110 トーストくわえて「ちこくちこく」と言いながら走る女子高生になりたいのだw
「お母上。そういう訳であたしはトーストがほしいのだ。やはり女子高生としては遅刻しそうな時はトーストをくわえて走るのが鉄則なのだ」
何がどう「鉄則」なんだよ? エリス。
「トースト。トーストねえ」
わ、母さん、真面目に考え込んでいるよ。母さん、エリスには甘いねえ。僕が同じこと言ったら「嫌なら食うな。おまえは当面メシ抜きじゃ」とか言いそうなのに。
「ごめんねえ絵栗鼠ちゃん。我が家は父さんが『米の飯食わないと力が出ない』って人なもんだから、あんましパン系のものは置いてないの」
「それはお母上。残念なのだ。あたしはトーストくわえて走る女子高生になりたいのだ。なったら恋に落ちて、『金塊』が手に入るのだ」
何なの? そのハイパーな理論。
「うーん。取り急ぎくわえられてへにゃとならなければいいのね。正月だったらモチの残りがあったけど……」
母さん、モチくわえて「ちこくちこく」と言って走る女子高生はかなりシュールですよ。くわえているうちに落ちそう。まあそれを言ったらそもそもトーストもそうなんだけど。
「じゃあさ、絵栗鼠ちゃん、これをくわえていけば?」
母さん、それは……
◇◇◇
急げ急げ。高校入学四日目にして遅刻はイカン。
ましてや僕もエリスも昨日はいろいろあって入学して一週間も経っていないのに、担任の鵜鷺先生ばかりでなく保健室のねこや先生や校長先生にも注目されている身だ。
それにしても今朝は今までより出発時間が遅れたせいか「刺客」サダヨシに出会わないのも大きい。なんやかやでエリスは僕の手を握りながら走っているし、サダヨシに会ったら何か一悶着起きそうだしなあ。
とか思いながら走っていたら学校のすぐ近くまで来たぞ。反射的に腕時計を見る。うん。これならもう後はゆっくり歩いても余裕で間に合いそうだわ。エリス、お疲れさん。もうゆっくり歩くんでいいよ。
「もうゆっくり行けるのか?」
そうそう。ゆっくり行けるよ。
「よしじゃあ。あれをやるぞ。オキムネッ! 女子高生はあれをやらねばならんっ!」
あれって何よ? あれって? と僕がツッコミを入れようとしたその瞬間、後ろでドサッとカバンを落とす音がした。はあーっ、ここで奴の登場かよ。
◇◇◇
「えっ、えっ、えっ、絵栗鼠ちゃんっ! 何でチクワを二本もくわえているの? 絵栗鼠ちゃんの趣味? それともまさかオキムネの趣味なの?」
サダヨシ、その疑問はもっともだ。トーストをくわえて走る女子高生になりたいと言い出すエリスも変だし、家が和食党でトーストがないというのはともかく、代わりにチクワ二本を差し出す母さんも変だし、それを普通に受け入れ、チクワ二本くわえて走るエリスも変だ。
「サダヨシ。いいところに来た。これからあれをやるから周りの交通整理をしてくれ」
エリス、サダヨシの疑問を華麗にスルー。それどころか当然のように自分のやりたいことにサダヨシを使う。だからあれって何だ? あれって?




