トラベリング
バッターボックスに立つ少年の背中で『2』が風を受けて、一瞬大きく張らんだ。
祈るように胸の前で組み合わせた指の間を湿った風が通り抜けて行く。
ベンチのサインに軽く頷いたのか、濃紺のヘルメットが上下した。
湿り気を含んで風は、東から西へと抜けて行く。
仰げば梅雨明けを間近に控えた、重い空が広がっていた。
海岸線に出るなり夏の日射しが照りつける。
これじゃ、体育館はサウナだわ…
ナイキのスポーツバックを右の肩から左へ移そうとした時、ふっとバックが軽くなった。
な、何?
「ボケッと歩いてっとバック、盗られたって気がつかねーぞ!」
いきなり頭上から聞き覚えのある低い声が降ってきた。
車道側に赤いママチャリに股がった祐司がいた。
麻美のスポーツバックを自分の肩に斜めにかけると
「野球部の応援、行くんだろ?練習、終わったらオレも付き合うわ。どーせ暇だし」