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2-1 土屋のどか

文字数少なくしようと思いましたが、変わりませんでした。


余談ですが、6話くらいまで大まかには書き終わっています。書き終わったあとに主人公の性別を変更したため、一人称がもしかしたら俺になっている部分があるかもしれません。

 

「とりあえず、これが溜まってる仕事だよ。」


 生徒会室の一番奥、生徒会長の席についた私の前に唐突に綾部先輩が笑顔で大量の書類の束を置く。

 視界が遮られるほどだ。

 文字通り、書類の山。

 どすんと、紙が置かれたにしては重量が感じられる音も聞こえた。


「え!?こんなにあるんですか!?」


 そもそも私は会長の仕事がどういったものかもまだ知らない。

 意味もわからないこの仕事を片付けなければならないと考えると絶望感が絶えず湧いてくる。

 前の会長さん……椎名涼風(しいなすずか)先輩はできる人だったという話なので、こんな量であっても捌いていたんだろうな。

 私が嫌そうな表情をしていると、綾部先輩は不思議そうに覗いてきた。


「誰もやってなかったからねー?でもよくない?こんなに多い仕事に追われるなんて……ドキドキするよね!」


 少し照れながら言っている意味がわからなかった。

 綾部霞(あやべかすみ)先輩は所謂マゾヒスト。

 黙っていれば顔は整っているし、柔らかい雰囲気。ピアスが多いのが気にはなるが誰が見ても好青年だろう。

 しかし基本的に痛めつけられるとか苦しめられることに快感を覚えるようだ。

 まだ、綾部先輩と会ってから日が浅いがこの人が相当残念な人だということだけは理解できていた。


「ちょっと先輩黙っててください……。」


 先輩と真面目に話していたら頭が痛くなりそうだ。


「え〜、ひどいなぁ。でもこれはいいよ、俺が片付けるから。早苗ちゃんはこれをやってる場合じゃないしね。」

「え?」


 これをやっている場合じゃないというのはどういうことだろうか。

 綾部先輩は自分の席に着くと、私の目の前に置かれた書類に手を伸ばし仕事を始めた。

 書類に目をやりながら話を続けてくれた。


「君の当面の目標はここにある仕事を片付けることじゃなくて、役員を集めることだから。」

「うーんと・・・?」

「生徒会役員全員揃わないと現状の打開も難しいわけで。」

「すんません、どういうことですか?」


 私に理解力がないせいか先輩の言っている意味がわからない。

 先輩は一旦手を止めて天を仰ぎ、うーんと考えてくれている。

 先輩が考えてくれている間、じっと待つ。


「早苗ちゃんはなんで自分が代理になったかはわかってるよね?」


 私が会長代理になった理由。

 それは最初に委任状を渡されたとき椎名先輩に言われていたことだろう。


「……この学校の現状がおかしいから、変革を起こしてくれって……。」


 ふふっと綾部先輩が軽く笑った。

 確かにこの文章だけ聞くとスケールがやたら大きいし、現実離れしている感じがする。

 しかし、別にこの言葉は私が考えたわけではなくて実際に言われたセリフだ。

 嘘くさいのは否めないが、事実な訳で。


「ああ、笑ったりしてごめんね?聞いてはいたけど、本当にそんなこと言われたんだと思ったら面白くなっちゃった。」


 確かにおかしいセリフだしな……と素直に思った。 


「涼風くんが望んでいるのは学校の変革。たぶん現状が悪化しているのに耐えられなくなったんだと思うんだけど。でも、変革って言っても漠然としてるっていうか……。」

「確かに。」

「だから早苗ちゃんがしなくちゃいけないのは、生徒会役員を集めることってわけ。例えば部活予算で問題があれば会計が監査するし、校内の規律が乱れれば風紀が取り締まるし……って感じで。みんな集めないと何も始まらないっていうか。」

「ああ、なるほど。それぞれに仕事があるってことですか。」


 つまり各分野においてプロフェッショナルがいるから問題が起きれば彼らに頼んで解決しろということらしい。

 なんとなく理解できてふむふむと頷く。


「そうそう!そんな彼らを集めるのがしばらくの早苗ちゃんの仕事!俺みたいに面倒くさいって理由で来ないのかもしれないけど、みんな個性的だから集めるの大変だろうな〜。」

