プロローグ
ギルドとは通り1つを隔てた位置にあることもあって、近いわりには静寂な立地ということもあり、”風月荘”は、ギルドと提携する冒険者用の宿の中でも比較的上級の宿である。
もう深更近い時間のため、開け放された窓から照らす半月だけが唯一の明かりとなった6畳ほどの和室に、離れて敷かれた2つの布団。
微かに虫の声が聞こえる以外は、ときおりその宿の名のとおり吹き込む風の音、そして2つの息の音しか聞こえない。
それはジョージとイザリーの寝室であった。
「寝られないのか」
その一つから、もう一つの布団に向かって声がかけられた。
「…………はい」
「そうか」
そして、沈黙と静寂。
しばらくして、それに耐えられなくなったのか、また声がかけられる。
「まあ、初めての戦いだ、緊張するのは仕方ないが、少しでも寝ておけ」
「…………ミウラーさま、そっちに行ってもいいですか」
「…………特別だぞ」
ゆっくりと時間をかけて交わされた三言。
その時間が二人の微妙な関係を表していた。
意外なことに、これだけ一緒に生活しておきながら、ジョージとイザリーは男女の関係にはなっていない。
もしジョージがそれを求めればイザリーが断ることはないだろうことは薄々わかっていたが、ジョージにその気持ちはなかった。
”イザリーは自分の良心”という言葉は嘘ではない。
ジョージにとってイザリーは自分の良心であり、相棒であり、また妹のようなものであった。
またジョージは、この世界が一夫多妻も一妻多夫も認められていることを知っていたが、だからといってハーレムを築くつもりもなかった。
イザリーに手を出すことは、すなわちハーレムへの道に進む。
ジョージには何故かそういう予感と確信があり、そういった意味でもイザリーは”良心”なのだった。
隣の布団からごそごそと音がすると、ジョージの布団にイザリーが潜り込んでき、そしてジョージに密着した。
半襦袢に腰巻という薄着のイザリーの、その体の柔らかさが直接ジョージに感じられると、体は正直なもので、いくらその気がないとは言えジョージの下半身は反応しそうになった。
だが、抱きついてきたイザリーの手が震えているのを感じ取ると、それは一気に治まった。
「大丈夫だ」
ジョージはイザリーの頭を優しく撫でた。
しばらくそうしているうちに、イザリーの震えは止まり、さらに数分もすると寝息が聞こえてくる。
(今夜は眠れないな)
ジョージは一晩中イザリーの頭を撫で続ける覚悟を決める。
(なんでこうなったんだっけ)
ジョージは記憶を辿る。
そもそもは今から10日ほど前、初めて冒険者ギルドを訪れた時から始まった…………




