ゲゲゲの鬼太郎
「お客さん、お客さん、終点ですよ」
「ここは、どこ?」
「終点の、極楽霊園です」
聞いたことも無い、知らない駅名だった。どうやら、知らない路線に、間違えて乗ったらしい。俺は、かなり酔っていた。
「何時ですか?」
「1時ですよ」
「まだ電車あります」
「戻るんですか?もうありません」
「まいったなあ~~」
「終点ですので降りてください」
「ラクシーありますか?」
「ここは霊園なので、夜になると、ほとんど走っていませんよ」
「まいったなあ、始発は?」
「五時半です」
「五時半・・」
運転手がやって来た。
「お客さん、もうすぐ駅は締まりますよ。早く降りてください」
「降りろって、こんなところに?」
俺の他には、客は誰もいなかった。
「こんなところに降りたら帰れないよ」
「規則ですから、とにかく降りてください」
「まいったなあ~~」
「電車は締めますので」
「君たちは?」
「駅舎に泊まります」
「僕も泊めてくれない?お金は払うから」
「駅舎は旅館じゃありません」
「頼むよ」
「ベッドは二つしかないんですよ」
「どこでもいいから」
「しょうがないなあ、じゃあ、この電車に寝てください」
「どうもありがとう!感謝するよ」
運転手と車掌は、電車から出て行った。電車の外には、霊園の電灯が墓石を照らしていた。
「不気味だなあ~~」
春分の日だった。
「寒気がしてきた」
車掌が戻って来た。
「お客さん、毛布です、使ってください」
「どうもありがとう!」
人の情の温かさに、俺は涙ぐんでいた。
「自販機はホームにあります。電車のドアの鍵はかけてませんので、ご自由に」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
車掌は出て行った。
俺は長椅子に、靴を脱いで横になった。ショルダーバックを枕にして、毛布を身体にかけた。
「毛布だけでも温ったかいもんだ」
「ゲゲゲの鬼太郎が、運動会でもしてるのかなあ?」
ゲッ ゲッ ゲゲゲのゲ~~ 夜は墓場で運動会 ♪
「鬼太郎が、こんな山奥まで来るわけないよな」
「ここ、山奥かなあ?」
「住宅地のど真ん中だったりして」
「そんなわけないよな」
「住民が反対して、できっこないよな」
「くだらないこと考えないで寝よう」
「電車のドアの鍵はかけてないって言ってたなあ」
「オバケが入って来たら、どうしよう」
「鬼太郎や猫娘ならいいけど、知らないオバケはいやだなあ」
「幽霊のほうがいやだなあ」
ホームの電灯は点いていた。
「幽霊は明るいところには出ないって言ってたよなあ」
「電灯を消さないでくれよ」
カラスが、どっかで鳴いていた。
「夜中に鳴くなよ~~」
俺は上体を起こし霊園を眺めた。何かが動いていた。
「何だろう?」
「オバケかな?」
黒い物体だった。
「熊だ」
「何してるんだろう?」
熊は、お供え物を食べていた。
「なるほど、そういうことか」
「熊にとっては、ここは楽園ってことだな」
「熊が出るってことは、やっぱり山奥ってことだな」
「あ~あ、すっかり酔いが醒めちゃった」
「トイレに行ってこよう」俺は電車から外に出た。
「トイレは、だいたい駅の出入り口の近くにあるよな」
「あった、あった」
用を足すと、俺は自販機を探した。
「あった、あった」
「コーヒーは眠れなくなるな・・」
俺は、麦茶を買った。
「よし、これ飲んだら寝るぞ」
電車に戻った。座ると、俺は麦茶を飲んだ。
「ああ、おいしい」
熊は、いなくなっていた。
「さて、寝るか」
俺は、横になって、毛布をかけた。
「これで大丈夫だ。幽霊なんかいない」
「幽霊なんかいない、幽霊なんかいない・・」
「前の座席に座ってたりして」
「ははは、そんなバカな」
「どうして、こう余計なことばかり考えるんだろう、俺は」
「ラジオでも持ってくればいよったなあ」
「目を閉じよう」
俺は、幼い頃に、祖母と一緒に乗った、田舎のバスのことを思い出していた。
「あの頃は、ばあちゃんも元気だったなあ」
どうして、祖母のことを思い出しているのか不思議だった。
「洋一、洋一、わたしだよ」
「えっ?」
俺は目を開けた。
目の前の座席に、祖母が座っていた。
「ばあちゃん!」
「元気かい?」
「うん」
「奥さんとは仲良くやってるかい?」
「うん」
「母さんや父さんも元気かい?」
「うん、元気だよ」
「母さんは心配すると喘息を起こすから、心配させちゃあ駄目だよ」
「うん、分かってる」
「一生懸命に命をかけて、あなたを産んだんだからね」
「分かってるよ」
「なんだい、そのざまは、情けない」
「今日は、ちょっと祝い事があったんだよ」
「こんなところまで来て、奥さんには連絡したの?」
「遅くなったら、友達のところに泊まってくるって言ってある」
「飲み過ぎると、馬鹿になるよ」
「はい」
「こんなところに寝て、ほんとに情けないねえ」
祖母は泣いていた。
「どうして、ばあちゃん、ここにいるの?」
「霊界は繋がっているの。ここも霊界よ」
「この駅も?」
「そう」
「え~~~~?」俺は起き上がった。祖母はいなくなっていた。
「なんだ、夢だったのか?」
「妙にリアルな夢だったなあ」
「霊界は繋がってるって言ってたなあ」
「お墓とお墓は、霊界で繋がってるってことか・・」
「この駅も霊界と繋がってるって言ってたなあ」
「余計なこを考えないで、寝よう」
俺は、再び座席に横になった。
「もう寝るから、ばあちゃん、出てこないでね」
目を閉じた。いやな思い出が浮かんできた。
「アルコールのせいかなあ?」
「消えろ!消えてくれ!」
消えなかった。「まいったなあ~~」
「これじゃあ、眠れないよ」
「洋一、それは、いやな思い出妖怪だよ」
「ばあちゃん」
目を開けると、さっきと同じ席に祖母が座っていた。
「わたしが追い払ってあげるから、お休み」
「ありがとう、ばあちゃん」
祖母は、子守歌を歌い始めた。
「いい思い出妖怪を呼んであげるからね」
楽しかった思い出が浮かんできた。気分が落ち着いてきた。
「ありがとう、ばあちゃん」
・・・
「お客さん、お客さん、朝ですよ」
目を開けると、車掌が立っていた。
「眠れましたか?」
「うん、なんとかね」
「それは良かった」
「ここはねえ、いい思い出妖怪と仲良くすると眠れるんですよ」
「えっ、あなたも?」
「はい、ここは霊界ですから」