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1-2 綾部霞

新キャラ登場。


1話は全部書き終わっているので、続きは今日か明日。

 

「三階に上がって左側、あそこが生徒会室だから。」


 先生の後について歩いていると普段あまり来ない別校舎の奥まで連れてこられた。

 一階や二階は音楽室や理科室などの特別教室で占めているので授業や部活で使用するが、それ以外では目的がないのでほぼ来ないのだ。

 放課後のこの時間だと比較的生徒が賑わう時間のため、楽器を運んでいる生徒何人かとすれ違った。

 しかし、三階は生徒会室の他は準備室やら物置になっているような部屋、何に使っているかわからない教室しかないので人の姿はない。

 その割には清掃も行き届いていて、一般校舎と見た目はなんら変わりない。

 生徒会室のすぐ横にある階段の下から賑やかな声も聞こえてくるので特別人が少ないことが気になることはない。

 先生が生徒会室の前で立ち止まり、私の方を振り返った。


「基本的に役員以外はこの部屋に出入り禁止だ。」


 どうやら人が来ない理由はこのあたりも関係してくるのだろう。


「まあ、役員もあんまり来ないけどな。」

「……来ない?」


 ぼそっと独り言のように呟いた先生の声も聞き逃さなかった。嫌なことを聞いてしまったと少し後悔する。

 あんまり来ないということは活動もあまり盛んではないということだろうか?

 それは私にとって嬉しいことなのか悲しいことなのか……。

 先生が生徒会室のドアに手をかけ、ゆっくりと扉を開く。

 ふわっと少し埃っぽい香りがした。


 中は普通……とは言えず通常の教室より少し大きいくらいの部屋なのだが、扉を開いてすぐにある2mはあるであろう本棚が壁にもたれかかって倒れていた。

 もちろん棚に立ててあったと思われる本やらファイルやらが棚と壁の間で山になっており、床には書類らしきものが散らばっていた。

 まるで空き巣にでも入られたかのような惨状だ。


「汚っ!なんですかこれ!?」


 しばらく人が立ち入ってなかったためにこんなことになっているのだろうか。それにしても汚すぎる。


「おかしいな、昨日は普通だったんだが……。」


 先生は不思議そうにその山を眺め、生徒会室に歩みを進めた。

 先生のあとについて生徒会室入る。書類を踏んでしまってはいけないと思い、足元に集中しながらゆっくりと歩みを進める。

 そのせいで良くは見えなかったが、山になっていた本がもそっと動いたような気がした。先生は生徒会室の奥に進んでいってしまったので今の異変には気づかなかったようだ。

 奇妙に思い私は恐る恐るその山に近づいてみる。

 動いた気がした場所に乗っている本を二、三冊拾うと、その下に分厚く重そうな辞書が顔を出した。どかそうと手を伸ばした瞬間、山の中から出てきた何者かの手に腕を掴まれた。


「ぎゃあああああああああああああ!」


 思わず女子とは思えないような奇声を発し、その手を振りほどこうと動かす。

 いきなりの私の奇声で驚いたのだろう。視界の端に見えていた先生がびくっとして足を棚の角にぶつけていた。

 ごんっという重い音が響く。

 痛がって、もがいている姿が視界の端にちらついているがそれどころではない。

 山がばさばさと崩れると中から男子生徒が出てきた。


 髪は襟足が少し長く、薄い茶色。左耳にのみピアスがついておりざっと見ただけでも5つはついている。少し大きめのカーディガンを着ており、指定のネクタイを襟元で何故かリボン結びにしている。

 一見すると不良生徒のように見えなくもない。

 まあ私も制服のジャケットではなくパーカーを着用している時点で、服装に関してはあまり真面目さを感じられないので人のことは言えない。


「うへぇ、苦しかった……。」

「なんだ綾部か。驚かすんじゃねえよ……。こんなに部屋汚してなにやってんだ。」


 先生はぶつけた足が気になるのか眉間に皺を寄せながら足をさすっている。どうやら先生はこの生徒のことを知っているようだ。

 この部屋にいたということは生徒会役員なのだろうか。


「いやいや、棚の上にあがってたもの取ろうとしたら棚が倒れてきちゃって。」

「……それは倒れたんじゃなくて、倒したんだろ?」


 先生は訝しむように腕を組み彼を見た。

 私には言っている意味がよくわからない。


「あはははっそんなことない、不可抗力だよ~?」


 綾部と呼ばれた男子生徒はにこにこしながら答える。


「……そんなことよりちょうどよかった、生徒会長が委任状を……。」

「知ってるよ、本人から聞いたから。」


 先生は少し驚いた表情をした。


「他の役員も知ってるのか?」

「多分知らない……かな?他の役員にも伝えてくれって言われたから。」

「そうか……。で、こいつがその張本人。」


 そういうと先生は私を指した。話はよくわからなかったが、話題が私のことになったのはわかった。

 二人の視線がこちらに向く。じっと見られ、少し緊張する。とりあえず自己紹介でもすればいいのだろうか。


「一年の三浦早苗です……。宜しくお願いします。」


 ぺこりと頭を下げ、男子生徒を見ると驚いた顔をしていた。

 何か変なことを言っただろうか?

