試合前夜④
「フリント、お前、強かったんだな」
「そりゃ、お前に比べりゃ弱いけどな」
「そういえば前にどっかの騎士団の副団長と言ってた気がする」
「第三騎士団な。そっちもそうだが、俺は自慢じゃないがトッサム王国騎士団十強の一人。つまりトッサム王国の全騎士団員の上から数えて9番目くらいには強い」
「すまん、どれくらい強いのかわからん」
「トッサム騎士団は騎士団あたり600人で、それが第二十騎士団まであります。1万2000人のトップクラスですよ!」
「おお、ありがとう。ポッキーの説明は相変わらずわかりやすくて助かる。で、そのフリントから見てイザリーはどうだ?筋は良さそうか?」
「正直、魔法適性の高い狐族がここまでできるとは思わなかった。補助魔法ありで1対1の試合形式という条件なら、この酒場の中で彼女に勝てるのは俺を含めて数人だろう。喜べ、お前も負ける」
そう言ってフリントはジョージを指差した。
狐族は、基本的には争いを好まない種族であり、狸族とのいざこざ以外では戦うことはほとんどない。
また、どちらかといえば魔法適性の高い種族であり(イザリーも魔法使いを名乗れるほどではないにしてもMPは48)、その代わり物理戦闘には弱い。
試合形式とはいえフリントは、そんな狐族のイザリーが実質Aランクとも噂されるジョージにすら負けないと言ったのだ。
喧騒の酒場の中で、そこだけ真空になったかのように静まり返った。
そんな沈黙を嫌ったのか。
「また随分盛ったなぁ」
別のテーブルで話を聞いていたチェインメイルの冒険者が呆れた顔で言った。
「ジャック、なんなら試してみるか?」
とフリント。
「いいっすよ。今から?」
「お前酔ってるだろ。やる気あるなら明日の9時、演習場に来い。戦わせてやるよ、俺の一番弟子と」
「えええええぇ!何勝手に決めてるんですか!」
イザリーがフリントの冗談に笑いながら悲鳴を上げたが、
「ちょうどいい、これが卒業試験だ」
と言うフリントの顔が笑っていないのを見て、真剣な表情を浮かべる。
「本気ですか」
「本気だ。実は今日、上にも報告した。もう俺が教えても伸ばせることはない。お前は試合なら十分に勝てる力を持った。だが実戦で通じるかは別だ。ここから先は実戦で鍛えるしかない」
「…………ありがとうございました」
しばしの葛藤の後、イザリーはそう言って頭を下げた。
「訓練通りの力を発揮できれば、ジャックに負けることはないだろ。負けたら負けたで何が悪かったのか、何ができなかったのか、いい勉強になる。で、ジャックはどうする?逃げてもいいぞ?」
「冗談だろ、俺がこんなちっこいのに負けるって?明日の9時だな、やってやるよ」
フリントの挑発にチェインメールの冒険者ジャックが応えた。
ジャックはD+冒険者だが、身長180センチ、体重100キロを超える巨漢である。いくらフリントの話だとしても、身長は140センチにも満たず体重も恐らく半分程度しかない狐族の少女に負けるはずがない、という自信があった。
「明日9時、見たい奴がいたら、訓練場まで来い!」
「おー行く行く、イザリーちゃん頑張れ!」
「俺も行くぞ!イザリーちゃん、怪我しないようにね!」
「あたしも見るー怪我したらお姉さんが治してあげるよー」
冒険者としては珍しい狐族の少女、イザリーが試合をするというので保護者気分の冒険者達が盛り上がった。
「なんかとんでもないことになってきました…………」
そう言ったイザリーは涙目だった。




