そのおにぎり、プレミアムにつき
ふっくらと炊きあがったばかりのご飯を愛でる。
真っ白な粒がピンと艶めき、ほのかに立ち上る白い湯気が、味わいある香りを周囲に届ける。
ああ、これだけでも立派な、心そそる美食。
それにさらなる付加価値を付ける。
塩をつけた手で優しく握り、パリリとした黒い海苔に包んで皿に置く。
三角体として直立する姿。
おにぎり。
ご飯からおにぎりに変化した途端、なぜか特別感を増し、イベント性を帯び、やたら思い出と結びついてくる。
遠足、運動会、非常時の簡易食。
便利な携帯食だけど、中でも忘れられないおにぎりが私にはある。
それは、初産の時に実母が持ってきてくれたおにぎり。
私の初出産は、日の暗い午前3時の破水から始まり、朝4時に病院入り、陣痛促進剤を投与してお産を促すというスタイルで開始された。
急な駆け込みだったから、病院で朝食が出る筈もない。
あてがわれたベッドで陣痛を待ちつつ、時間を持て余していた。
お腹空いたな、と思いながら。
ところで産院と実家は近かった。
早朝に電話連絡を入れていたため、両親が病院に来てくれた。
その際、なんと朝食としておにぎりを持ち込んでくれたのである。
さすがは母!
私の空腹を見据えた上でのナイスアシスト!
すごく有難い。
喜びつつ、包みを開いて――。
絶句した。
「お母さん、このおにぎり、お赤飯?」
「そうよ、急いで作ったから味はあれだけど……」
母から言い訳じみた言葉が出てくるが。
いやいや、そこじゃない。
お赤飯?
まだ赤ちゃん、生まれてませんけど?
それどころか陣痛の兆しすら来てませんが?
いくらなんでも、フライング過ぎない??
蒸し時間がどうだの、豆は小豆じゃ間に合わなかったから別の豆だの、母の話は延々と続いている。
小豆じゃなくても、手の中のおにぎりは間違いなく赤い。
まさか朝起きて、すぐにお赤飯炊いておにぎりにしてくるとは思わなかった。
ツッコミどころ、満載だわ。
そう思いながら、祝い飯であり、邪気を祓うお赤飯のおにぎりを頬張った。
そして十数時間後、私は無事、娘を出産した。
まだ幼稚園児である我が子のお弁当に、今朝もおにぎりを詰めながら思う。
長生きして、娘の出産時には応援せねば。
お赤飯はともかく、必要とあらば、おにぎりの差し入れくらいはしてやりたい。
以前は一口サイズだった小さなおにぎりが、今はその数倍大になっている。
成長したなぁ。
(元気に大きく育ってね)
おにぎりとは、実は付加価値だらけの食べ物だったと気付いた。
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この病院に駆け込む直前の秘話(短編コメディ・実話エッセイ)と
4歳児の娘についての日常2コマ漫画もありますので、もし良かったら作者名のリンクから私のマイページにお立ち寄りください(^^)
ちなみに「なろラジ大賞」参加作品はお星様の下にリンクありますv ↓