 まじまじと私の顔を見る。じっと見られ、恥ずかしくて視線を逸らす。


「……?な、なにか?」

「いや、え?……女の子だよね?」

「は、はい。女の子です?」


 そんなことを聞かれるとは思わず、疑問形で返してしまった。スタイルはよくはないけれど、男子に間違えられるほど凹凸のない身体はしていないと思っていたのに。

 彼は困ったように笑った。


「……いやいや、すみません。代理を頼むってしか聞いてなかったのでてっきり男子に頼むのかと思ってました。俺は二年の綾部霞(あやべかすみ)です。一応生徒会副会長です。」


 私が後輩なのにも関わらず、微笑みながら優しく敬語で話してくれた。見た目とは反して礼儀正しい人なのだろうか。

 先生がちらりと生徒会室のホワイトボードの上にかけてある時計を見る。


「あー……俺、職員会議あるから行かなきゃ。お前らとりあえず今日中にこの教室を片付けること、いいな?」

「はーい!」


 とても元気よく手を挙げ、綾部先輩が返事をしたのはいいのだが……。

 ……え?私もやるの?







「えーと、これはどこですか?」

「そのファイルは、月ごとに並べて棚の二段目ですね。」


 とりあえず倒れていた棚を元の位置であろう場所に立て、下に散らばっていた書類やファイルを棚に戻す作業。

 私が脚立に上り、先輩から渡された書類を順番に並べていく。

 どの資料がどこにあったかのか、どれが重要な書類なのかがわからないため、綾部先輩に言われた通りに棚にしまう。


 さっきはピアスも多いし、髪も人より長いため不良のような人かと思ってしまったが、話していると違う印象を受ける。

 柔らかい雰囲気に人当たりのいい性格で、見た目とは打って変わって優しい人だ。顔を見ればまつげが長いし、芸能人と言っても差し支えないくらい整った顔立ちをしている。

 何もかも普通の私にとって、不平等さに少し腹立つ。


「綾部先輩……。」

「……?なんですか?」


 そんな関係のないことを考えていたら思わず先輩の名前を口に出してしまっていた。


「す、すみません!なんでもないです!」


 視線を泳がせて顔を背けた。

 綾部先輩は不思議そうな顔をしていたが、何か思いついたように話すのを続けた。


「……ああそうだ!君は代理といえど会長なんだから俺含む役員に対しては敬語じゃなくてもいいですよ?」


 会長だからといって先輩に対して敬語じゃなくてもいいのだろうか。確かに会社なんかは年齢よりも役職で上下関係が決まっていると聞いたことがある。

 それが普通であるかのように話すが、私にはそんなことできない。ついさっきわけもわからないまま委任されて、威張っていい立場だとは思わない。


「いえ、先輩ですから。綾部先輩の方こそわざわざ敬語じゃなくていいですよ。私一年だし、なんか違和感があるっていうか……。」

「……変わってるね。じゃあそうさせてもらおうかな、うーんと早苗ちゃんでいいかな?」

「はい。」


 綾部先輩はとても不思議そうな顔をしてそう言った。特に変わったことをしたつもりはなかったのだが。

 そもそも私がちゃんとした敬語を使えている自信がないので、そんなに畏まられても困るというか。


「そうだ、わからないことがあったら今のうちに教えるよ?」


 わからないことだらけで何がわからないかがわからなかったがとにかく何か聞いてみる。


「えっと……あー、他に生徒会役員さんってどのくらいいるんですか?」


 この書類はそこにいれて、と作業をしながら先輩の話を聞く。


「副会長が俺の他にもう一人いて、書記、会計、風紀、議長が一人ずついるよ。みんな二年生。」

「今日は来てないですよね?」


 そう、不思議に思っていたこと。

 さっき先生も言っていたがあまり生徒会室に来ないという情報。毎日は来ないにしても先生があまり来ないなんて言うってことは相当来ないのであろう。

 うーん……と綾部先輩が首を捻る。


「会ってないから来てないかもね。」

「来ないんですか?」

「どうだろうね、わからないや。みんな気分で来るみたいなとこあるからね。そういえば全員揃ったのって最後はいつだったかな……。」

「え!?」

「結成した時には全員集まったけど、その他の行事も誰かしらいないから。」


 笑ってそんなもんだよ、と綾部先輩は言った。

 活動に気分もなにもないと思うのだが。なんだか自由すぎやしないか。


「それに俺含めだけどあんまりここに来ないから。」


 随分と堂々としたサボリ宣言だ。悪びれる様子は一切ない。


「なんでですか?」

「……?来ても仕事がないからだよ。」


 まあ確かに仕事がないのに来ても意味がないというのはわかるけど……。

 生徒会ってそんなに仕事がないものなのだろうか。いやでも生徒主体になって動くこの学校のシステムからして、生徒会が暇だというのは考えにくい気がする。

 眉間に皺がよって考え込んでいる私の顔を見た綾部先輩は何故か笑った。


「ああ、ごめんね?仕事そのものがないって意味じゃなくて……前会長が仕事できる人だったからさ。」


 前会長とは椎名先輩のことだろう。


