#5 仮の力と仇
「はあぁっっ!!」
ライカは武装召喚で創り出した鋼鉄を振り下ろし、迫り来る餓鬼の群れを捌いていた。
だが、餓鬼たちは殺せど殺せどまた蘇り、また襲い来る。
それは紅葉の方も同じであった。
紅葉の方も餓鬼を倒しては蘇り、また切り伏せる。しかも蘇るだけではなく数も心做しか、少しずつ増えている。まさに悪循環だった。
「くっ!!キリが無い!」
殺しても殺しても蘇る。終わらない。
「主様!!奴らは死霊。術者を倒すか術者が死霊を戻さないと死霊は消えません!!」
餓鬼を捌きながら、紅葉が教えてくれる。
「いや、術者をどうにかしろと言ったって・・・あれじゃあ・・・・・・」
ゼフィロスを護る様に餓鬼が立ち塞がる。それを斬ってもまたゼフィロスが餓鬼を召喚ぶ。召喚されるまでに少しの間があるが今のライカにはそんな手は・・・。
「いや、あるな。」
そう。ライカには一つだけ考えがあった。あったと言ってもこれは恐らく紅葉との力の使い方や記憶の共有によるモノなのだろう。
使えばいいのだろうが、今のライカに使えるかどうか・・・・・・。
「でも、やるしかないか」
決心しなくては。いや、ココでしなければ皆殺される。そう考えたらいてもたってもいられなくなった。
「我、紅蓮を携える者也。此紅、業を焼く焔であるならば、汝よ現在我が身に従え!」
―――それは何処にもありはしない伝説。神話や伝説に存在などはしない。完全自作だ。
すなわちその武器の名は
「“幻想武装”――〈炎太刀〉!!!」
ライカの右手には今召喚した武器、所謂刀が握られていた。
それは今まで使っていた愛刀ではなく、刀身が燃え盛る炎の如く真紅に輝いていた。
ライカは〈炎太刀〉を一閃すると先程まで溢れ返っていた餓鬼の群れが全滅していた。
だが、ゼフィロスもそれに負けじと餓鬼を召喚しようと魔力を方陣に込める。
「主様!?それは・・・まさか?」
紅葉が心配そうにこちらに問い掛けてくる。
「大丈夫大丈夫。ちょっと魔力の減りが凄い気はするけど不思議と使い方とかは分かるんだ」
ライカも心配を掛けまいと笑顔で返した。
・・・さてと。これからどうするか・・・・・・。ゼフィロスの方を見てみると餓鬼たちが再度増えてきたところだった。
さっきと同じ量でないのがまだ救いか。
「主様。今が好機かと」
紅葉が言う。
「ああ。そうだな。じゃあ合図したら行くぞ」
紅葉が無言でそれに頷く。
隙を逃さない様に相手を見据える。餓鬼が少しづつこちらに寄ってくる。
・・・・・・・・・・・・。
―――今だ!
