戦争1
不穏な空気を感じたのか、鳥たちが一斉に森から飛び立つ羽音が、戦闘の近いことを示していた。
「予想通りでしたね」
やがてコノウフォーレストから姿を現したエルフ達を見て、マーロックは隣に控えていたジョージに語った。
バレリバーとの戦争は避けられないと見たトッサム王国は、ハイノウンの残存騎士団を中心としたハイノウン連合によって迎撃することを選択、その想定戦場をコノウ平原と推測しハイノウン防衛線を築いた。
この予想は見事に的中し、現在、バレリバーのエルフ軍に対するのは第三騎士団及び第十一騎士団、近隣から急きょ呼び寄せた第十八騎士団の1800人と宮廷魔導士、有志冒険者および有志退役騎士団員約300人の合計2100人ほど。
もとの三騎士団中、第十五騎士団はミリアとエミリアを守るためハイノウン城の警備についている。
それ以外の騎士団はエイヒーンに対する防衛に回されていたか、遠方のため決戦には間に合わなかった。
その後の情報調査により、エルフ軍の総数は約2000人と判明しており、たしかにハイノウン連合は数の上ではそれを上回っている。
ただし、実際は騎士団員のうち2割は補給部隊や救護部隊など、戦闘が期待できない者であり戦闘員だけを数えるとむしろ劣勢だ。
また、この世界での戦闘の基本は遠距離から弓の打ち合い、その後魔法の打ち合い、最後に切り合いというステップを踏むのだが、エルフはこの三つを一人でこなすのに対して、ハイノウン連合は通常一つ、良くても二つしか行えない。
おまけにエルフの平均MPはベテラン魔法使いの160を超えており、200を上回る者も少なくない。
さすがにジョージほどのMPを持つ者はいないが、300超えも2人ほどいた。
それにも関わらず弓術も剣術も騎士団と対等クラスという、冗談のようなハイスペックさを持っている。
よって、エルフ2000人というのは、弓兵2000人、魔法使い2000人、戦士2000人の戦力があると言っているのに等しい。
いくら戦争は防御側が有利とはいえ、ハイノウン連合は人数でも個々の戦闘力でも劣勢、単純に戦力だけを比較するなら3対1以上の差があり、勝ち目は薄い。
このような状況にも関わらず、悲壮感がないのはハイノウン連合には二つの切り札があるからだ。
すなわち”不敗の軍師”マーロックと、大魔導師ジョージである。
エルフ達は次々と戦場となるコノウ平原に姿を現すが、ハイノウン連合は動かず、バレリバー軍を待ち構える。
やがて態勢の整ったバレリバー軍は横に長いハイノウン連合の陣形に合わせて同じ陣形を選択すると、その練度の高さを見せるかのように整然と進み、ついにお互いの弓の射程へと入った。
「撃て!」
号令と共に双方に矢が降り注ぐ。
もちろん、よほど運が悪くなければ矢で倒せるわけではなく、ハイノウン連合は相手の進行を遅らせ、陣形を乱すため、バレリバー軍は自らの進行を助け、相手の陣形を乱すための牽制に過ぎない。
とはいえ、お互い損害がゼロというわけではなく、運悪く怪我を負う者、あるいは本当に運が悪く命を落とすものも数人は出る。
そして、その数は風魔法で自らの上空を乱すことで矢を防いでいるバレリバー軍よりも、騎士の盾によって防いでいるハイノウン連合のほうが多い。
ただでさえ数で劣勢を強いられているというのに、損害でも上回っており、イザリーがジョージ目掛けて飛んできた矢をシルフィードクラフトで叩き落とさなければならないほど敗色濃厚な状況であったが、ハイノウン連合に心の折れる者はいない。
その目には不敗の自信が読み取れた。
双方の矢が降り注ぐ中、その距離は次第に縮まり、あと数分でバレリバー軍の魔法圏内、ただしハイノウン連合でその距離まで魔法を飛ばせるのは数人…………戦局がさらに不利になるというときだった。
「矢を変えろ!」
騎士団長の号令で、一瞬矢ぶすまが止まり、再度矢が放たれ、次々にバレリバー軍の風魔法に絡み取られる。
その矢は鏑矢のように先頭が筒状となっており、殺傷力はないが、代わりに筒の中の液体、油を撒き散らした。
「今よ!」
メリッサの声で、魔導士たちが一斉に自分のコンソールを終了させると、信じられないことが起こった。
まだ魔法圏外にも関わらず、バレリバー軍の中に次々と火柱が立ち昇ったのだ。
その炎はバレリバー軍のエルフ達を焼き、そして風魔法によって広がった油に引火し、エルフ達は自らの魔法のせいで炎の渦に巻き込まれ、さらに被害を増やす。
大混乱の中、慌てて風魔法を切れば、油矢から戻したハイノウン連合の矢によって次々と討ち取られていく。
もちろん、これはジョージの仕業である。
ジョージはハイノウンの魔法使い達にとある呪文を共有し、魔法使い達はコーノ平原の予想進行ルートの石など、適当な目標に予め魔法を仕掛けおいたのだ。




