135 君は、この私が二十五歳独身。彼氏なしと分かって、言ってくれているのかなあ?
キーンコーンカーンコーン カーンコーンキーンコーン
はい。チャイムが鳴りました。しかし、ご安心を。これは予鈴。午後の授業開始五分前の合図です。
「くっ」
唇から血が出るほど歯を食いしばる鵜鷺先生。
「これからという時にっ! しかし、私には午後の授業があるっ!」
「鵜鷺先生。いってらっしゃい。大丈夫。私がきっちりドローイングしとくから」
校長先生、赤フンのR-2号から目を離さずに言う。
「はああ~、校長先生、よろしくお願いします」
鵜鷺先生。何ともがっくりした表情で保健室を出る。
「ほら、新田君に剣汰瓜さんも授業だよ」
そうでした。教室に戻らないと。また今回も濃い~昼休みだったなあ。あ、そう言えば次の授業は鵜鷺先生の「公共」だった。よーし、行くぞ。エリスって、うわっ!
「危ないところだった。あたしがオキムネの背中にすりすりして、金塊を奪うというという設定をうっかり忘れるとこだった」
えーい、エリス。そういう設定は忘れていいのだ。ない胸をこすりつけるなーっ! つーか、このまま教室まで戻る気かっ? 途中には職員室もあるんだぞっ!
すりすりすりすり すりすりすりすり
ざわっ
授業開始直前の学校の廊下でこれは目立つ!
「ほらあの子、今朝、校庭で騒ぎになった」
「やるわねえ」
そんな声もちらほら聞こえてくるし、高校入学四日目でこれって、僕の高校生活どうなるんだろ。
「あら、剣汰瓜さん。まだ新田君にすりすりしてたの?」
職員室の前でお弁当を置いて、代わりに教科書を持って出てきた鵜鷺先生と鉢合わせ。
そうなんですよー。先生~。言ってやってくださーい。
「まあ、休み時間はいいわ。授業が始まったらやめるようにね」
おい、エリス。聞いたか? 授業が始まったら、すりすりやめるんだぞ。
すりすりすりすり すりすりすりすり
分かってんのか? もう。
◇◇◇
鵜鷺先生は教室の前方の扉から、僕とエリスは後方の扉から、ほぼ同時に入ると……
ウオーッ パチパチパチ
教室中から拍手。
「これは何事?」
さすがにあっけに取られる鵜鷺先生。
で、後ろの黒板には「新田君、剣汰瓜さん、結婚式の日取り決定かっ? 仲人は鵜鷺先生!」と。
サダヨシー。君は本当に懲りないねえ。
「オキムネッ! 俺はくやしいっ! 本当にくやしいっ! だが、こうなった以上、親友として力の限り、祝ってやるっ! 覚悟しろっ!」
「ほ・ん・ど・う・くーん」
ヤバいぞ。サダヨシ。鵜鷺先生の眼が座っているぞ。
「どうしてこんな話が沸いてきたのかな~?」
「いやだって、昼休みいっぱい帰ってこなかったのは、結婚式の日取りの打ち合わせでしょう? で、仲人の鵜鷺先生も立ち会って」
「本堂君。ちょっと前へ来なさい」
教室の前に出たサダヨシを待っていたのは、鵜鷺先生の鋭い視線だった。
「君は、この私が二十五歳独身。彼氏なしと分かって、仲人とか言ってくれているのかなあ?」