紅葉に合図を送るとそれに気づいた紅葉が仕掛ける。
「はあぁ!!」
紅葉が剣と魔術で餓鬼を一気に倒した。あれ?今更だけど紅葉のって魔術・・・なのか?なんか見たことの無い術式なんだが・・・・・てか術式が読めない!何あれ!?後で教えて貰おう。使えるか分からないけど。
「さてとそんなことはさて置き、行くぞ!!ゼフィロス!!!!!」
ゼフィロスに向かって〈炎太刀〉を携え、駆ける。これには流石のゼフィロスも動揺を隠せない様子で武具を出し、防いできた。
「小僧!気に入ったぞ!その力・・・素晴らしい。教えるがいい!!」
見たことのない力を見て機嫌良さそうに声を挙げる。
「お前みたいなのに教える訳ないだろ!!!大人しく諦めたらどうだ!!言え、何が目的だ!!!」
ライカも意趣返し的な意味合いで言い返す。
いやまあ、単純に俺にもこの力が何なのか分からないから誤魔化したってのもあるけどさ。
「っらあ!!」
鍔迫り合いをしていたライカとゼフィロス。ライカが押し返しゼフィロスを追い詰める。
「ちっ!ここまでか・・・・・・」
ゼフィロスが何か呟いた。
「何だ?」
俺も聞き返す。
「ふん。命拾いしたな小僧。あとそこの使い魔の女。今回はこの辺りにしておいてやろう」
「っ!逃げるのか!!」
「逃げる?違うな。戦略的撤退と言え」
いや、それを逃走と言うと思うんだが。
「次に逢う時までに精々更に強くなっている事だな」
そう一言だけ言うと影の中に消えていった。消える前に「そうそう。一体だけ我のとっておきの奴を出しておいてやる。精々楽しんでくれ」
今度こそ影に消えていった。とっておきの奴?何だそれ。
と、思ったのも束の間。影から一際大きめの奴が現れた。
「なっ・・・・・・!!?」
ライカは驚愕した。何故なら現れたのは、一寸の違いもなく妹のミウを喰った奴本人だったのだから。
「こいつが・・・・ミウを・・・!!」
殺す。絶対殺す!あの時の奴だと分かった瞬間いてもたってもいられなくなった。
「はあぁあぁあっっっっ!!」
〈炎太刀〉を餓鬼に振り下ろす。然し、それはすんでのところで防がれた。
「っ!?」
ブォンッ!!と言う音とともにライカの体は途轍もない勢いで吹き飛ばされ壁に背中から突っ込んだ。
「かはっっ!!?」
あまりの衝撃にライカは血を吐いた。
「な・・・・んだ・・・・・・あいつ・・・!?さっきまでの奴らと・・・違う・・・・・・」
先程の奴らより比較にならない程に強い。何なんだこいつ!
「きゃぁあ!!」
紅葉の方を見てみる。紅葉も弾き飛ばされ倒れてた。・・・そんなに強いのか・・・あいつ。
絶対絶命だった。そんな時
「ふっ!!!」 「ファイアボール!!!」
ライカが声のした方向を見てみると、気絶していたヴェルネアとシアが目を覚まして、大型餓鬼を攻撃していた。シアは遠距離系の魔術、ヴェルネアは身の丈はあろうかと言うほどの大剣だった。
「ヴェル・・・ネア・・・さん・・・シア・・・さん?」
ヴェルネアはこちらを一瞥すると一言言った。
「ライカ!良く耐えた!悪い。寝ちまってて。今現在から私も戦いに参加させてもらう!」
ヴェルネアさんは大型餓鬼の攻撃を大剣でガードしていた。そこをすかさずシアさんが火属性魔術で攻撃する。
結構威力はある筈だが、餓鬼は擦り傷一つ付いていなかった。相当、魔術耐性と物理耐性があるらしいな・・・・・・。
そこへ紅葉も間髪入れずに攻撃をする。これには流石の餓鬼も不意打ちには対応出来ていないようだった。
紅葉が近づいてきて教えてくれる。
「主様。あれは恐らく『多財餓鬼』と言う種です。あれは他の餓鬼よりも多くのモノを喰える餓鬼で・・・・・いえ、今はこいつを斃す事を優先しましょう」
そう一言発すると紅葉は再度餓鬼に、攻撃を仕掛けに行った。
その姿を見てライカは驚いた。何せ先程あの大振りな腕で吹き飛ばされ、痛い目にあったばかりなのだ。本来なら見るのも怖くなるだろう。しかし、それに自分から攻撃をしに行くヴェルネアやシア、紅葉の姿を見てライカは・・・。
