マリーたんの秘密
若干鬱い内容ですので、苦手な人はスルー推奨です。
「ブォォォォ!」
ハイノウンから北北西、馬車で6時間ほどかかるミラーンの森にモンスターの断末魔の叫びが響いた。
「これ頼んだ」
「お安い御用なのよ」
たった今、イザリーがシルクラで仕留めたB+ランクモンスター、ジェネラルマジシャンデリシャスウィザードカイザードルイドオークにPGが手をかざすと、それは一瞬で消えた。
PGの中に保存されたのだ。
「java AirHold,java AirHold,java Fly」
本日の仕事を終えた一行は、ジョージの魔法で空を飛ぶ。
ジェネラルマジシャンデリシャスウィザードカイザードルイドオークの新鮮な肉は最上級魔力回復薬となり、ギルドから依頼を受けたのだが、B+ランクモンスターともなると首都近辺には居ないため、Flyで遠出していたのだ。
「ところでPG、この世界に統合開発環境はないのか?」
ハイノウンまでの1時間半ほどの道のりもあと少しで終わりというところで、ジョージがPGに話しかけた。
イザリーは何やら楽し気に鼻歌を歌っていて、意味不明とわかっている二人の会話を聞いていない。
IDEというのは、プログラミングする上で色々な補佐をしてくれる開発ツールのことであり、現在の脳内エディタでの開発が、素手で畑を耕すのであれば、IDEでの開発は大農法くらい開発の効率が違うので、各社が力を入れており、たとえばマイクロソフト社はVisualStudioというIDEを出しているし、Javaの開発元はNetBeansというIDEを出している。
「ジョージ、駄目ですの。イデの力を開放してはいけな痛っ!」
ジョージは黙ってPGの頭に拳骨を落とした。
「殴ったですの!ボクがそんなに安っぽい摩道具ですの?」
「お前、なんでそんな日本のサブカルに詳しいんだよ!『親父にも』の前台詞なんてマニアじゃないと知らないだろ!」
「転生者マリアンヌの影響ですの」
「マリーたんのせいか!で、IDEの話に戻るんだが」
「その昔、魔法神の一柱、プレイアデスが、一本の摩道具を作り上げましたの。その名は”失墜マース”」
「なに!Eclipseがあるのか!」
「でも、誰も起動すらできなかったですの。唯一起動できたマリアンヌは」
「マリーたんは?」
「重い!って言ってストーンハンマー火山に投げ込んだですの」
「なんてことをしやがるんだ、マリーたん!ってか、お前とマリーたんってどういう関係なんだ」
いくらマリーたんが転生者だとは言え、PGは詳しすぎる、とジョージは疑問に思った。
「マリアンヌは、PG迷宮攻略のために召喚されたですの。魔法体系の整理もPG迷宮攻略のためですの。ボクはPG迷宮の中にいる人のことを知ることができますの。それが長ければ長いほど。だからマリアンヌについては何でも知ってますの」
「なるほど、そういう繋がりなのか」
「そして、ボクはボクの中の人から影響を受けますの。ボクが一人称ボクなのに語尾が”ですの”なのもマリアンヌの影響ですの」
「『マリーたんの魔法入門』マリーたん、語尾が”ですの”だったのか…………」
「ううん、ボクっ子でしたの」
「そっちかよ!そういえば、毎年研修講師していたときにリアルボクっ子がいたな。ボクっ子の印象が強くて、顔も名前も覚えてないが。そろそろ着くぞ」
ハイノウンの街並みが見えてきたため、ジョージはFlyに集中する。
PGは知っていた、その子を。
(ジョージ、その子の名前は安藤真理。”転生者”マリアンヌですの)
安藤真理は、2か月の研修で現場に放り出すという、いわゆるブラックIT土方の研修生だった。
最初の1か月、ジョージがC言語を教えたところまでは良かったが、その後ジョージが予定通り別の会社の仕事のために講師を交代したところ、そのJava講師が最悪だった。
”お前が知る必要はない””暗記すればいい””理由など考えるな””言われたとおりにやればいい”、ジョージからプログラミングの楽しさ、自由さを教わっていた生徒たちはあるものは反発し、あるものは諦め、あるものは悩み、そして安藤真理は壊れた。
教師が用意した模範解答と、タブや空白まで一字一句違わないプログラムを書くために毎日終電で帰る生活を続けていたある日、彼女は発作的に研修所のあるビルの屋上から飛び降りて自殺した。
しかし、その直後に転移したため、前世ではいまだに”研修にムダ金使わせた挙句失踪した者”扱いとなっている。
(まあ、でもジョージは知る必要がない、ううん、知ってはいけないことですの。だって知ったら自分のせいじゃなくても気に病むでしょうから。だからこれはボクの心の中にしまっておく秘密)
着陸のために集中するジョージの横顔を見ながら、PGはそっとブレスレットへと変わった。




