ニアミス
年内最後の更新です。
1月のどこかから最終章を開始する予定です。
「モォォォォォ!」
ハイノウンから北北西、馬車で6時間ほどかかるミラーンの森にモンスターの断末魔の叫びが響いた。
「これ頼んだ」
「お安い御用なのよ」
たった今、イザリーがシルクラで仕留めたA-ランクモンスター、キングエンペラーロイヤルカイザーアデリーミノタウロスにPGが手をかざすと、それは一瞬で消えた。
PGの中に保存されたのだ。
「java AirHold,java AirHold,java Fly」
本日の仕事を終えた一行は、ジョージの魔法で空を飛ぶ。
キングエンペラーロイヤルカイザーアデリーミノタウロスは高級食材であり、別に誰かに依頼されたわけではなく、美味い肉が食いたくなったジョージの気まぐれで狩られたのだが、A-ランクモンスターともなると首都近辺には居ないため、Flyで遠出していたのだ。
「ん?」
ハイノウンまでの1時間半ほどの道のりを30分ほど飛んだところだろうか。
上空からは生い茂る木によって大地を見ることはないミラーンの森で、唯一の例外、ミラーン川のほとりに人影が見えた。
「PG」
ジョージはプログラミングジャンキーな癖に、裸眼視力は2.0あるのだが、さすがに遠すぎてよく見えず、PGに頼った。
「誰か追われてますの。追ってるのはエルフかしら。追われてるのもエルフかしら。追われてる方には人も混じってますの。あっ」
「なんだ?何か気づいたのか?」
「なんでもないですの。ジョージはどうしますの?ボクは追われてる方を助けたほうがいいと思いますの」
「んー。面倒だな。それより肉が食いたい。とりあえず」
ジョージは脳内エディタを起動すると、AbstractEnemyAttackを継承したクラスを作成し、さくっとコードを記述した。
「お、ちょうどいい。java BigFireBall」
川べりでは逃げきれぬと悟ったのか、追われてる側が止まり、追っ手と対峙しており、その中間に恐らくFireWallあたりを発動したのだろう、炎が上がっていた。
ジョージのMPを136消費して、直径1メートル、温度600度という巨大な火の玉が形成され、それがFireWallを目標として飛んでいく。
「あれだけでかいFireBallが飛んで来れば、どっちも逃げるだろう。その上で爆発が起これば逃げる時間くらい稼げるはずだ。あとは運だな」
そういうと、ジョージは何事もなかったようにFlyで加速し、ハイノウンを目指す。
今のジョージの心の中は、眼下の争いより肉だった。
「java FireWall」
エルフの一人が呪文を唱え、追っ手との間に火の壁を作る。
「相手には水特性属性持ちがいます。長くは持ちません。今のうちに戦う準備を!」
「心得た」
もう一人のエルフが、人族の女性戦士に促すと、戦士は長剣を抜刀し、構えながら、じりじりと後ろに下がって追撃に備える。
戦士は振り返らずに少女に言葉を投げる。
「姫、私の腕では長くは保ちません。今のうちに逃げてください」
「フランシスカ…………」
「姫、早く!」
姫と呼ばれた人族の少女の躊躇は戦士の焦った声で断ち切られた。
「ごめんなさい!行きます!」
少女は護衛のエルフ1人とハイノウンまでの街道に出る川沿いを駆ける。
「java WaterWall」
呪文を唱えたエルフを除く4人の追っ手のエルフが壁が対消滅すると同時に、死を覚悟して対峙するエルフと戦士に向かって突撃したそのとき。
巨大な火の玉が空から降り、ちょうど突撃したエルフの真ん中で爆発した。
ジョージの予想とは異なり、戦場では誰も空を見る余裕などなく、ジョージの放ったとんでもない威力の込められたBigFireBallは完全奇襲となり、一瞬で4人のエルフの命を奪う。
「なんだ、何があった!」
一人残された追っ手のエルフが狼狽している間に戦士が駆け寄り、彼を一刀両断した。
「何があったかわからないが、とにかく助かった、ミリアに合流しよう」
戦士とエルフが川沿いに駆け出す。
こうしてカーガのミリア姫は、ジョージの肉のついでによって追っ手から救われたのだった。
よいお年を!