「え……他にも綾部先輩みたいな人がいるんすか!?」


 綾部先輩も相当個性的だが、その先輩に個性的と言われる面々とは……。

 まだ会っていない生徒会役員は、この間説明を受けた限りではあと5人いる。

 副会長がもう1人と会計、書記、議長、風紀。

 ここに綾部先輩が5人増えるようなもんだと考えると今から頭が痛くなる。


「早苗ちゃん段々と容赦ないね……。というか俺そんなに変じゃないでしょ……。」

「え……?」


 本気でそう思っているように綾部先輩が答えたので思わず声をあげてしまった。

 驚きを隠せない私の表情を見て綾部先輩は少し複雑そうな顔をした。本当に自分が普通だと思っているんだこの人。

 普通っていうのは私みたいな何の取り柄もなくてどこにでもいそうな人のことを言う。

 先輩みたいに容姿がいい時点で普通じゃないし、痛めつけられて喜んでるなら尚更だ。


「………………まあその話はもういいや!次、誰呼ぼうか?全員一斉に呼ぶのは無理だと思うから……早苗ちゃん呼びたい人とかいる?」

「えっ!?」


 呼びたい人……と言われても綾部先輩以外の生徒会役員にあったことがないので特別呼びたい人というのは存在しない。


「えーと……誰とも会ったことないと思うんですけど……。えー……綾部先輩が副会長なので次は……書記とか?」


 正直誰でもいいのだが、ぱっと思いついた役職が書記だったのでそれを口にした。


「のどかちゃんか!いいんじゃない?じゃあ呼んでくるよ!」

「え、は!?」

「待っててー!」


 そういうと先輩はすくっと立ち上がり勢いよく生徒会室を飛び出していった。

 何も今すぐじゃなくても……。







「連れてきたよ!」


 生徒会室で静かに待つこと数分。元気に綾部先輩が入ってきた。

 綾部先輩に腕を掴まれて、引きずられるようにしてここまできたのは女子生徒だ。小柄で細身、色素の薄い髪色に短髪、ストライプのタイツを履いている。

 しかし一番気になるのは表情だ。その眉間にはシワが寄っていて心底嫌そうな顔をしている。つり目がちな目で綾部先輩を睨んでいる。

 今にも怒り出しそうな。

 綾部先輩の周りにいる女子にはないタイプの人なのではないか?大体綾部先輩のファンクラブの人たちは、とびっきりの笑顔でいかにも女子!って感じの人が多いからだ。

 そんな彼女からの第一声はやっぱり罵倒だった。


「もう、なんなのよ!?人をいきなり連れてきてっ!あと気易く触らないで!!」


 とうとう怒りが爆発したのか、勢いよく綾部先輩の手を払いのける。


「いやー……のどかちゃんいいね!その罵倒久しぶり!」

「うるさい、変態!!」


 相変わらずの綾部先輩に嫌気が差しているようだ。

 それにしても綾部先輩にここまで物申せる人も初めて見た。女子生徒は大抵綾部先輩の見た目にうっとりしてしまうから。

 先輩の性癖を知っているからなのかな。

 とりあえず、私が空気になってるので話しかけてみる。


「あ、あのー……?」

「っ!……どちら様?」


 すると彼女は眉間に皺を寄せたまま私の方を見た。どうやら私の存在に今まで気づいていなかったみたいだ。

 人に睨まれるような経験もないので少しびくっとする。私の存在を不審に思っているようで少し緊張してしまう。


「あ、一年の三浦早苗……です。えっと、会長代理で……。」

「はあ代理!?ちょっと綾部、どういうことなの!?」


 彼女はとても驚いたように振り返り綾部先輩を睨みつけた。

 それでも綾部先輩は飄々としている。


「どういうって……早苗ちゃんが言った通りだけど?」


 何に驚いているのかわからないといった様子だ。


「あいつはどうしたのよ!?」

「あいつって涼風くんのこと?」


 椎名先輩は三年生だったはず。その先輩に向ってあいつとは。

 逆に綾部先輩は、三年生に向って君付けで呼んでいる。

 関係性が曖昧だ。


「詳しくは俺もわからないよ。ただ“しばらくは僕の代理を頼んだから、ごめんね”って言われて。それ以降涼風くんに会ってないし。」

「そんなの私聞いてないんだけど。」

「うーん……俺にしか言って行かなかったみたいだからね。その時にみんなにも伝えておいてって言われたし。他の役員にもそのうち伝えるよ。」

「……なにそれ。」

 さっきまでのイライラした様子から一変して少し悲しそうな表情に変わっていた。

 彼女は俯き無言になる。

 特に理由はないけれど、泣いてしまいそうだと思った。


「早苗ちゃんごめんね、置いてきぼりだねー?」


 いきなり私の方を向いて笑顔を向けた。

 置いてきぼりなのは結構前からなのでいまさら気にはしていない。


「いえ別に……。」


 そういえば自己紹介が途中だったよねと綾部先輩が言い、連れてきた女子生徒に手を向けた。


「えっと彼女が書記の……。」

