ギルドデビュー③
エミリアが我に返るに要した時間は数秒。
ギルドカウンターの奥の通路にドワーフの気配を感じなければ、もっとかかっていたかも知れない。
背中に冷や汗を流しながら、振り返ってドワーフのほうを向いたエミリアの顔に
(あたし、何を間違えたの?)
と書いてあるのを見てとり、ドワーフはエミリアのカウンターへと向かう。
「なんだ、何事かと思ったら坊主か、ずいぶんと遅かったじゃないか」
ドワーフ…………ハイノウンのギルドマスター、ゴフランが青年に声をかけると、ギルド内にざわめきが広がった。
さすがに受付嬢たちは声を出さないが、それでもエミリアの2列先でカードを取り落とす音が聞こえたのは少なからず動揺があったからだろう。
冒険者はギルドマスターコールなどという仕組みは知らないこともあり、ゴフランがカウンター姿を見せるのは珍しいことではない。
特に不思議なことにボルトがエミリアのカウンターに居るときは偶然顔を出すことが多い。
しかし、ゴフランが冒険者に対して気安そうに声をかけることは滅多にないのだ。
「いや、すまん。昨日はアンディの家に泊めてもらってな」
「マーロックんとこか、奥さん犯罪的に若いし美人だし飯は美味いしでいい身分だよなぁ」
ざわめきが消えた。
(え?え?マーロックって、”無敗の軍師”アンドレア・マーロック卿?家に泊まった?)
エミリアの疑問はそのまま、現在ギルドに居る全員の疑問でもあった。
みな、一字一句聞き漏らさないように聞き耳を立てている。
もちろん、ゴフランはジョージにいらぬちょっかいを出す輩が出ないようにと、わざと聞こえるように話していた。
「それで、どうしてもFlyを体験したいって言うんで、朝からイザリーとアンディと一緒に飛んで」
(Flyって何?まさか飛行魔法のことじゃないよね?)
「ほお。本当にできるのか。あとでマーロックにどうだったか聞かんといかんな」
「初めは怖がっていたんだが、途中から平気になったようで、あっち行け、こっち行けと。なんでも防衛の役に立てるとかで。そうしたら北のほうにグランタートルとかいう、でっかい亀が4匹見えたんでついでに倒してきた」
「わはは、でっかい亀か、固かっただろ?」
グランタートルはBランクモンスターにカウントされる。
全長は8メートルほど、重さは16トンにもなり、動きは鈍いが、膨大な耐久力を持ち、力も強く、しかも肉食である。
畜産の天敵のためBランクモンスター扱いとなっているが、標準的なCランクパーティでも時間をかければ倒せないことはない。
だが、それが4体の群れとなると話は別だ。
Aランクの緊急討伐依頼が出てもおかしくないのだ。
(コノヒトタチハナニヲイッテルノカシラ)
完全に思考停止するエミリア。
そんなエミリアに規格外の犠牲者仲間として同情するイザリー。
「鈍いんで真上からStoneBallで攻撃したら簡単に沈んだが、まさか亀に火耐性があるとは思わなかったよ。弱点が土とアンディに教えられなければ苦戦していただろう。まだまだ知らないといけないことが多いな」
「グランタートルはどうした?」
「持ち運べるようなものでもないんで、魔石だけ回収して放置してきた」
それを聞いた瞬間、ギルドに居た冒険者が出口へと向かって動き出した。
グランタートルは素材として一流であり、高く売れるのだ。
しかし、ジョージが
「今頃はアンディの部下が回収してるんじゃないか」
と言ったため、停止する。
と、まるでそのタイミングを見計らっていたかのように、ギルドの扉が開き、騎士を連れた男が入ってきた。
アンドレア・マーロック卿その人である。
「すまん、依頼がしたい!依頼内容はグランタートル4体の解体と運搬だ!人手が足らん!急ぎなので報酬は弾むぞ!」
ギルド内が歓声に包まれる中、エミリアは魂が抜けたような顔で呆然としているのであった。
魔石の換金はスムーズに終わり、ジョージとイザリーは2日目にしてCランク冒険者に上がった。
そして、ジョージに舌打ちした上に殺意を向けたボルトは、それ以降ジョージの姿を見るとそそくさとギルドを出るようになり、結果としてエミリアはジョージ担当のようになってしまうのであった。
チートの主人公がギルドに来たら、普通はこうなりますよね。