「ん?じゃあ仕事あるんじゃないですか?」

「えーと“俺たち役員に回ってくる仕事がない”っていうのかな?前会長は出来る人だったから一人で十分回せたっていうか……。」

「へえ……?」


 確かに今までの学校生活の中で生徒会長は入学式や総会なりで見かけていた気がするが、他の役員を見た記憶はほとんどない。

 そんな、一人でほぼ全ての仕事をこなすような人の代わりなんて私にできるのだろうか。いや、どう考えても絶対できないだろう。

 仕事ができないから誰かに代理を頼むならわかる。しかし、仕事ができるのに代理を頼むとはどういうことだろうか。

 それと、他の生徒会役員は私が生徒会長の代理をやることをなんとも思わないのだろうか?


「はい、じゃあこれはそっちの奥の棚ね。」

「!は、はい……っと!?」


 見た目の割に重いファイルを渡され脚立に登っている私はバランスを崩しそうになり、不意に渡されたファイルを手放してしまった。

 自分はなんとか体制を立て直し、脚立が倒れることはなかったがバサバサと音を立てて書類が散らばってしまった。

 そして私が手放してしまったファイルは綾部先輩が顔面で受け止めていた。

 当の綾部先輩は顔面に当たった衝撃で床にしゃがみこんでいる。


「ああああ!?すみません、先輩!!だ、大丈夫ですか!?」


 言っておいてなんだが大丈夫なわけがない。

 片手で持つのもしんどいくらいの重さのファイルを顔面で受け止めた時の衝撃は想像もつかない。


「……っと。」


 綾部先輩が小声でなにか呟いた。きっと怒っているのだろう。

 なんでちゃんとファイルを受け取らなかったのかとか、これだったらお前が脚立倒して落ちたほうがマシだったとか、何を言われてもそうですねとしか言いようがない。

 綺麗な顔に傷でもついていたらと思ったらぞっとした。

 取り返しのつかない事態になる前に土下座でもなんでもしつこいくらい謝っておいたほうがいいかもしれない。

 これからどれくらいの付き合いになるかわからないが、最初から険悪なムードで活動なんかごめんだ。

 とりあえず脚立から降り、顔に手をあてて俯いている先輩に近づいた。


「……先輩?あの……。」

「もっと!俺をいたぶってくれていいんだよ!?」

「…………は?」


 今、予想していたどの言葉よりも予想外の返事が来た。

 いやいやいや。

 聞き間違いかと思い、一応……念のため、確認の意を込めてもう一度聞きかえす。


「せ、先輩?」

「あぁもう痛い!たまんないよ、快感!さあもっと!叩いて!」


 聞き間違いじゃなかった。

 訳もわからないうちに入った生徒会で初めて会った副会長は顔の整っているだけの残念な人だったなんて。

 先輩は先ほど私が落としたファイルを再び持つと差し出した。


「早苗ちゃん……もう一回お願い!」


 目を輝かせ、若干照れながら私に行った。


「打ち所が悪かったんですか?」

「何が?もともとこうだよ!」


 甘い言葉を吐かれれば女の子はときめいてしまいそうな表情の先輩だが、セリフが残念過ぎる。

 さっきまで焦った表情の私だったが自分でも驚くくらい冷静さを取り戻し、今やもう無表情だ。


「先輩それ以上言ったら近づかないでください。」

「早苗ちゃん言葉の暴力とかひどい!けど嬉しい、ありがとう!」


 なんかもうだんだんと遠慮とかなくなってきている自分がいる。

 先輩もそういうことを気にしないタイプというか……。


「その調子で敬語もやめてくれていいんだけど?」

「綾部先輩もしかして後輩に嘗められて喜ぶタイプですか?」

「よくわかったね!」

「……じゃあ遠慮しておきます。」


 この人正真正銘の変態……というかマゾヒストだ。偏見を持つのはよくないが、先輩は気持ち悪い。

 私の中での先輩の株が急降下した。

 優しくていい先輩だって思った私の気持ちを返してほしい。頭が痛くなってきた。

 ふいにさっき先生が言っていた言葉を思い出した。


「「倒れたんじゃなくて倒したんだろ?」」


 という言葉。

 はっとして私は棚に目をやった。


「ま、まさか先生が言ってたのって!先輩、この棚わざと倒して……。」


 わざと自分の方へ棚を倒して、痛みを味わい快感を楽しむという高度な技術。

 さっきの先輩の行動を見ていたらあながちこの考えはあたっているのではないか。

 そういうと先輩は少し不機嫌そうにむっとした。


「流石に俺でもわざと棚を倒そうとは思わないよ。」

「あ……。」


 さすがにそこまで変人ではないらしい。


「そうですよね、疑ったりして申し訳……。」

「棚の上に積んであった低温蝋燭を取ろうとしたら倒れてきただけ!」

「その低温蝋燭で何しようとしてたの!?ってかそもそも生徒会室になんで低温蝋燭があるの!?」


 どやっと聞こえそうな顔で胸を張って先輩が言った。

 思わず敬語じゃなくなるくらい、つっこみが追いつかないんですけど。







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