試合前夜③
「んじゃイザリーちゃん、本番いくよ」
「なんですか、その本番て」
とベッキーにツッコミを入れながらもイザリーはよろよろとジョージの右隣りに座り、エールを手に持つ。
「本番のかんぱーい」
「かんぱーい」
両手にカップを持ったイザリーがエールを一口だけ、舐めるように飲む。
「あー、この子はあんまり飲めないんだ。これで許してやってくれ」
すかさずフォローするジョージ。
「うちら無理に勧めたりはしないから安心してね。今日でちょうど一週間?疲れてるでしょう」
イザリーの右のベッキーがイザリーに微笑みながら語りかける。
”†きらめき†”も、いや、”†きらめき†”だけでなく、酒場に居るほぼ全員の冒険者もイザリーが今の時間まで何をしていたか知っているのだ。
まだ一週間、されど一週間。
ギルドの常連であれば彼女の頑張りを知らないものはいない。
イザリーはギルドの訓練所で文字通り血を吐くような特訓を受けていた。
これはジョージがやらせたことではない。
イザリーが、自ら願ったことだ。
イザリーは、自分がジョージにとって”お荷物”にしかなっていないことを自覚し、ジョージがそのことを気にしていないこともわかっていたが、それでも負い目を感じていた。
そのため、マーロックに相談したところ、マーロックもイザリーが足手まといになることでジョージに危機が及べばトッサムの損失になると判断、これを快諾すると、即ギルドの訓練所を予約、しかも自分の権限で講師まで用意した。
フリントである。
現在、フリントは”公務”としてイザリーを鍛えている。
「で、どうだ?」
追加注文した定食…………パンとシチューにサラダに舌鼓を打っているイザリーにジョージが話しかけた。
「んー、受け流しは10回に9回は成功するようになったのですけど」
「フリントさんが手を抜いて、だよね?」
ポッキーが念のために確認すると、イザリーは首を振りながら
「フリントさん、”俺は手抜きできるほど器用じゃないし、手抜きを受けても練習にならん”っていつも全力ですよ。おかげで最初は手が痺れて、ごはん食べるのが大変でした」
イザリーの言葉に、周りの冒険者達がざわついた。
「そこそこできるようになったな。偉い偉い」
イザリーはジョージに頭を撫でられて一瞬喜色を浮かべたが、ためいきをついて
「でも、攻撃はまだ20回に1回くらいしか当てられませんから」
「そうか、慌てなくていいからな」
「ちょっ、ジョージさん、本気で言ってるんですか?」
ポッキーが割り込んだ。
「急がせて怪我でもしたら元も子もないだろ」
「いや、そうじゃなくて、あのフリントさん相手に20回に1回でも当てるって、どんだけ凄いかわかってます?」
「フリントって強いのか?」
「強いって、ありえないくらい強いですよ。正直信じられません」
「残念ながら事実だよ。あ、ねーちゃんエールくれ!」
ちょうどフリントが戻ってきて、そう言うと同じテーブルに座った。




