106 だからそういう色っぽい声をだすなあw
エリスの家はもともと老谷のじいちゃんばあちゃんが住んでいたようなところだから、玄関はドアではなく引き戸。
それをガラガラと開ける。田舎出身の人はよく聞いていると思うけど、老谷のじいちゃんばあちゃんは玄関に鍵をかける習慣がなかった。
それをエリスも踏襲しているみたいで、あっさり開く。んで声をかける。
おーいエリス。母さんがうちで朝飯食っていけって言ってるぞっ! 起きてこーい
シーン
全くもって無反応。
エリスー。寝てるなら起きろー。それともいないのかー?
シーン
うーむ。
R-1号っ! R-2号っ! エリスはそこにいるのかっ?
ぶーぶっぶっぶっ
ぶーぶっぶっぶっ
何やら二体の機械音が。空飛んだり、競馬で12レース全部三連単で的中させるほど高性能なのに変なところで旧式なのね。
R-1号っ! R-2号っ! もう勝手に入るぞっ! いいよなっ?
ぶーぶっぶっぶっ
ぶーぶっぶっぶっ
いいって意味でいいんだよな。
◇◇◇
ぶっ!
部屋に入った僕は驚いたのなんの。
だってあなた、薄日の差す暗い部屋の中でR-1号とR-2号が並んで正座で座っているのはまだいいとして、尻からコード出して、それがコンセントに刺さってるし、スマホの充電か? 君たちは?
おまけにまあ、R-1号は赤い目、R-2号は緑色の目をチカチカ点滅させているし、なんなのよもう。
二人ともエリスは家にいるの? 寝てるの?
ぶーぶっぶっぶっ
ぶーぶっぶっぶっ
母さんからエリスを連れてこいといわれているから起こすよ。
ぶーぶっぶっぶっ
ぶーぶっぶっぶっ
充電中はその応答しか出来ないのね。
◇◇◇
ということはエリスは隣の部屋かな? 老谷さんちは古い家だから、あんまり家の中はドアとかなくて、ふすまとか障子なんだよね。障子の陰で聞き耳をたてると。
すーすー すーすー
うん、これはエリスの寝息だな。まだ寝てるんだね。ならば……
どんどんどんどん
おーいエリス。起きろーっ!
すーすー すーすー
起きろーっ! エリスーッ!
すーすー すーすー
エリスー。朝飯だぞーっ! 起きろーっ!
すーすー すーすー
そうかそうか。そういうのなら、こっちにも考えがあるぞ。この障子開けて、直に起こしに行っちゃうよ。
◇◇◇
ガラッ
わざと大きな音をたてて、障子を開けた僕の目に入ったものは……
「うっ、うっ、うーん」
掛け布団を全部蹴っ飛ばし、ちょっとななめ横向きの仰向けで右腕を上に伸ばし、両足も伸ばした何とも色っぽい姿で寝てやがる。何となく胸をそらし、自然体でない胸を強調しているのがまた。
いかんっ! これはいかん。かくなるうえは頭の一つも軽く叩いて、起こしてやろうとも思ったが、これではびびってエリスの体に触れられん。
「うっ、うっ、うーん」
だからそういう色っぽい声を出すなあ。




