#8 平穏な一日、不穏な動き
#1から#7までの文面を編集していた為、少し遅くなりました(今更マスを開ける方法に気づいた奴)。
「で、何処で昼飯摂るの?」
ライカたちは昼食を摂るため、一先ずスティラの中央広場に来ていた。
「そうですねぇ・・・・・私もそこまでこの辺を知ってるわけじゃないんですよね」
「へぇ・・・シアさんはこの辺に詳しいのかと思ってたけど・・・」
休みの日なんかはこの辺見て回ってそうだし。
「あはは・・・普段は私も部屋とかで本くらいしか読まないから・・・・」
「へぇ、そうなんだ。紅葉はこっちに来て何したいんだ?」
俺は後ろで静かに付いて来る紅葉に向き合って聞いてみた。
「やりたいこと・・・ですか?」
「そ。やりたい事。折角人の姿で召喚されたんだから、やりたい事とかやらないと損だろ?」
「そうですねぇ・・・あ、そうだ!」
お?なんかあるのか?
「今の時代の美味しい食べ物とか食べてみたいです!」
「それはいいですね!一緒に食べたりしましょう!!」
シアさん凄く嬉しそう。やっぱり仲いいな。
ライカがそう認識している間にもシアが言っていた場所に着いた。
「ここが言ってた場所ですよ。入りましょう!」
看板には〈聖竜亭〉と書かれていた。
クレア魔術学院の学院長で、過去に『邪竜殺し』を単身で成し遂げたヴェルネア・ハルバードを祝して渡されたのが『邪竜殺し』の称号と十万フェルだった。
何故かその時貰った称号は『聖竜師』だった。
恐らくこの〈聖竜亭〉はヴェルネアの称号たる『聖竜師』を象って店の名前にしているのだろう。なんともこの、ディオステラらしいネーミングだ。
そして称号の他の報酬金をヴェルネアは自分の為、延いては人の為に使った。
学院を開き生徒に魔術を教え、自分を超える魔術師を育てる。それを目的にしているのがライカ達が通うクレア魔術学院である。
「主様?もう席に案内してもらったのですが、どうかしましたか?」
いつまで経ってもなかなか入ってこないライカを心配し、呼びに来たのであろう。
「ああ、悪い。何でもないよ」
取り敢えず外にいても邪魔になるし入るか。
「そう言えばどうしてシアさんはここまで良くしてくれるの?今日にしたって案内まで引き受けてくれたし・・・」
一昨日転校してきたばかりでそこに昨日の襲撃だ。流石に疲労が溜まってるはずなのに嫌な顔一つせずに引き受けてくれたのだから、その辺はライカとしても聞いておきたかった。
「うーん。そうだなぁ・・・・・私がヴェルネアさんに引き取られて、孤児院の出だってことはわかる?」
「まあ、ヴェルネアさんのことを『学院長』とかじゃなくて『さん』付けで言ってるから何となく気付いてはいたけどやっぱりそうだったんだ」
「ヴェルネアさんって困ってる人を放っておけない性格だからそれが移ったのかも」
あはは。とシアが苦笑しながら言う。
そこで紅葉が何かを言いたそうにしていた。
「あの、店員さんがもう既に来ているんですが・・・」
「「あ」」
そう言われてライカとシアはやっとテーブルの前に来ていて、注文を聞くタイミングを逃しているウェイトレスに気がついた。
「あのぅ・・・・注文はどうしますか・・・・・・?」
「えっと・・・じゃあ、この『東洋蟹の和風パスタ』で。二人は?」
「あ、じゃあ私も同じので」
紅葉がそう言い、シアさんは未だに悩んでいた。
そして暫く悩んだ後決まったのか、顔を上げた。
「では、私はこの『緑豆とほうれん草のグリーンスパゲティ』で」
・・・・・緑分多くね?
そしてウェイトレスが注文の確認をした。
「では、今からお作りしますので暫くお待ち下さい」
ウェイトレスはお辞儀をすると、厨房の方に戻った。
「それにしても人いないね?」
「そう言えばたしかにいないな。平日だからか?」
ライカたちが店に入ってからなんだかんだで三十分は経っているのにも関わらず、誰一人入ってこないのだ。
「内装は綺麗なのにな。勿体無い」
「まあ、昨日の今日ですからね・・・・あまり外に出たがらないのも無理はないかと・・・」
紅葉がそう言う。
言われてみれば、外に出てるのは戦う力があるやつが殆どだしな。全く力が無い人からすれば周りの人間すらも畏怖の対象になっちゃうのかもな。
まあ、明日になればまた人通りも幾分か多くなるだろう。
そしてライカは人通りが無くなって閑散とした窓の外の風景を見た。
そして十五分くらい経って、先程のウェイトレスが料理を持って来た。
おお!蟹の身がパスタに散らばってて美味そう。・・・・・・シアさんの方はやっぱり緑が多いな。いや、と言うか緑しかない!?
そんな感じでライカたちの食事は始まった。
ライカたちが『聖竜亭』に入る約三十分前。
「奴らは平穏を楽しんでいるようだな」
ククク・・・と喉を鳴らして嗤う男は、昨日ライカたちがいる国、ディオステラ王国の首都〈スティラ〉に襲撃を仕掛け、戦いの最中使い魔を召喚したライカと使い魔によって見た事のない力によって撤退を余儀なくせざるを得ない状況にされたのだ。
「ライカ・キリシマにその使い魔の狐の小娘。いずれこの借りは返してくれる・・・・・・」
明かりのない闇の中でゼフィロスは憎しみを込めて呟いた。
「ゼフィロス。貴様、あのライカとか言う小僧如きにやられたそうじゃないか。まだまだ修行が足りないんじゃない?」
暗闇の向こうから目つきの鋭い女が現れた。
その女は腰には細剣、背中には両手持ちの大剣を携えていた。
「ふん。貴様も引き篭もって特訓と銘うってまた人間を拷問にかけていたのか?」
ゼフィロスは女の方を見る。女の衣類や白い肌には大量の血が飛び散っていた。
「あら、そうよ?楽しいわよ。拷問」
女は人間の苦しむ顔や死に顔などを思いたしたのか、恍惚とした表情を浮べながら自分の体を抱いた。
「相変わらずお前は底が見えぬ女だ。拷問など唯唯煩く騒いで死んで逝くだけだろう?」
ゼフィロスは冷たく言い放つ。
「ふぅ・・・・あの人間の断末魔が良いんじゃない。分かってないわね」
我も狂ってる方だろうがこいつもこいつで大概だな・・・・・・。
「まあいいわ。そろそろ別の人間を連れてこようかしら・・・・・フフフ。次の人間はどんな悲鳴を上げてくれるのかしら・・・」
そこまで言うと女は踵を反し、再び暗闇に消えていった。
「ふん。アイツの拷問好きにも困ったものだ。さて、我も次の準備に取り掛かるとするか」
ゼフィロスもそう言うと椅子から立ち上がり、女が消えた方とは真逆の方向に消えていった。