第一話 海の星 B話
注意:この物語は選択型小説です。物語の節目に選択が出てくるのでお好きな方へとお進みください。
少しだけ特殊な小説になります。
「逃げよう、外は嵐だから痕跡は残らない」
そうとなれば悠長にしている時間はない、翻して裏口の方に駆ける。
アカネは弓だけを手元に取る。
「セカイ、あと何秒だ?」
逃げる準備を悟られるわけにはいかない、明かりもこのままにして裏口から抜けたのを一秒でも遅く悟らせれば、それだけ追跡の行動は遅れる。それに嵐の中だ、簡単には追ってこれない。だが、その条件はこちらも同じで嵐の中では不足な事態に陥る確率が高くなる。
「解。二十一秒です、この拠点を放棄するなら食器などを散乱させることを推奨します。こちらの人数の情報を与えないことは最も重要です」
目に着くとこにある食器や器を手あたり次第、床に散らかす。それと同時に濡れている服を火にくべる。逃げたことは床の温度などで確定で分かるのだから、余計な情報を与えてかく乱する。少し乾きかけていたので、火は勢いよく燃え上がる。
「いくぞ」
裏口から猪のように駆ける。
突風に吹き荒れる雨が身体を攻撃するが、それに構っている暇はない。
「近くに立て籠れる場所は?」
一輝はアカネに向かって言う、砂浜が濡れてかなり足が取られる。なかなかスピードがでない、この雨の中あまり外には長く居たくない。風と雨を凌げる場所があれば良い。
だが、アカネにはあてはなかった。襲われることが極端に少なくなっていたので油断をしていたのもそうだし、島の浜辺はかなり逃げつくした。もう、元の破壊された拠点に戻るわけにもいかない。過去いた場所は虱潰しで追ってくるであろう。
「ない!」
アカネは基本的には敬語だが、それでも焦ったり切羽詰まったりすると口調など安定しない。その様子は一輝も何となく気づいていたのだろう、直ぐに切り替える。
「街の方向に行こう」
走りながらアカネが焦ったように言う。
「馬鹿なの! そんなところに行ったら直ぐに捕まる!」
考える限り、愚策に思えた。
敵拠点に自ら足を踏み入れるなど危険以外の何ものでもない、だが一輝にはセカイがいた。敵の感知が出来るセカイがいれば周囲に敵対心を宿している者が近づいてくれば知らせてくれる。魔法なども使えるセカイがいれば基本的には安全だ。
それに灯台下暗しという言葉があるように賭けだが、まさか探している相手が近くにいるとは誰も思わないのだ。
「大丈夫だ、信用してくれ。必ず、守るから」
「否、一輝が守るんではないです。私が守ります、生存確率は街の方が計算的に高い」
少し恰好付けたのにそれを折ってくるあたり、ちゃっかりしている。
「分かった、じゃあここを右に行くわよ」
街になど基本的には出ない、捕まる恐れがあるのが一番あるが。そこに戻るのが一番精神的にアカネにとっては辛いのだ。いつも支援してくれる人は拠点の近くまで衣服などを秘密裏に届けてくれるので街に行く必要など更に無くなる。
嵐のおかげで島の住人たちは外に外出していることもない、なので簡単に街には入れたし。誰にも姿を見られることはなかった。知っている場所など元住んでいた屋敷しかないが、逃亡中に街並みも変化していた。
あったものが無くなり、新しい街になっていた。
今は屋敷はどうなっているのだろう。
数年ぶりに自分の屋敷に戻ると、そこはそのままになっていた。いや、人が住んでいないから劣化していつでも崩れてもおかしくない見た目だが、それであるから人は近づかないのであろう。最近屋敷に出入りした足跡の痕跡が少し見られたが、これは肝試しとかそういう類であろう。
「ここか?」
一輝が屋敷の玄関を触り、痕跡を調べながら言う。
「そうです、私が追われる者になる前にいた屋敷です」
「今更だが、なんで追われているんだ?」
真実を話すか一瞬躊躇する。それを話したら怖がったり、邪な気持ちが働いて私を売る。などと頭を過るが、一輝の顔を見るとそれの考えは吹き飛ぶ。先程、逃げるのに協力してくれたのだから今更疑っても仕方がないし、それに理由は明確ではないが何となく信用できる。
「私が、特殊な海歌だからです。海に触れたりしても何も起こらない、特異な存在だから、みんな怖がっているのです」
同じ者しか存在を認めないのはどこも同じだ、それが例え違う種族だったとしても心が通っている限り、特殊というのは悪方向にしか働かない。
それを聞いた一輝は首を傾げた。
「この島の住人は海歌という種族しかいないのか? 例えば、人間とか」
「人間? 聞いたことがない種族ですね」
「そうか……、セカイどう思う?」
セカイの身体は一滴も濡れてない、蒼い髪も身体も何かに弾かれるように走っている途中も雨がつかなかった。やはり本から出てくることから、特別なナニかなのだろう。
「解、情報不足で解答が不明慮になる可能性がありますが、あえて述べるなら。海歌種族は本来の生息地は海です。ここの島の住人が海歌ではないか、もしくは何ものかによって本来の生態を捻じ曲げられている可能性があります」
「何者の介入によってか……」
アカネには二人が何を言っているか理解できず、アカネの耳にはほとんど先程から会話の内容は脳に届いていなかった。キィィンという耳鳴りが脳に響く、今日の一日は最悪としか言えない、普段通りに狩りをしていたら死にけて、雨に打たれ、逃亡する。そんなアカネが精神も体力も全てが限界を超えていた。
バタッ、と音が聞こえてきた時にはアカネの意識はなかった。