「……二年六組、土屋(つちや)のどか。」


 綾部先輩の話を遮るように彼女……土屋先輩は自分の名前を呟いた。

 先ほどの様子は気のせいだったのか、もう一番最初に会った時のような気の強さを醸し出していた。無愛想にこちらを向く。

 あまり睨まれた事がないことと、どちらかというと気は強くないのでびくっとしてしまう。


「よ、宜しくお願いします。」

「……。」


 苦笑いで挨拶をするが、土屋先輩からの返答はない。


「あの、書記の仕事って……?な、何をするのかなー……なんて。」


 とりあえず何か会話をと思い、仕事の話を振ってみる。自分の会話のボキャブラリーのなさには泣きたくなる。


「……そのままよ。会議で板書されたやつを写したり、聞いたことを速記したり。何を話し合ったか先生に一応報告があるから。」

「なるほど……。」


 いやいやながらにもきちんと答えてくれた。

 その間に先輩と目は合わなかったが表情は曇ったままだ。


「単純な仕事だから誰にでもできちゃうし、私じゃなくても別にいいでしょ?」

「え……?」

「そんなことないよー。のどかちゃん字綺麗だしさ!」

「うるさい。いいのよ私なんかじゃなくても……どうせ全部椎名一人でやってたんだから。」

「仕事ができる人だったんですよね。」

「……そう。あいつ全部1人でできるんだから、あんたも頑張れば?私はもう行くから。」

「えっあ!土屋先輩!?」


 踵を返し、生徒会室から足早に出ていく。その姿はどこか寂しそうに見えた。

 そんな背中を見守っていた綾部先輩が口を開く。


「……行っちゃったね。」


 なんでみんな生徒会室に来たがらないのか。


「そんなに生徒会の仕事が嫌なんですか……?」


 あれだけ頑なに嫌がっているのを見ると相当嫌なのではないか。そんな嫌がっている人に仕事をしろっていう私は相当嫌な奴に見えているに違いない。

 さっき土屋先輩に嫌そうにされたのもそれなら納得がいくし。

 単純に、私の頭の中ではそれしか考えられなかった。

 私の方をちらりと見た綾部先輩は苦笑いだ。


「……違うと思うな。」

「じゃあなんでみんなここに来たがらないんですか?」

「前も言ったと思うけど、みんなが来ない理由。簡潔に言うと仕事がないから。よくわからないけど仕事は基本的に涼風くん一人でやっちゃうし俺ら必要ないっていうか。のどかちゃんも言ってたよね、椎名全部やっちゃうからって。だから、のどかちゃんがここに来ない理由もそんな感じなんじゃないかな?」


 全部会長さんがやってしまうから。

 だから生徒会にはみんなは必要ない?


「必要ない……なんてそんなことないです。」

「?」

「前のことはよくわかんないです。見てたわけでもないし。でも私は先輩たちみんなが揃わないと困ります!前の会長さんみたい仕事できるとも思えないし、迷惑かけると思うし……。」


 それはそもそものスペックの違いもあるかもしれない。

 会長さんは所謂出来る人だったのだろう。

 けれど私なんか入学したばっかりで、学校のことも先輩方より詳しくないし、仕事も何をやればいいのかわからない。もともと要領のいい方でもない。

 どう考えても一人じゃなにもできないのだ。


「早苗ちゃん、それ本音?」


 不思議そうな表情をして私に問いかけてくる。


「え?」


 何か変なことでも言っただろうか。


「早苗ちゃんは生徒会から早く抜け出すために役員集めてるんじゃないの?」


 確かに。

 私は別にやりたくてこの仕事をやっているわけではない。気づいたらなっていたというか押し付けられていたというか。できることなら早く前の会長さんに戻ってきてほしいのも事実だ。

 けれど。

 きっと私にしかできないようなことも、もしかしたらなんて考えている自分がいる。


「いや、その気持ちがないって言ったら嘘になります。なんで私が代理に選ばれたかとかよくわからないこともいっぱいありますけど、やっぱり任されたからには適当にやるわけにはいかないじゃないですか!」


 期待されているならできるだけ応えたいと思うのが普通じゃないだろうか。


「……そっか。」


 どこか、すっきりしたような顔だ。

 私にはその表情の意味がわからなかった。


「……綾部先輩?」

「あはははっ!やっぱり早苗ちゃんは変だ!」

「なんでそうなるんですか!」

「いやいや、いい意味でだから!早苗ちゃんはそのままで大丈夫だよ。きっとのどかちゃんも来てくれるようになる!」


 綾部先輩はいつも私の事を変だと言う。そんなに変な事してるのかな。


「……そうですかね?」


 そうなればいいな、なんて暢気な事を考えていた。







続きは明日か明後日だと思います。

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