11話 本当の彼 (風音side)
今回は風音目線で話が進んでいきます。
「炎怒くん…?」
炎怒くんの顔はいつもと違って怖かった。
それは今までの顔からは想像も出来ないくらい…
「おいクソ野郎… かかってこいよ…」
炎怒くんは頼堂くんに対してそう言った。
頼堂くんも相当な怖い顔をしている。
それは炎怒くんに対してではなくあたしに対してだった。
先生が嫌いなのかな…
「邪魔するなァァァ!!」と頼堂くんは叫びながら、炎怒くんに上から斬りかかった。
炎怒くんは炎で包まれている左腕で、その攻撃を容易く止め、右手に炎を包ませ殴りかかる。
けど、頼堂くんも炎怒くんの手に当たっていた武器を持っている手を引くと同時に、身体を後ろに反らし、その攻撃を避ける。
避けてすぐに前のめりになって、もう一度振り被る。
今度は横から。
炎怒くんは顔に掠りそうな位のギリギリで、身体を少し後ろに引いて避ける。
そんな攻め合いが何回か続いた。
何回か続いた所で炎怒くんの頬に、頼堂くんの武器は掠った。
炎怒くんの頬からは血が少し出ていた。
でも、炎怒くんは痛がる素振りを見せなかった。
違う…
『彼は痛みを感じていないんだ…』
あたしはそう気付いた。
今の彼の感情は『怒り』だけ。
あたしを下がらせたのは、あたしを守るためなんかじゃない。
『自分の怒りを静めるため』なんだ…
その感情だけが今の彼を動かしている…
しかし、怒りの力でもやはり武器の差は大きい。
いくらその武器がそれほどリーチの長い武器では無くても。
あたしは何とかして彼の手助けをしたかった。
周りを見渡してみると近くに鉄パイプが落ちていた。
これなら少しは変わるかも…?
そう思ったあたしはすぐにそれを取った。
「炎怒くん!」とあたしはその鉄パイプを渡そうと彼の名を呼んだ。
今の彼にあたしの声が届くのか。
その疑問もあったけど、とりあえず声を掛けた。
一応あたしの声は届いたみたいで、彼は頼堂くんと距離を少し空けて、あたしの方を振り返った。
頼堂くんはあたしへの殺意しか無いらしく、彼もあたしの方を見ていたから隙があった。
「これ使って!」とあたしは言って、その鉄パイプを投げた。
飛んでいった鉄パイプは、ちょうど炎怒くんの手に届いた。
彼は空中でそれを掴んで、頼堂くんの方へ振り返り、すぐさま振り被った。
何も考えて無くても彼は既にその鉄パイプの持っている部分より先の所を炎で包んでいた。
炎怒くんはその炎の鉄パイプで殴りかかる。
これでリーチの差は無くなった。
しかしあっちのチェーンソーは剣のような細さだ。
持ちやすさの違いがある。
距離間隔は同じだが、振る速度が目に見えて違った。
だから武器はあっても炎怒くんが劣勢だった。
このままじゃ炎怒くんが危ない…
そう思っていた、その時だった。
彼は急に叫びだした。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
そして彼は自分の右手から、持っている鉄パイプごと炎で包み込んだ。
全く右手に何が起きているのか炎で見えない。
しかし、彼が叫び終わったと同時にその姿は現れた。
彼が持っていた鉄パイプは鉄の剣に変わっていた。
それはまるで勇者の剣のようだった。
彼が一度振り被るとその剣から炎は完全に消えた。
「まさか…」とあたしは声を漏らした。
炎怒くんは炎の熱で鉄を溶かして、剣の形に変えたの…?
そんな事が出来るなんて…
あたしは予想もしていなかった。
「第2ラウンドスタートだぜ…!」
と彼はそういって、一気に攻め出した。
右から左に、左から右に、交互に剣を振り被る。
早い… さっきまでと比べると圧倒的に早い…
怒りの力と剣の軽さのお陰で、物凄い速度で攻撃を仕掛ける。
流石にこれには頼堂くんも押されていた。
あの武器で防ぐのと避けるので精一杯のようだった。
これなら勝てる…!
