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魔法少女はお姫様がお好き  作者: 神河千紘
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第08話 Dear my friend(後編)



 空から舞い降りた漆黒の魔法少女、ノワール・モエット。

 高らかに笑う彼女に私はつぶやく。



「……何してるの? もえちゃん」



「も、もえちゃんじゃない!! ノワール・モエット!!」



 もえちゃんだアレ。

 いくら服装が変わろうと、顔が変わっていない以上顔バレは必須である。


「ま、魔法少女の本名を呼ぶのは反則だぞ華! っていうかさっき不意打ちしたろ?! 卑怯極まりないぞお前?!」


「いや、だって隠れもせずに飛んでくるからつい……って言うか、ほんとに何やってるの?!」


 しかも、そこの女の命をもらうって言った……?

 彩綾ちゃんの事を言ってるの?

 当の彩綾ちゃんは今になって顔を見てもえちゃんだと気付いたらしく、ビックリして私ともえちゃんの間で視線をキョロキョロさせている。

 イリスちゃんは警戒を解いていない。

 それはそうだろう。


 もえちゃんからすごい魔力を感じる。


 魔法少女になって少し経つ。何人かの追手を撃退してきたけれど、その誰よりも強い魔力が滲み出ている。

 

 いつも通りの口調で話してはいるけれど、背負うオーラは漆黒で、私達を威圧する。



「さっきも言ったろ。今日は挨拶代わりだよ。華がそこのお姫さんを守るって言うなら、私がそのお姫さんを殺す」



 ……何言ってるの?


 もえちゃんが、彩綾ちゃんを、殺す?



「な、なんで……? なんでそんな事言うの……?」


「ちょっと頼まれちゃってさ。それに――まぁ、私にも色々事情がある。お姫さん、アンタに恨みは無いけど、死んでもらうよ」


「……状況が飲み込めないのだけれど、平原さん」


「平原さん言うな! ノワール・モエット!! もういいや、とりあえずサクッと死んでよ」



 言い終わると同時に、もえちゃんの掌に魔力が圧縮され、魔力弾が放たれる!

 私は咄嗟に彩綾ちゃんの前に飛び出し、障壁コロナを先程と同じ円錐状に展開し、その魔力弾を防ぐ。


 舌打ちしながら、苦々しげに私達を見つめるもえちゃん。


 本気だ。

 あの魔力弾は、私が防がなければ人を1人殺す事等わけない位の威力があった。


「どいて、華」


 もえちゃんは真剣そのものの瞳で私にそう言った。


「嫌だよ!! なんで?! ねぇ、なんでこんな事するの?!」


「事情があるって言ったでしょ。華には何もしない。でもそのお姫さんには死んでもらわないと困るの」


「事情があるじゃわかんないよ! そんな簡単に、人を殺すなんて――」



「……華だって、話してくれなかったじゃない。それに、もう華だって何人か殺してるんでしょ?」



 言葉が、私を、穿つ。


 それは、考えないようにしてきた事実。


 彩綾ちゃんを殺そうとしてきた追手とは言え、私は、人を、



「そんな華に言われたくない。でも華、もう華は何もしなくていいの。私がそのお姫さんを殺せば、それで済む」



 殺してきた。


 彩綾ちゃんを殺そうとする追手を、殺してきた。


 事情があっても、もえちゃんに話さなかった。


 全部私がしてきたこと、だ。



「だから、死んでよ、お姫さん」



 もう一度、もえちゃんが魔力弾を放つ。


 私はもう1度それを防ぐ。しかし、


「華、それじゃ――!」


 イリスちゃんの叫び声。障壁の強度が低い――!


