めぐりあい想愛
本来は最終章の後に出すつもりだった閑話です。
読み飛ばして最終章完了後に読んだほうがいいかも知れません。
「ぎにゃああ!」
今日もハイノウンにイザリーの悲鳴が響き渡る。
ジョージの突発的なモフりの餌食となったのだ。
「ミウラーさま、酷いです…………私の誕生日プレゼントがそれですか…………」
「え?お前、今日が誕生日なのか、おめでとう。よし、何かプレゼントを」
「プレゼントはこないだ頂いたばかりですから」
イザリーは顔を赤らめながら愛おしそうに自分の首のチョーカーの、茶色い宝石に触れた。
「そうか、じゃあ美味いもの食いに行こうか」
イザリーの頭をぽんぽんと二回叩くと、ジョージはイザリーを先導する。
「お前の好きな食べ物は?」
「そうですね…………お揚げ!」
「ベタすぎる……………」
**************************************
病室でノートパソコン、いや、ラップトップパソコンと言ったほうがいいか…………PC-9801NOTEと呼ばれるそれのスペースキーを押している少女。
その子の名前は三浦想愛。
三浦譲二の同い年の従妹だ。
3型の脊髄進行性筋萎縮症という難病により、病室から出ることが適わなくなった少女が操作しているのは、画面中央で横向きに走っている32マス×#2マスのドット絵だ。
コマ数も4つしかなく、辛うじてそれだとわかる程度に荒い、その狐少女の操作はスペースを押すとジャンプするという単純なもので、この操作で横スクロールする背景に時々登場する障害物…………もちろん背景も障害物も岩っぽい何かだったり丸太っぽい何かだったり…………を避けるだけ、もちろん動きも滑らかにはほど遠く、真上に1キャラクター分上がって、また戻るという雑さ。
今の譲二にとっては恥ずかしい限りの作品だが、それは譲二が13才のときに、生まれて初めてBASICという言語で書いたプログラムだった。
筋萎縮症ゆえ、細かい操作のできない少女にとって、スペースを叩くだけでいいゲームが楽しかったのだろう、夢中で遊んでいた。
「譲二兄さん凄いよ!これ面白かった!この子、名前あるの?」
「いや、まだ名前はつけてない」
「じゃあ、沙里にしようよ、なんか沙里っぽいから」
「おう、そうか、じゃあ沙里だ。次はもうちょっと改良するな」
病室に籠り、本を読むくらいしか娯楽のなかった想愛が見せた笑顔を背に譲二は病室を後にした。
**************************************
それはクリスマスの日だった。
譲二はいつものように病室をノックする。
その手にある3.5インチフロッピーディスクの中には例のゲーム、フォックスランナーのクリスマスバージョンが入っていた。
といっても、狐少女の服が赤くなり、赤い帽子っぽいものを被って、サンタの恰好をしているように見えなくもない、障害物もクリスマスツリーだと言われればそうかも、というようなレベルではあったが。
「どうぞ」
ドアを開けて病室に入った譲二を迎えたのは、クリスマスバージョンの狐少女。
いや、狐少女のコスプレをした想愛だった。
「どう?かわいい?」
無邪気に笑う想愛に、譲二は黙ってPCにフロッピーを刺し、プログラムを起動した。
「わ!凄い!考えることは譲二兄さんと同じなのね!」
自らと同じ格好の狐少女がPCの中で走る、跳ねる。
5分ほど遊んで、クリスマスツリーに当たってゲームオーバーとなると、想愛は言った。
「次はお正月バージョンだね」
「おお、任せとけ!」
それが譲二が生きている想愛を見た最後だった。
**************************************
病室で想愛は想う。
『かみさま、もしかみさまがいるなら教えてください
かみさま、想愛はなにか悪いことをしましたか
かみさま、想愛は普通に生き、普通に育ったはずなのに、どうして死ななければならないのですか
かみさま、もし想愛に悪いことがあったのなら、教えてください
直しますから、だからお兄ちゃんと離れ離れにしないでください
もしそれができないなら、せめて、次に生まれ変わったときは、あの狐少女のように、風のように、走って跳べる体をください
そして、お兄ちゃんの側に置いてください
お兄ちゃんごめんね、お正月は迎えられなそうだけど、生まれ変わったらお兄ちゃんのそばにいるからね』
12月27日。
その日、想愛はその若い命を失う。
それは譲二の初恋が終わった日でもあった。
これ以降、譲二は全てを忘れるかのごとくプログラミングに打ち込み、プログラミングジャンキーと呼ばれるようになる。
**************************************
12月27日、トッサム王国、ディープグラス村。
「おぎゃぁぁぁ」
「おおお!でかした!頑張ったな、ローラ!」
狐族が元気な女児を産んだ。
「おや?この子は」
産婆が少女を産湯に漬けながら言った。
「珍しいね、この子、風使いじゃよ」
狐族は通常特性属性が火属性であり、風属性は稀であった。
「あら、きっと優しい子に育つわ」
「名前は決めておるのか?」
「サリーって名前にしようと思っていたのだけど、風属性には合わないわね。だから、先頭に文字をつけて、この子の名前は…………」




