プロローグ
トッサムの首都、ハイノウンの三方を囲う外壁はモンスターの侵入を防ぐための壁であり、人を防ぐための壁ではない。
ハイノウンは本質的には港町であり、海に面している南側からの人の侵入は防ぎようがなく、また街の巨大さから逐一臨検していたのでは物流が滞ってしまうという現実的な理由もあり、ハイノウン城こそ厳重な警備が敷かれていても、その三方にある門、北門、西門、東門に関しては基本は素通りとなっている。
もちろん、エイヒーン皇国のように法外ではないにしても、ほとんどの国は入場に通行税を取る。
しかし、貴族の既得権益と無縁な実力主義国家トッサム王国にはその風習がなく、また国としても豊かであることもあり、基本は自由貿易である。
もっとも、だからといってまったくの無警戒というわけではなく、門には門番がおり、ジョージが最初にハイノウンに訪れたときのように見とがめられて検査を受けることもないわけではない。
また、その交通量に比べれば門が狭いという理由もあり、日中は出入りのための行列ができるのが常だった。
特に三門の中でも交通量の多い西門にいたっては、逞しくも店舗を持てず通りの場所代も払えないような人々が、そういった入場待ちの人々を狙って壁外に屋台を出しており、待ちくたびれた旅人などがそこで軽く食事を取ったりもする。
そんな一つにマンヒル亭という屋台がある。
噂によると有名なコックである父シプレインとの確執故、城内で店を構えられないために城外に屋台を出しているとかで、壁外の屋台としては規模が大きく、六つほどの鉄板付きのテーブルを並べているここは、用意された、あるいは自前の食材を鉄板で焼くことも、店長の調理した料理を注文して食べることもできる人気店だ。
その日のマンヒル亭には異様な、いや、異様というのは言い過ぎだろうか、一見普通の集団なのだが、見る人が見れば驚くような人々によって貸切られていた。
”怒撃”ゴフラン、”無敗の軍師”マーロック、”十強”フリント、”電撃狐”イザリー、”もふ大魔王”ジョージ、よく見れば忙しく給仕しているのはマンヒル亭の若女将マロンだけではない。
ナンバーワン受付嬢のエミリアにマーロックの若妻フランシスカといったキレイどころまで揃って、”†きらめき†”の三人もいるとはいえ、これなんて二つ名集会?状態である。
このような集いにも関わらず、メリッサがその場に居ないのはメリッサが菜食主義だからである。
ただし、この世界のエルフが菜食主義というわけではない。
現に給仕に一区切りついたハーフエルフのエミリアは鉄板の焼き肉を幸せそうに食べていた。
すわどこかの都市、いや国を攻め落とす算段か、と勘違いしそうな集会であったが、実際には別に何か大きな目的があって開かれた集会ではない。
単にジョージとイザリーが三日前に仕留めたA-ランクモンスター、キングエンペラーロイヤルカイザーアデリーミノタウロスのお裾分けで集まっただけである。
キング(略)の肉は牛系の中ではSSSランクという、最高級の肉ではあるのだが、なにせ相手は全長5メートルの巨体、とにかく量が多い。
いくらPGというアイテムボックスがあるとはいえ、これをジョージとイザリーだけで食いきろうとすると飽きるだろうし、イザリーの調理方法にも限界がある(ジョージの調理スキルはお察し)ということで、ジョージが最近頻繁に利用しているマンヒル亭の店長に相談し、今回のこの貸切集会が出来上がったのだ。
この中で異色といえるのはエミリアだが、彼女はゴフランの
「美味い肉、食わせてやる」
という言葉に騙された結果である(ちなみに他の受付嬢は騙されなかった)。
このたまたま開かれた集会が、とんでもない出会いを生むことになるとは、もちろん誰も予想していなかった。