 ドンッ!! という爆発音と共に、私と彩綾ちゃんの周りが土煙で覆われる。

 

「華! 華、大丈夫?!」


 彩綾ちゃんの悲痛な声が響いて。

 良かった、彩綾ちゃんは無事みたいだ。

 咄嗟に彩綾ちゃんに覆いかぶさって、なんとか衝撃から守れたみたい。

 しかし、防御効果のある衣装がなんとか命を守ってくれただけで、私の全身に走る痛みが、殺しきれなかった衝撃の強さを物語っていた。

 


「……華、どうして邪魔するの」



 もえちゃんの声が降り注ぐ。



「ねぇ。わかってよ。私にも事情があるの。そのお姫さんを殺さないといけないの。だから邪魔しないで。私は華を傷つけたくない」


 心の強さが魔力の強さ。

 私はイリスちゃんの言葉を反芻する。

 そうか、さっきの言葉で私が動揺したから、障壁が弱まって、防ぎきれなかったんだ。


 ――馬鹿か私は。


 そんな事は全部わかっていた筈だ。

 わかっていた事をただ、改めて言われただけだ。

 何を動揺してるんだ。


 そんなのは、全部承知の上だ。


 今更だ。



「嫌、だよ。私は、彩綾ちゃんを守る。そう決めたの」



 言葉にする事で、私は自分の意志を確認する。


 誰が襲って来ても、どんな相手でも、私が退ける。

 その結果、相手を殺すことになってしまっても、それでも私は彩綾ちゃんを守る。


 好きな人の命を守るために、私は私自身の全てをかける。


 それだけが、私の意思。


 それでいい。




「は、華……」



 彩綾ちゃんが心配そうな声をあげる。

 だから私は、笑うんだ。

 出来る限りの笑顔を作って、彩綾ちゃんに向けて、囁く。



「大丈夫、絶対に守るよ」



 体をなんとか起こす。

 大丈夫、まだやれる。

 それに、このくらいの痛みがなんだって言うのか。


 彩綾ちゃんはずっと、追手に追われて来たんだ。


 こっちに逃げてきてからも、ずっと。


 もうそんな辛さとは、怖さとは、お別れしてもいい筈だ。


 私がその為の、魔法になる。



「……昔から、そうだったよね。普段は気弱で、大人しくてさ。でも1回そうって決めたら、頑固な所もあってさ」



「……ごめんね、もえちゃん。事情があるのはわかったよ。でも、私は彩綾ちゃんを守るってもう決めたから。絶対に退けない」



 私はもえちゃんに向き直り、改めてそう告げた。



「なんで――」



 もえちゃんが奥歯を強く噛みしめる。

 ここまでその音が聞こえてきそうなほど、強く。



「あのね、もえちゃん。もえちゃんにどんな事情があるのか、話して欲しい。もえちゃんがそうなように、私も、もえちゃんを傷つけたくない」



 これはこれで、私の本音だ。

 私の数少ない、本当の友達。もえちゃん。

 傷つけたいわけがなかった。

 どんな事情があるのかはわからないけれど、出来ればそれをちゃんと聞いたうえで、会話で済ませたい。


 

「……悪いけど、言えない。でも約束する。絶対に華の為になることだから」



「私の為になる?」



 私は杖をもえちゃんに向ける。



「私は自分の意思で、彩綾ちゃんを守りたいと思ってるの。それを邪魔する事が私の為になる? 意味がわからないよ」



「……わかっては、くれないか。ごめんね、華。少しだけ――」



 もえちゃんの周囲に魔力が圧縮されていく。


 これまでとは桁違いの威力の弾が来る。



「動けなくするだけだから。耐えて」



 空間が歪む程の魔力の塊が、圧縮されて、凝縮されて、小さな無数の弾になって、



「ディストーション・オブ・ジ・エンド」


 

 雨のように降り注ぐ!



障壁コロナ多重展開ネビュラ!!」



 私は幾重にも障壁を張り巡らせ、全ての弾を防ごうとする。

 

 ――っ、1つ1つの威力が、さっきより強い――!

 

 縦に並べた盾が、1つ、また1つと破られていく!


