グランドフィナーレ
ほんの1か月ほど前は新造船だったはずのその船は、もはや浮いているのが不思議なほど傷ついていた。
「なあ、本当に生きてるのかな」
かろうじて残った帆を器用に操りながら、狸族の男が船長に尋ねる。
「あの人が死ぬわけないでしょ。それより先にうちらが死にそうだし!」
「いや、それ洒落になりませんよ!」
猫族の男が舵を切りながらツッコミを入れる。
船長が冗談めかして言った言葉だが、冗談になっていなかった。
このような事態になった理由を一言でいうなら、南海を舐めていたせいだ。
港町でもあるハイノウンの孤児院で育った者で船を操れぬ者はいない。
この船に乗る3人も全員が船を操れるし、全員がハイノウンでは最高ランクであるA-ランク冒険者でもある以上、今回の任務は楽勝とはいかないまでも、なんとかなるだろうと高をくくっていた。
「それにしても、まさかエイヒーンの皇帝が魔神だったとはね」
そう、エイヒーンの皇帝は復活した魔神だった。
そのことに気づいたときは既に遅く、トッサム・トック連合は劣勢を強いられていた。
両国が滅亡するまで、あと半年保たないだろう。
この窮地を救うことができる人物がいるとすれば、10年ほど前にメデューサを倒し魔大陸へと消えた男、魔王と呼ばれた彼しかいない。
トッサムの王子と無事に結婚し、実質上政務を取り仕切っているミリア姫はそう断言し、彼らに探索を依頼したのだ。
トッサムの技術の粋を集めた新造帆船だけあって、初めは確かに順調だった。
しかし、途中で巨大なタコに襲われ、巨大なイカに襲われ、巨大な嵐に襲われ、見るも無残な姿と化した。
水は魔法でなんとか作り出すことができるが、食料はそうはいかない。
ときどき魚は捕れるがその量は少なく、栄養も偏り、三人の顔色は悪い。
「さすがにもう駄目かもしんないね」
つい弱気な発言も出る。
「ねえ、あれ煙じゃない?」
遥か先を見ていた小人族の女…………船長が指さした先には、確かにかすかに煙が見えた。
「島か?人が住んでるのか?」
「わからないけど、どっちみちこのままじゃ死ぬしかないんだから、行きましょう!」
船長の即決により、船はよたよたと煙を目指す。
数時間経って、やっと船は小さな島へと辿りつき、三人は錨を降ろすと小型ボートに乗り換えて陸地を目指す。
必死にオールを漕いで辿りついた砂浜に降り立ち、息を整えていた三人の前に、木々の間から顔を出したのは一人の子供だった。
その髪は茶色く、整った顔の瞳は黒。
「お嬢ちゃん、うちらは怪しい者じゃないよ。食べ物を分けて貰えないかと思って」
子供から警戒の色を感じた小人族の女が、精いっぱいの笑みを浮かべながら話しかける。
だが、その子の興味は彼女らよりも船の側面に書かれた文字に向いていたようだ。
「”さつのさ口”?」
「あー、そうとしか読めませんよね」
猫族の男が苦笑を浮かべて言った。
「もともとは”きらめき号”って書いてあったんですよ」
そう、彼らは”†きらめき†”の三人であった。
「それより、何か食べ物を」
狸族の男、ポーゴは死にそうな声を上げる。
「わかったー聞いてみる。お父さーん、なんか変なの来たー!狸と猫とちっちゃい人!」
「あらあら、これは懐かしい人に遭いましたの!」
しかし、木の間から顔を出したのは、全身を青で固めた少女。
三人はあまりの驚きに声も出ない。
「ほお、誰だ?」
そのさらに奥から男の声がした。
どうやらこちらに向かっているようだ。
「お父さーん!だいすきー!」
しばらくして顔を見せた男に、子供が大きな尻尾を揺らして飛びつく。
「こら、突然飛びついたら危ないでしょ。ジョージ、大丈夫?」
優しい声で子供に注意したのは男の横に立つ母親だろう。
その首には髪と同じ茶色の宝石のついたチョーカー。
手に持つは飾りのついた小剣。
<FIN>
書ききれないこともありましたが、全ての伏線は回収したはずですので、これでジョージの物語はおしまいです。
ありがとうございました!




