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2-3 来ない理由

今更ですが読んでいただきありがとうございます!


いつもどこで区切ろうかな〜と悩んでしまいます。文字量がちょうどしないです。

 

「……。」


 綾部先輩が言ってたとおり、土屋先輩も仕事がないから来ないのかな……。

 一応もう一度交渉してみようかなとか考えながら、二年生の教室があるフロアに足を運んでいた。

 今はお昼休みなので少し時間には余裕がある。先輩のクラスはこの前の自己紹介の時に聞いていたからここだと思うんだけど……。

 周りをきょろきょろと見まわしている私を不審に思ったのか、一人の男子生徒が教室の窓から顔を出し、話しかけてきた。


「……何?一年がなんか用か?」


 無表情で高身長のジャージ姿の男子生徒。少し怖い印象を受ける。私より二十センチは背が高そうな男子生徒に見降ろされて少し戸惑ったが、本来の目的を果たさなければ。


「えっと、土屋先輩いますかっ!?」

「のどか?……おーい、のどかぁ!お客さんだぞー!」


 そういって教室に向けて大きな声を出す。

 するとその張本人がいたようで、嫌そうな顔をしてこちらを見ている。

 恥ずかしそうに小走りでこちらに向かって来た。


「あんたも……!名前で呼ばないでって言ってるでしょ?」

「あんたもって何?」

「……綾部もだから。」

「ああ、細かいこと気にすんなよー。じゃあな。」

「もうっ!」


 ……クラスメイトだったのだろうか?仲がいいような悪いような。

 もうすでに彼の姿は見えなくなっていたが、土屋先輩は彼の方向を睨んでいる。


「えっと……こ、こんにちは!」

「……なんでここにいるのよ?」


 腕を組み、私を睨む土屋先輩。睨んではいるがそんなに怒っている訳ではなさそうなので、これが彼女のデフォルトなのだろう。

 昨日は少しびくびくしてしまったが、今日はそんなことしてられない。


「やっぱり先輩に生徒会室来て欲しいですから。」


 素直に言葉を口にした。まっすぐに先輩を見たが驚いた様子はない。

 なんでここにいるのかと質問してきたがきっと私が先輩に会いに来る理由なんか感付いていたのだろう。ため息交じりに先輩が答えた。


「あんたたちは本当に……。だから昨日も言ったでしょ?私じゃなくても……。」

「っでも!」


 私は何とか食らいつこうとした。


「っしつこい!」


 キッと睨んで大きな声を出す。

 それに驚いた周りの人たちが私たちの方を見る。少し視線が痛い。

 土屋先輩も周りを見回し、視線を気にしている。


「……場所を変えましょう。」

「ちょ、先輩!?」


 私の手を掴み、人目を避けるように先輩は歩きだした。







 先輩に連れられて来たのは屋上につながる階段の踊り場。

 屋上は基本的には立ち入りが禁止されているし、屋上への出入り口には鍵がかかっている。

 屋上に行ってお弁当を食べるとか、そんなザ・青春っていうイベントなんてものは存在しない。

 むしろ今時では屋上に出入りできない学校の方が多いのではないか。

 そんな理由で人気のない、人の来ない絶好のポイントだということだ。


「ここまでくれば、誰の目も気にせずに話せるでしょ……。」


 そういって先輩は私の方を見た。


「あの……手を……。」


 依然先輩に掴まれたままの手を指差す。手を繋いだのなんかいつぶりかわからず、少し恥ずかしい。

 先輩は少し不思議そうな顔をした後指を差された方を見た。

 自分で掴んでいた事を忘れていたようでぎょっとして顔を赤くし、慌てて離した。


「べ、別に掴みたくて掴んでた訳じゃなくてっ!!」

「そ、そうですか……?」


 必死に身振り手振りしている。そんなに照れることないと思うが、割と反応がオーバーだ。

 閑話休題。話を本題に戻そう。


「えっと……、聞きたかったことがあるんです。なんでそんなに生徒会に戻るのを嫌がるんですか?」


 私には詳しい理由がわからない。それがわからないと話が進まない。


「……綾部先輩は仕事がないからみんな来ないんだって言ってました。土屋先輩もそうなんですか?」

「……そうね。」


 溜めて、小さく呟くように吐き捨てた。

 これは本当に本心を言っているのだろうか。


「じゃあ明後日会議があります。これって書記の仕事なんですよね?だったら来てくれますよね?」

「……できない。」


 絞り出すように否定した。

 できない?

