第5話 ブラックスロット その終
「必勝法…………!?」
進藤がとんでもないことを言い出す。
「まぁ、“必勝”では無いですが、この方法で4点一気に取り返しました………!」
「……いいね、勝てる可能性があるものは何でも試してやる……!」
進藤の必勝法というのは、“音”である。
「………おい、音って、え?、俺無理じゃない?、進藤君みたいに耳よくないし?」
「大丈夫です真島さん、“鳴る音”は相当大きいです!タイミングと真島さんの理論を組み合わせれば………!」
進藤の必勝法とは、酉か卯のどちらかを確認した上での方法であり、指定された一箇所のリール以外、回りが非常に遅くなる“運営側のイカサマ”を知っている事が前提条件である。
つまり、このゲームの正攻法では無いのであるので、蘭条が焦るのも当然だ。
「早速教えますよ、“まず酉の場合は右2桁を、時間をかけてもいいのでなるべく大きい数字で揃えてください。”」
「そんなことできるのか?指定されたリール以外は“動かないんじゃなかったのか?”」
「蘭条が、“動かないリールを動かしたこと”で惑わされてるんですね、それは間違いなんです。“動かないんじゃなくて、非常にゆっくりなんです。”」
「…………………!しかし、蘭条が俺との勝負の時は、9,8,7から9,7,6、つまり下2桁が、“ほぼ一回転”しているんだぞ?蘭条はそんなに待った記憶が無い………!ほんの2,3秒程度の感覚だった………!」
進藤が真島に向けて指を指す。
「そこです、真島さんは“指定されていないリールも指定されたリールと同じく上回転していると勘違いしてるんです。”」
「………っ!進藤君が言いたいことは“指定されていないリールは下回転、9,8,7と下がっていっている”と言いたいんだな……?」
「そうです……!俺はそう推測しました、そして、その無茶な設定から来る“機械のガタ”を利用するんです!」
指定されたリール以外、下回転になると言う無茶な設定と、出た数字以外は他のリールでは出ないと言う未知の設定や、連戦による機械のガタ、その全てが結集し、“既に揃えた数字が指定されたリールの数字の場所で異音が鳴ってしまう”と言う不具合を起こしていた。
「つまりどうゆうことだ………?」
「酉と指定されたなら、“指定されていない2つのリールを揃えます、例えば8,7を揃えるとします、そうしたら指定された一番の左のリールの8,7を通過するときカッ、カッ、と異音がするんです。”」
「じゃあ、指定されたリールだけ上回転だから“7,8と連続して異音がする次の場所でタイミング良く打てば良いってことだな!?”」
真島も進藤の必勝法を理解した。
そして、ついにブラックスロットの最終決戦が始まろうとしていた。
____20分後
一人目の挑戦者が再び敗れ、真島の順番が回ってきた。
2周目は、立候補制ではなく、934以上の得点を出した者順だった。
「真島さん、頼みますよ!」
「………ああ。」
“今までの堕落したゴミみたいな生活に戻ろらないために、こんな予選如きで負けるわけにゃ行かないんだよ………!”
「また会いましたね!よろしくお願いします、真島様。」
「そうだな。」
素っ気ない挨拶を交わし、蘭条とがいつも通りに
「私から先行でよろしいでしょうか?」
と真島に聞いてくる。
「いや、“俺が先行で行かせてくれ。”」
『あぁ?どうゆうことだ?運営のイカサマを知ってるんだったら“後攻を選んだほうが指定リールがわかるだろ!?”』
蘭条は真島と一回の戦った時に、“こいつ運営のイカサマを見抜いてるんじゃないか?”と言う疑念を抱いていたのだ。
その疑念が確信となったのは、“進藤との勝負”だった。
『進藤ってガキと真島が組んでるのはひと目でわかった、そして進藤はわざとらしすぎなんだ…………!無理やり俺と競っているようにして“1点”だけずらして4点取り返しやがった………。しかも、俺と真島が戦っている時に聞き耳立ててたことも知っている…!、、、、しかし、何故だ?俺が先行で、指定リールを確認しないと真島に成すすべはないはずなのだが………?』
「ふぅーーーーーーーーー。」
大きな溜息をつく。
そして、ドカッっとスロット前に座り込む。
『蘭条をわざわざ動揺させるために先行を選んだ……、間違いだとは思わない、だが指定リールは分からないまま、………蘭条は今までの通りに行くと“一手目は酉”が定石だ………。しかし2周目の一回目の戦いで一手目は“卯”だった………、だから俺は…………。』
真島がスロットに座った時進藤は驚愕していた。
「真島さん………!やばいですよ……!」
蘭条とスーツの話の中で新しい単語が出てきていた。
初戦は“子”で行け………………と。
「いくぞ..........。」
最初のリールの数字は1,1,7。
『ここで外せば、出鼻をくじかれ俺が精神的に蘭条に勝てる場面が絞られてしまう......、だから、蘭条の出鼻を逆に挫くっ!』
やがてリールが暗転し...........
