閑話「マリークリスマス」
クリスマス特別編。
いつもより、ちょっと甘くて長い話です。
「うーん」
イザリーはPGを連れて服屋へと行っている間、ランプや色とりどりの装飾で彩られたハイノウンの街中で一人ジョージが悩んでいた。
そう、今日はクリスマスイブである。
マリアンヌが地球から持ち込んだ、親しい人に感謝を込めてプレゼントを贈るというその素敵なイベントは世界に受け入れられ、その日になれば町のあちこちで
「マリークリスマス!」
の声が響くのである。
さて、ジョージが悩んでいたのはイザリーへのプレゼントだった。
イザリーはどんなものでも喜ぶだろう、そういう優しい子なのはわかっているが、だからといって”クリスマスに女の子にプレゼントを贈る”というのは照れくさいし、とある事情によりそれができない。
限度はご褒美として実用品を贈ることまでだが、かと言って、籠手のような実用的な品を贈るのも何か違う気がする。
その間のようなものはないか、そんな都合の良すぎるものを探して、既に2時間が経っていた。
「おおっと」
「ごめんよー!」
考え事をしていたせいだろう、ジョージにしては珍しく道を急ぐ人を避けそこなって、弾き飛ばされ、思わず手をついた先に店の扉があった。
カランカラン、ベルの音と共に扉が開き、やむを得ずジョージは店内に入る。
「マリークリスマス、いらっしゃい、ほっほっほ」
どことなく薄暗い小さな店のカウンターに座っていた赤いローブを着た店員がジョージに声をかけた。
フードを深く被っているために顔は見えないが、声からしてかなりのご老公であろう。
「すまん、失礼だがここは何屋だ?」
周りを見渡しても、そこに飾られるべき品はなく、ただカウンターの上に飾りのついた台座に載せられた水晶玉だけが置かれていた。
「ここは魔道具屋じゃよ、ほっほっほ」
老人が不気味に笑う。
「ほお。なるほど。どんな品があるんだ?」
「いろいろじゃよ、ほっほっほ」
「…………何もないぞ」
「お主にぴったりな品があるかは、この水晶玉だけが知っておるんじゃよ、ほっほっほ」
なるほど、そういう商売なのか、とジョージは悟った。
恐らく余りものであったり、普段は買い手がつかないものだったり、そういうものをクリスマスにかこつけて高めに売り捌いてしまう。
多少高くても”水晶玉が選んだ貴方のための品です”などと言われれば、つい財布が緩んでしまう、なかなかに上手い商売だが、こういうのに乗っても悪くない、運良くイザリーに似合いそうな品なら高くても買おう、そうジョージは決めた。
「じゃあ見てくれ」
「ふむ…………ほほぉ、これは…………」
水晶玉に変化は見られないが、老人には何かわかったらしい、一度店の奥に引っ込み、またカウンターに戻るとその上に品を置く。
「ほぉ、チョーカーか」
「これは耐魔法のチョーカーじゃ。1日1回、30秒だけ土魔法を防ぐ力を持っておる、ほっほっほ」
ジョージにはそれが本当かどうかはわからないが、チョーカーのデザインを一目で気に入った。
なぜなら、その銀をちりばめられた茶色のベルトはイザリーの尻尾の茶色であり、中央に取り付けられた大きな宝石はイザリーの髪の茶色だったのだから。
「魔道具じゃからサイズは付けたものに合うんじゃ、ほっほっほ」
「幾らだ?」
PGがいないため大金は持っていなかったが、それはちょうどジョージが持ち合わせていたベーブとぴったり同じ額であった。
「メリークリスマス、”転移者”ジョージ。ほっほっほ」
ジョージが店を出たのを確認してから老人がフードを外すと、そこに白いひげ面の温和な顔が現れたのだが、もちろんジョージは知らない。
クリスマスあるところ、あらゆる時空を跨って現れるその老人は次の瞬間、その姿を消した。
その日の夜、空を昇っていく不思議な乗り物を見たと訴える者が門番の手を煩わせるのだが、酔っぱらいの戯言、あるいはまたあいつの仕業だろうと、相手にされることはなかった。
宿に戻ったイザリーは、ジョージから赤いリボンのついた小さな箱を渡された。
「ミウラーさま、開けてもいいですか?」
もちろんジョージは承諾し、イザリーはリボンを紐解き、そのチョーカーに目を奪われる。
「イザリー、いつもありがとうな。勘違いするなよ、これはクリスマスプレゼントじゃない、1日1回土魔法を防ぐ魔道具だからな」
「はい、ありがとうございます。付けてくれますか?」
「ああ」
ジョージがチョーカーをイザリーの細い首につけると、それは淡い光を放ち、イザリーにぴったりとフィットする。
「あの、お返しがしたいのですけど…………」
「クリスマスプレゼントじゃない、ご褒美なんだから気持ちだけでいい」
ジョージはイザリーが貰ったお金のほとんどをディープグラス村へと仕送りしていることを知っており、イザリーがお返ししたくてもできないという事情を理解している。
だからこそわざわざクリスマスプレゼントではないと断ったのだから。
「じゃあ…………これは狐族に伝わることなのですけど、目を瞑ってもらっていいですか?」
「ああ、それくらいならいいぞ」
ジョージは目を瞑る。
「いいって言うまで目を開けないでくださいね」
そう、イザリーが言った直後、ジョージは自分の頬に何かが触れる感触を感じ、動揺するが目を開ける勇気はなかった。
頬への感触が消えてしばらくしてから
「…………いいですよ」
と言われ、目を開けると、そこには人差し指をジョージの頬の近くに伸ばしているイザリーの姿が見えた。
「狐族では、こうやって相手の頬を指で突っつくのが親愛の印なんです」
「あ、ああ、そうなのか」
真っ赤な顔で言うイザリーに、同じく真っ赤な顔をして答えながら、ジョージは変な勘違いをしなくてよかった、と安堵した。
「そうそう、PGちゃんに選んでもらった服があるので、見て貰えますか?」
「おう、いいぞ」
着替えるために洗面所へと消えていくイザリーを見送りながら、ジョージは先ほど感触のあった自分の頬をぽりぽりと掻く。
そして、そこにしばらく残り続けた唇の跡には最後まで気づくことはなかったのであった。




