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My heart

 My heart:


 次の日はバイトで、何時もと変わりなく身支度をしてバスと電車を乗り継いで、駅前のデパートまで出勤している。

 だが何となく今日は気だるくて気分が乗らず、季節のせいにしてできれば横になってゴロゴロしていたいと制服に着替えながら思うのだ。

 その理由わけは解かっている昨日の彼の言葉が耳から離れないのだから仕方がない。

(なぜ平然としてそんな言葉を言うんだろう。 慧玖瀬さんが言うこと一つひとつに一喜一憂しちゃう自分がいて、だからって恋愛対象にしているとはおもえないし、からかわないでほしいとおもうのにな)

 そんな風に心ではぶつぶつ言いながらも、もし彼氏がいて慧玖瀬さんと出会ったとしても、あのさわやかな笑顔と優しい瞳に一目惚れしたことは多分変わらないし、その気持ちが少しづつ片想いに変化していくことも解っている。

 小柄な体型の瑠奈に、大きくなる鼓動が少しづつ溢れ出して止められなくなりそうと感じ始めている。


 そんな気分を知ってか今日の仕事は案内で外に出ることもなく、接客もしながらずっとカラーペンで図面の色分けをしたり、貼り付けたり、ポップな言葉を考えたりしていた。

 お昼休憩は他の売り場で仲の良い人達と一緒に社食で済ませて、近くの喫茶店でおしゃべりしながら過ごすのがいつものパターンだ。

 そして決まって注文するのはメロンソーダ、常時テーブルに砂糖とミルクが置かれ、メロンクリームソーダに見立ててミルクを入れて飲むのがすき。

でもみんな年上のお姉さんばかりで、この味が伝わらず『かわいいね』とか『変わってるね~』とよく言われて子供扱いされ苦笑する瑠奈だった。

 やっと長いバイトの時間が終わり更衣室で着替えを済ませてデパートの外へ出ると、休日の夜は人の往来が多く道に溢れ、それが苦手な瑠奈はため息をつく。

 駅までの途中、ふと名刺をくれたことを思いだしコートのポケットに手を入れて探り出し見てみた。

(表? 名前 裏? ん? 番号?・・・これって電話~? 慧玖瀬さんのだよねぇ。ってなんでぇ? なんで? あ~でもそう言えば『今度は電話してからおいで』って?それって彼の家においでってこと?・・・んなわけないよね。 絶対ありえないから)

 瑠奈の頭の中で想像するいろんなことはあまりに現実からはみ出していることだけに、また鼓動が速く短距離走したくらいドキドキしているのを感じながら、眠れない夜が続くことになると思っていた。


 2月は転勤、進学、就職、引っ越し等人の移動があり、それに伴いデパート内もバイトも日々忙しく、オマケに歓送迎会の予定まで入ってくるので普段は要らない神経を使うしさすがにグッタリしているところだけど、そこは若さでカバーしそれでも彼のことを考えたりしない時間があるだけよかったのだ。

 3月に入り仕事が落ち着いたところで、瑠奈は気持ちを改めモヤモヤをすっきりさせようと思い切って電話をしてみようと考えた。

 『う~ん・・・帰宅していそうな時間は、多分10時過ぎ頃かな~。 

 もし帰ってなかった時電話に出るのは誰? 

 そう言えば家族関係とか知らないんだった・・・それにこのままじゃね~』

 あれこれ考え悩む瑠奈に時間は迫ってきている。

 10時過ぎ、やっと踏ん切りがつき電話番号を押してコール回数を数える。

 (1回、2回、3回目で取った時は『大変おまたせしました』って言うんだよね、4回、5回、6回目、出たっ・・・誰?)

