22話 仇を討つのは
樋川を見つけた炎怒。復讐の時は来た。
俺は気付いた時には動いていた。
それは、まるで誰かが俺を操っているようだった。
右手に炎を包ませて、叫びながら殴りかかる。
「樋川ァァァァァァァ!!」
が、その男は左手で容易く止めた。
俺の炎を素手で止めたのかと一瞬思ったが、よく見ると彼の手からは冷気のような物と共に氷が出ていた。
しかし、氷の能力者である事なんて勿論、想定済み。
何も問題は無かった。
そのまま俺の炎で焼き尽くすのみだ。
俺は手を引かずにそのまま押し込んだ。
流石に俺の炎を凍らせるような事は出来ないようだ。
しかし、それに気付いたと同時に男も攻撃を仕掛けてくる。
俺の手を掴んでいた左手を引いて俺を引っ張り、その瞬間に男は奇声のような叫び声と共に、俺を突き刺すように右手を突きだして来た。
「キェェェェエエエ!!」
引っ張られてバランスが取れて居なかった俺は、
避けようとはしたが、奴の手が頬に掠った。
掠ったところが少し凍っていたのが分かった。
掴まれるようなら間違いなく凍らされる。
そして、凍らされたらそれはもはや死だろう。
そう気付くと一瞬、体が震えた。
でも、やるしかねぇ。
風音先生との約束を果たす為、そして涼の仇を討つために。
俺はすぐに殴りかかった。だが、避けられる。
避けられたと思ったらすぐに相手の動きを見る。
奴は腹を殴ろうした。これは手で止める余裕が無い。
そう思った俺は腹から炎を出して止める。
これで凍らされることは無いが、殴られた衝撃だけが
自分の腹部に伝わる。
「くっ…」
でも俺はすぐに殴りかかる。
今度は手で止められるが、関係ない。
すぐにもう片方の手で相手の腹を狙う。
そのコンボは予想外だったようで、男は怯んだ。
だが、さっきの俺と同じくすぐに攻撃を仕掛ける。
それを俺は予測出来ていた。
俺はわざとその手を左手で掴んだ。
もちろん奴は凍らせようとしてきていた。
だが、その凍らせる力は俺の炎で止めている。
そして俺は左手の義手の力を借りて、そいつの手を握りつぶす。
今の俺の左手は動かせる命令が出来る機械と何も変わらない状態だった。
本気で手を握るように意識すれば、その義手が握る力はプレス機のようなものだ。
みしみしと奴の手の骨が砕ける音が聞こえた。
「ウワァァァァア!!」
男は悲鳴のように叫んだ。
俺が手を離すと男の手は血が吹き出して、骨格がおかしくなっているのが見えた。
流石にそれに驚いたのだろう。
男は後ろに下がった。
俺は迷うこともなく距離を詰めようと歩み寄る。
しかし、男は予想外の行動に出る。
近くにあった水飲み場の蛇口部分を氷の弾を飛ばして破壊した。
壊れた蛇口からは物凄い勢いで水が飛び出す。
特に水が出た所で何も問題はない、と一瞬思ったが、すぐに気付いた。
奴は水を凍らせると。その瞬間だった。
噴出していた水は全て槍のような形の氷になった。
その数は恐らく20本前後はあった。
やばい、と思った時にはその氷は一直線に、俺の方へ飛んできていた。
俺は咄嗟に後ろへ転がるように飛んで避ける。
蜂の巣になるのは防げれた。だが、両足に何本か突き刺さった。
衝撃と共に異常な激痛が走る。
その瞬間、俺の中で何かが熱くなった。
もう何も考えてられない。
目の前に居るこいつを殺したい。
ただそれだけしか頭に無かった。
恐らく俺は今『もう一人の俺』になった。
「てめぇ… なかなか楽しませてくれんじゃねぇか」
俺は何故か笑っていた。
いや、正確にはもう一人の俺は笑っていた。
笑える事なんて何一つないのに。
もう一人の俺は怒りを超えていた。
怒りを通り越した上で笑っていた。
「でも、遊んでる暇ねぇんだ!!!」
俺はその男を睨みながら、そう叫ぶと同時に、身体の全身から炎を出す。
自分の出す炎で熱くなる事は無いが、今の俺は熱い気がした。
でも、これは炎の熱さじゃない。
心が燃えてるんだ。
『こいつをぶっ殺す』というその殺意だけが俺を操っていた。
俺は全身から炎を出しながら男に近付いた。
男は慌てた様子で、氷の槍を飛ばしてきた。
俺は何事も無かったかのように、手から炎を出して全てを焼き払った。
何度も何度も、男は槍のようにして飛ばしてきた。
呆れた俺は蛇口の部分を熱で形を変えて、水を塞き止めた。
男は腰を抜かして、尻餅をつくように、座り込んでいた。
俺はそのまま男に近付いて、その男を上から見下すように睨んでこう言った。
「これがテメェのやってきた事だ」
そう言って俺は右手に炎を包ませる。
そして腕を上に上げて、全力で振り被る。
その勢いはその男を殺すつもりだった。
でも、その瞬間に俺は風音先生の言葉が頭を過ぎった。
『絶対に殺しちゃダメ』
そうだ、殺しちゃ駄目だった。
その瞬間、力を少し弱めて男の顔を殴り飛ばした。
男は顔に火傷のような怪我をして、少し吹っ飛んだ。
その衝撃で男は気絶しているようだった。
風音先生の言葉で少し冷静になっていた俺は、携帯を取り出してとりあえず警察に連絡しておいた。
涼の仇でこいつを殺したいのは山々だが、この悪は社会に裁いてもらおう。
ここまでされていれば、もう恐れて殺人なんてしないだろう。
そう思う気持ちもあったから尚更だった。
俺は警察に「殺人鬼の犯人を捕まえた」という報告と、場所を告げて、携帯を切りその場を去った。
次回は飛華流編の最後と繋がります。