 行けない、とかやらない、ではなくて?


「できないって……どういうことですか?」

「……。」


 沈黙が続く。

 その沈黙を割くように予鈴のチャイムが鳴った。ということは授業が始まるまで残り五分。


「……私のことは諦めて。教室に戻る。」

「待ってください!」


 踵を返して階段を降りようとする先輩の手を、今度は私から掴んだ。先輩の手はさっきよりも冷たい。


「ちょ!離してよ!」

「離しません!」

「授業始まる!」

「訳を聞くまで離しません!」


 自分でも無茶を言ってると思う。けど、ここで諦めたら駄目な気がした。

 土屋先輩は唇をきゅっと噛みしめる。相変わらず私を睨むが、もう怯まない。

 食い下がろうとしない私に根負けしたのか、ため息の後呟くように話し始めた。


「……言われたの、仕事遅いしよく間違えてたから“もう何もしなくていいよ”って。私なりに一生懸命頑張ってきたつもりだったの。もともとそんなに要領いい方ではなかったから間違いがなくなるように放課後残ってやってみたり、何度も書いて早くなるように練習もしたし。でもその努力も全部無駄だったんだって。そんな風に言われたような気がして。そんなこと考えたらやる気なんかなくなっちゃった。一生懸命やってたのが馬鹿みたいでしょ?それに、やろうとすると……手が、震えるの。」

「先輩……。」


 俯いて今にも泣き出しそうな先輩になんて言葉をかければいいのかわからなかった。

 ここでなにか励ましたりできれば先輩の気持ちを軽くすることもできたかもしれなかったけれど気のきいた言葉の一つも思いつかない。


「結局、私なんて必要なかったんだって。どうせ椎名がやるんだったら私なんていてもいなくても変わらない。それ以降生徒会室に行かなくなったわ。」

「……。」


 前の会長さん……椎名先輩が何を意図してその言葉を土屋先輩に言ったかはわからない。

 私だったらたぶん、何もしなくていいなんて言わない。


「別に椎名から戻ってきてほしいとも言われなかったし。私の考えが間違ってなかったって事でしょう?」


 自分のことを蔑むように先輩は言った。その姿が痛々しい。

 でも私にはその言葉は、土屋先輩がそう言ってほしいと言っているように聞こえた。

 戻ってきてほしいと、言ってほしかったのではないか。本当は、先輩は仕事が嫌いだとか生徒会に戻って来たくない訳ではないんじゃないか。


「わかった?だからもう勧誘に来ても意味なんか……。」

「待ってますから!」

「……は?」


 一瞬の間のあと土屋先輩は呆けていた。

 驚きすぎて、今にも涙が出そうだったのにその涙もどこかへ消え去っていた。


「先輩が来るの待ってますから!」

「ちょっと、話聞いてた!?行かないって言ってるでしょ!行ったところでどうせ役になんか立たないし……。」


 うまい言葉が見つからないから本心をそのまま口に出す。

 本当に語彙力がなさすぎて悲しくなってくるが、きっと先輩に伝わると信じて。

 先輩に来てほしいきちんとした理由はない。ただ、頑張っていろいろ努力した先輩がこんな気持ちになっているのが許せなかった。

 この気持ちの説明なんてできない。だから、私は思った事を思った通りに。


「……前のことはわからないですけど、私には先輩が必要なんです!」

「……っ。」

「役に立たなくなんかないです。そんな事言わないでください。だから待ってます!……でも、どうしても先輩が嫌なら……そのときは……えっと、あのー……また考えます!」


 後半グダグダになってしまったが思いはまっすぐ先輩に伝えられた。

 じっと見つめると先輩と目があったが、すぐ逸らされてしまった。そのあとは俯いてしまって表情がわからない。


「……行かないからね。」

「待ってますから。それじゃあ失礼します。」


 先輩が来てくれる事を信じるしかない。

 掴んでいた手を離し、軽く頭を下げてその場を後にした。


「……なんなのよ。」

 私がいなくなったあと、土屋先輩は一人そう呟いていた。







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