「はい」

 少し低めの声が受話器から聴こえた。

「もしもし?」

「あ~っ、ほんとに電話くれたんだね」

「誰だか判ってるの?」

「声でわかるよ・・・徠椙さん」

「い、今帰宅ですか?」

「そう今帰った。電話が鳴っているのが聴こえて階段を上がったところだ」

「はぁそおですか・・・おつかれさま」

「そっちはどう?バイトだったろ」

「・・・うん」

「フッ、なんだかおとなしいね」

「・・・」

「あの後電話が来なかったけど忙しかったのかな? それとも彼・・・」

 彼の喋るその言葉を塞いで瑠奈は先に聞きたかった。

「あのぅ なぜ私に家の電話番号を教えてくれ・・・」

 彼も聞きたいことはわかっていたので瑠奈の言葉を塞いで話しだした。

「い、いや、仕事場だとてんてんが居るからロクな話ができないし聞けないし、お客だからそれってふつうにダメじゃん。 でも何て言うんだろ・・・気になってたからついさっ」

「へぇっ?」

 また予想外の言葉に変な声を出し、彼にうっすら笑われたのは言うまでもない。

「でも本当に電話をくれるかどうか賭けをしてたかもな・・・」

「う~ん。賭け?ですかぁ・・・そう・・・まあどっちにしてもバイトが忙しくなって、それにかまけてちょっと忘れてたかな」

「そう」

 彼の不満そうな気持ちが声のトーンを通して伝わってきたが、それを誤魔化すようにまたたわいないことを話し始め、瑠奈はうんうんと聞き1時間近く経っていた。

「ん~そろそろ寝るから電話切るね」

「あっ、ちょっと待って。 明日休みだろ家までの道教えるから来ないか?」

「へぇっ?・・・ほん・・・ほんとに言ってるの?」

「目印はわかりやすいから大丈夫だと思うよ」

「はぁ~強引ですね」

「どうせ暇だろ?」

「感じ悪い言い方ですね」

「俺も休みだから家に居るし昼頃おいで、どっか食べに行こう!」

「ご飯を食べに行く? ん~そう言うなら・・・それくらいならいっかぁ」

「フッ、素直にはいって言えばいいのに。んじゃ決まりだ」

 軽い口調で答えた彼はまた優しい感じがしていた。

「で、道順だよな、1回しか言わないからよく聞いてね」

「う、うん」

「まず徠椙さん家から1つ目の信号を右折、坂道の山登って下って信号右折、道なりに進むと右側にファミレスとうどん屋があって8コ目の交差点に回転寿司が右側にあるからね。信号10コ目過ぎると道がY字みたくなっているから左折だ」

「10コ目左折だからね。ここまでいい?」

 随分と詳細な部分まで丁寧に彼の家までの説明してくれる。

 瑠奈は紙に道順を地図っぽく、信号の数や目印と名称等を聞きながら写していくのに必死で返事どころではないのに。

「ねえ聞こえてる?解かったかなぁ?」

「あ、うん多分ね。あとマップ持っているから大丈夫」

「ふう~ん。そう地図が読めるならまいっか。じゃあ明日ね おやすみ」

「うん。おやすみ」

 電話を切った瑠奈は、フワフワした気分の中で何となく彼のことが少し解かってきた。

 彼がしてくれたたわいない話の中で、何故車を買った人が又彼に車を欲しがっている人を紹介したり、単に通りがけに寄ったような人を買わせる気にさせて、その結果、ひと月の車の売上は何時も上位に名前が並んでいると言っていた。

 それはきっと彼の人柄が周りの人を惹きつける魅力を持っていて、知らずのうちに巻き込んで木の年輪みたいな信頼という厚みができているんだろうって思えるからだ。


 (そんな慧玖瀬さんを想うと心がギューッて締め付けられて、やっぱりすでに恋しちゃってる)

そう言い、瑠奈はゆっくりと片想いの始まりを思いだし、いい夢が見られるように妄想しながら眠りに就いた。

 彼が発した突然で意外な言葉に瑠奈は驚きと途惑いを隠せない。

 けれど確実に二人の流れが変わり始めているような気がしていた。

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