2-2 勧誘
今回短いのと、いつもと違い霞視点。
続きは明日かな?
「で?なんであんたがここにいるのよ。」
次の日のお昼休み時間。席についているのどかちゃんは心底嫌そうな表情だ。
俺は三組、のどかちゃんは六組。
残念ながらのどかちゃんとはクラスが違うので直々に教室へ出向いた。
俺は結構顔が割れてるので別のクラスに来るとひそひそと俺の話をしているのが聞こえてくる。
それは主に女子生徒のもの。
話題になるのが嫌であまり出歩かないようにしていた時期もあったが、もうそんなのは慣れっこになってしまった。
気にしてもきりがないし気に病むのも何も得しない。
そんなこんなで周りから何を言われても動じない、鋼の心を手に入れたのだ。
まあ俺の事情はおいておいて、今はのどかちゃんだ。
目の前ののどかちゃんは相変わらず嫌そうな顔をしている。女子からあまり向けられないタイプの表情なので少し新鮮だ。
出来たら関わりたくないとか考えているんだろうな。
それは彼女の言葉の節々から感じ取ることができる。
「のどかちゃんに用事があるから。」
「私は用事ない。あとそののどかちゃんっていうのやめてくれる?」
「今更土屋さんって呼ぶのもおかしくない?」
のどかちゃんは手元にある小説にしおりを挟むと勢いよく閉じた。
俺と話すことが嫌そうではあるけど、無視をしないあたりがのどかちゃんの人柄を表している。律儀というか真面目というか。
「もういい……。用事って何よ。」
「いやー、なんていうか……勧誘?」
自分でもおせっかいだななんて思ってしまう。
けれど昨日の早苗ちゃんを見ていたら、自分も何かをしてあげたいなんて柄にもないことを思ってしまった。俺そんなキャラじゃないんだけどな。
そこはやっぱり早苗ちゃんのすごいところなのかな。
のどかちゃんはため息交じりに俺の方を睨んだ。
「なんなの?別に私じゃなくても……綾部だって書記の仕事できるでしょ?」
そう言われて否定はできない。
「できなくはないけど……のどかちゃんに来て欲しいし、早苗ちゃんのご指名だし?」
「……何があったかは知らないけど、あんたあの三浦って子を信用しすぎ。」
少し躊躇ってのどかちゃんはそう言った。
それは俺の身を案じてくれているように聞こえた。
きっと、彼と比べているんだろうな。
でも。
「信用もなにも、今は彼女が会長だよ?」
「そんなのただの代理じゃない!」
「代理でも会長は会長でしょ。」
のどかちゃんは呆れたように俺の方を見るけど、本当にそう思っているから。
まだ、そんなに長く早苗ちゃんといる訳ではないけれど彼女は涼風くんとは違うんじゃないかな。
俺とのどかちゃんが教室で話しているのはかなり珍しいので他の生徒が気にしてこちらをちらちら見てくる視線を感じる。
俺らの接点は生徒会のみ。
その関連の話をしているんだろうなと噂する声が耳に入ってくる。
聞かれて困るような内容ではないけれどなんとなく俺ものどかちゃんもいつもより小声になる。
「……椎名のときみたくなるのがオチでしょ?痛い目みるわよ。」
珍しく心配してくれてるのかな、なんてこんな時だけど悠長なこと考えていた。
きっとのどかちゃんみたいな気持ちを味わわなくて済むように言ってくれているのだろう。
「俺のこと心配してくれてるの?」
「は、はぁ!?そんなんじゃないわよ、馬鹿じゃないの!!」
勢いよく椅子から立ち上がった。顔を赤くして叫ぶ。
のどかちゃんはこれがあるからいいんだよなぁ。
多分これがツンデレってやつなんだろうけど、本気で嫌がられるのもなかなか悪くないね!
思わず大声になってしまったのどかちゃんを他のクラスメイトが見る。
注目されたことに気づき、恥ずかしそうに静かにまた自分の席に着いた。
俺はへらっと笑い身ぶり手ぶりをしながら答えた。
「冗談だよー。でも……俺は早苗ちゃんがしたいように、しばらくは付き合ってみるつもり。」
「……なにそれ、意味わかんない。」
「のどかちゃんもそのうちわかるよ。」
のどかちゃんだけじゃなくて他の役員もきっと、早苗ちゃんと会って話したら来てくれるようになるのではないか。
面倒ごとが嫌いな俺でさえ、なんだかんだ手伝ってしまっているのだ。みんなも変わる気がする。
俺の気持ちをのどかちゃんに伝えたところで、もう一つの用事。
「……あと、全然関係ない話になるんだけどさ!」
「?」
「日本史のノート貸してくれない?」
「はぁ?」
……どうしても借りなければいけないのだ。
のどかちゃんから。
「いやー、次の時間日本史なんだけど予習してなかったから……。あの先生俺のこと気に入らないのか毎回指名してくるんだよね。」
「なんで私なのよ!他の人に頼みなさいよ。」
頼めばいくらでも貸してくれる人はいる。他のクラスに友達がいないわけでもない。
自分で言うのもなんだけど人望もそこそこある。
けれど、のどかちゃんから借りなければいけない理由があるから。
「なんでって……のどかちゃんのがいいからに決まってるじゃん?」
「っ!な、あっば、馬鹿じゃないの!?もう……つ、次は貸さないからねっ!今回だけなんだからっ!」
そういって不器用に俺にノートを押しつけた。
ホントあまのじゃくだなぁ。
借りられるものなら日本史のノートじゃなくてもよかったのだが、のどかちゃんのノートは見やすいので、これは単純に嬉しい。
目的も達成できて、予習にもなる。
「あははっありがと!」
あまり長居してももっと怒らせてしまいそうなので、俺はのどかちゃんのクラスから立ち去った。
俺が教室を去る頃にはもう他の生徒たちの興味は俺たちにはなくなっていた。
そういえば六組にはもう一人話をするべき相手がいたんだけれど、その事を俺はすっかり忘れていた。
会話させるの好きなので無駄話が多くなってしまいがち。削ってもまだ多いなんてことも多々あります。