真島藤十郎、運命の2週目、運命の1回目が始まる。
「気付くわけがない....!あいつはまだ"子"を聞いたこともないし、聞かれていない....!真島藤十郎.....!お前の"本当の実力"を見せてみろ...!」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」
息が荒くなる、心臓の音が周りの喧騒の音をもかき消すような爆音で、ばっくんばっくん鳴っている。
リールが完全に暗転した。
真島は直ぐにボタンを押さずに、少し時間を置いた。
2,3秒経っただろう、真島がスロットのボタンに手を伸ばす。
『蘭条は、1週目の一手目はすべて"酉"だった、しかし2週目は手順を変え一手目から"卯"......、2回目の俺は.......。
カチッ
カチッ
真島は真ん中のリールだけ残し、両サイドの数字を揃えた。
『真ん中が"指定リール"だ......!1週目で酉、2週目の最初は卯、普通に考えれば次も"卯"、だが、そんな"平凡な"考えをするはずがない、こんなイカれたスロットをつくる奴らがだ....!だから、先行を取られることをきっと予想していなかったはずだ..多分俺が後攻に回っていたのなら、卯のままだっただろう、俺が先行を取ったことで、"真ん中にせざる負えなかったんだ"!』
真島の予想は的中した。
「なにっ!!??」
蘭条とスーツの男達は明らかに動揺し、進藤は興奮気味だった。
「真島さん...!凄すぎるぜ.....!」
『だが、ここからなんだ、ここからが"勝負なんだ"。俺は今百の位と、一の位を揃えた、きっとタイミング通りに行っていれば、9と6になっているはず....。ここで十の位で8を出さなきゃ安心できない。』
しかし、緊張で震えが止まらない、呼吸がしにくい。
感覚を研ぎ澄ませろ、一点に、この"目の前のブラックスロット"に集中しろ。
「ふぅ、ふぅ、はぁ、はぁ。」
段々神経が研ぎ澄まされていくうちに、リールが回る音が、少しづつ大きくなっている気がした。
.....カ........カ....カ..カ.カカカカカカカカッカカカッカカ
確かに異音が聞こえる、しかし、早すぎる、タイミングがつかめない。
『まずい、焦るな、もっと集中しろ...!』
リールの異音がするのが9と6であるはず、だからその間の異音のないリールの数字は7と8、つまり十の位で8を出すには、一度目の異音がした途端に7か8を聞き分け、合わせなければならない。
『間違えても、二度目の異音の後に押すなよ.....!』
カカカカカカッカカカッカカカカカカッカカカッカカカカカカッカカカッ
自分を追い込めば、追い込むほど、自分が窮地に陥れば、陥るほど.......
人はその集中している"一点"の極致へ達することができる。
カ、カ、カ、カ、カ、カッ、カ、カ、カッ、カ、カ、カ、カ、カ、カッ、カ、カ、カッ、
カ、カ、カ、カ、カ、カッ、カ、カ、カッ、カ、カ、カ、カ、カ、カッ、カ、カ、カッ
『なんだ....これ、スロットが遅くなったのか...?いや違う、俺の感覚が、通常時を超えて、"世界が遅く見えているのか"...!』
"ここだ。"
真島がスロットのボタンに手を伸ばす。
カチッ
『これで外せば、俺は多分負けるだろう、だが、この一手目は.......』
数字が開示される,,,,,,,,,,,,
986
「俺の勝ちだ。」
第6話 予選を終えて へ続く