急に立ち上がるから。
「ふうっ」
校長先生、溜息一つ。
「ねこや先生。三太さんの湿布を替えてあげて。で、落ち着いたら、少しでも校舎管理の引継もやってくださいよ。三太さん」
「へーい」
すっかり青菜に塩の三太さん。