「ヴェルネアさんやシアさん。それに紅葉でさえもかなり怪我が酷い筈なのに、あれだけ勇猛果敢に戦ってるんだ。俺だけ見てる訳にはいかないか」
そう言ってライカは自分に気合いを入れ、今尚痛む身体で立ち上がった。
「よし。行ける!でも・・・」
ライカは手元に視線を送る。その手には先程精製した“幻想武装”の〈炎太刀〉があった。然し、その刀は魔力切れが近くなっているのか、感じ取れる流れが弱々しかった。
頼むぞ〈炎太刀〉。せめてコイツを倒すまでだけでも良いから保っててくれよ。
「ミウの仇!ここで貴様を討つ!!」
ライカは立ち上がりいまだ交戦を続けている餓鬼に向かって駆けた。
ライカには何故か分からないが〈炎太刀〉は仮の力だと分かっていた。いや、仮の力なのは知っていて当たり前なのだ。そもそもライカにはこの様な強力な力は使えなかったのだから。
そこを紅葉を召喚んだ事により借り物として一時的に使える様になっているだけなのだから。そういうことではなく、この力は本来有り得ない力。どの文献やどの神話にも無い、単なる間に合わせの力だ。
そんな仮の力の〈炎太刀〉を構え、駆けていたライカはあっという間に餓鬼の目の前に接近していた。
そんなライカの持っている刀に気づいたのか、シアやヴェルネアが驚いている。それも無理はない。二人は先程まで気絶していて、ライカが〈炎太刀〉を精製したところを見ていなかったのだから。
「はああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ライカは恨みなどの念も込め、〈炎太刀〉を振るう。餓鬼もそれくらいは予想できたのか、腕をこちらに向けて振ってきた。
「もうそれには当たらない!!!ミウの無念を受けろ!」
ライカは餓鬼の腕で薙ぎ払ってくる攻撃も避け、餓鬼の脳天目掛けて〈炎太刀〉を振り下ろす。そして餓鬼は頭から真っ二つに斬られ、その機能を完全に停止させた。
停止した餓鬼はドス黒い泥のようなものに変わり、その身は地面に吸収される様に消えた。
「終わったか・・・・・・」
「そうですね。主様・・・・・流石に疲れました」
紅葉が近づいてきて呟いた。紅葉は今回召喚に応じて力を貸してくれた上にその身で戦ってくれたのだ。疲れて当然だろう。と、そんな他愛ない会話をしていると、気絶させられて先程目覚めてから応戦してくれていたヴェルネアやシアが、何かを聞きたそうに訝しげな表情でこちらを見ていた。
そこで黙っていてもどうしようもないと判断したのだろう。ヴェルネアがおずおずと尋ねてきた。
「そこの女の子はどうした・・・?それにゼフィロスと名乗った男は?」
「そのことに関しては後で話します」
そこまで話したところで今まで黙っていたシアが口を開いた。
「と、とにかく一旦休憩にしませんか?こんなところで立ち話してもあれですし・・・・・・」
「そうだな。じゃあ、ライカとシア、あと、そこの女の子取り敢えず今日は解散。明日また事情を聞くとしよう」
そこで気になった事をヴェルネアに尋ねた。
「紅葉・・・・・この子の名前なんですが、紅葉は住むところどうしますか?使い魔なんですが・・・・・・」
紅葉が使い魔ということを聞いてヴェルネアもシアも驚いていたが、ヴェルネアは何か気づいた様な表情をしてそのライカの質問に答えた。それも衝撃的な。
「じゃあ、取り敢えずライカ、お前の部屋で一緒に寝てくれ」
苦笑いしながら言われた。今度はライカは驚いた。
「え・・・・・・・っ!?」
こうしてちょっと不思議な神霊の少女。紅葉とのドキドキの生活が始まったのだった。
今回は前回言ったように少し長く書けたかな・・・?何はともあれ今回で一章は終わりです。次回からはサブタイトルも少し変化して二章が始まります。Twitterでも投稿が終わったらツイートしてますので、これからも何卒よろしくお願いします。次は二章でお会いしましょう。(*´∇`)ノ ではでは~