炎怒くんは我武者羅にいろんな方向から斬りかかっていた。
しかし、彼が斬りかかって、それを頼堂くんがチェーンソーの刃がついた、その武器で攻撃を受け止めた、その瞬間だった。
炎怒くんは剣を落とし片膝を突いた。
その剣を持っていた手は凄く震えていた。
頼堂くんの方を見ると彼の持っていた武器は、目に見えるほどの電流を帯びていた。
そうか、彼の武器の電流が剣を伝ってきたんだ。
炎怒くんは身体が麻痺して動けなくなっていた。
その間にも頼堂くんは武器を構えている。
まずい、このままじゃ…!
炎怒くんを助けないと…
そう思っている。そうは思っているけど、体が動かない…!
あたしは怖いんだ。 頼堂くんと戦う事。
そして、炎怒くんが殺されるという事が。
もし頼堂くんと戦う事になったら勝てないかもしれない。
そう思うと尚更体が動かない。
炎怒くん… ごめん…
あたしは涙が溢れ出てきた。
申し訳なさ、そして自分の不甲斐無さで悲しくなって。
もうどうしようも無いんだ、と思った。
頼堂くんは頭から一刀両断するように真っ直ぐその武器を振り被った。
でも、あたしの好きな彼はやはり違った。
彼の頭にその武器が当たる瞬間、彼の額から炎が出てきた。
「なっ…!?」
頼堂くんは驚いてその手を引こうとした。
だが、炎怒くんの額から出たその炎は頼堂くんの武器を押さえるように包んでいて、彼は動けていなかった。
そして炎怒くんは彼を睨み、落ちていた剣を拾って、その剣に炎を包ませながら、胸元を切り裂いた。
斬られた頼堂くんは武器から手を放し、仰向けで倒れこんだ。
「炎怒くん…!」
あたしは涙が止まらなかった。
彼が死ななかった事がただ嬉しかった。
良かった。良かった。本当に良かった。
けど、更に驚く事が起きた。
炎怒くんは倒れこんでいる頼堂くんの傍に立って、彼の腹に剣を突き刺した。
「うぐっ…あぁ…!!」と彼は声にならない声と共に血を吐いた。
「炎怒くん…?」とあたしは涙を堪えながら、呟いた。
「おい、クソ野郎…? 死ぬまで痛い目見せてやるよ…!」と炎怒くんは頼堂くんを見下しながら、
剣をグリグリと動かし、不敵な笑みを浮かべ、そう言った。
「くっ…そ…っ」
頼堂くんは痛みを堪えるようにそう言った。
「炎怒くん! もう大丈夫だよ!」とあたしは彼を止めようとした。
しかし、彼は止まらなかった。
「これで終わりだ…」と彼は言って、剣を引き抜き、次は少し上、心臓の辺りを狙っていた。
このままじゃ炎怒くんが殺人を犯してしまう。
それは止めなきゃまずい…
そう思っていた時には、もう振りかざしていた。
「ダメッ!!」とあたしは叫ぶと同時に彼を風で吹き飛ばしていた。
いろんな恐怖から、少し力加減を間違えてしまった。
物凄い風圧で吹き飛ばしてしまい、彼は気を失っていた。
それで死ななかったと安心したのか、頼堂くんも気を失った。
「あたしが今度は助けなきゃ…」
あたしはそう呟いて、彼の炎が消えて血が溢れ出した左腕を少しでも抑えるために、上着を彼の左腕にキツく結んでおいた。
応急処置と言えるほどではないかもしれないけど、その処置を施したあと、すぐに携帯を取り出し、あたしは救急車を呼んだ。
「2人の少年が大怪我してるんです!急いでください!」
次回は頼堂の過去に迫ります。