 その向こうで、もえちゃんが指を掲げ、



「Ver.サンダー」



 パチン、と鳴らした。


 刹那、今まで降り注いでいたそれぞれの弾が、黒い電流のようなものに包まれ――雨の1粒1粒が稲妻になったように、降り注いだ。



「華!! これは――!」



 イリスちゃんが何か叫んでいるけれど、轟音で聞こえない。

 障壁が次々と破られていく!

 とんでもない魔法――!

 でも、絶対に防ぐ!



 私の後ろには、彩綾ちゃんがいるんだから――!!



絶対障壁コロナ・フル・ブルーム!!」



 並んだ障壁の最下層に、傘状に1番強く障壁を展開する!

 絶対障壁の一番上が瞬く間に破られ、とてつもない衝撃が走る。



「――っくっ、ああぁぁぁああああああ!!」



 私はとにかく全身全霊を込めて、その衝撃を受け止める。


 圧縮されていた最後の稲妻が、極大の威力を持って障壁に降り注ぐ!


 絶対障壁にヒビが入る。私の足が地面に溝を作りながら下がる。

 そして――直接雷が耳に落ちたような轟音と共に、稲妻と障壁が相殺し、散った。



「……はぁっ……」



 私は息をつき、そのまま膝をつく。



「……まさか、そこまで耐えるなんて、ね……」



 見上げると、もえちゃんも息を荒くしている。

 血の気の引いたような顔色で、余裕は無さそうだ。


 私も変わらない。


 防ぐだけで全力で、私の体全てから力が抜けていく。


 杖が、形を保てずに消滅した。



「でも、もう、動けないでしょ」



 それでももえちゃんは、こちらに掌を向け、更なる魔法を放とうと魔力の圧縮を始める。

 嘘でしょ、まだ撃てるの……?!

 さっきみたいなのが来たら、もう防げないかも――私がそう思った瞬間、私の体に影がかかった。



「もう、やめて」



 私の前に、彩綾ちゃんが立ち、両手を広げている。



「彩綾ちゃん!!」 



「……なんのつもり? 殺される気になった?」



「そうじゃないわ。イリス」


「うん」



 イリスちゃんがヒラリと彩綾ちゃんの前に飛来する。


「これ以上、華を傷つけさせたくないだけよ。華が私を守ってくれるように、私も華を守る」



「――ふ」



 一瞬で、もえちゃんの顔が、歪んで、



「ふざっっっけんな!!!! 誰の為に華が傷ついてると思ってる?!! お前を守る為だよ!!!!」



 絶叫が、辺りに響いた。



「わかっているわ。でも、だからって私が華を守ってはいけないという事は無いでしょう?」



「お前……なんなんだお前?! 華のなんなんだよ?! 華に守らせたり、華を守ったり、意味がわからねぇよ!?」



 もえちゃんの激情が、冷静な顔の彩綾ちゃんに降り注ぐ。

 

 彩綾ちゃんは私の前に立っていて、表情が読み取れない。


 しかしとても穏やかな声で、まるで微笑んでいるような声で、彼女は言った。




「友達よ。華は私の全てを知っても、私を守ると言ってくれた。私の大切な友達。だから私も守りたい。それだけよ」




 友達。




 大切な、友達。




 友達、か――。




 その言葉で、急激に膨らむ胸の痛みと、脳内を満たす幸せが綯い交ぜになって、心の中が、嵐を巻き起こして。




 そして、私の中で、何かが、壊れた。




「彩綾ちゃん、ありがと。でも、少し後ろに下がっていて」




 私は立ち上がる。右手にはすぐさま杖と、衝撃で破れていた衣装を再生する。

 内面に吹き荒れる暴風雨。

 衣装には心なしか黒いレースと模様が浮かび上がり、杖にも真っ黒なディティールが走る。


 私の纏う服が、杖が、白黒入り混じった複雑な光を放つ。


 彩綾ちゃんとイリスちゃんが振り返り、私を驚いたような顔で見つめる。



「華、それは――」


「属性が、入り混じってる……?」



「華!! もうやめな!! アンタは絶対に、そのお姫さんから引き離す!! そいつと一緒にいても、アンタは不幸にしかならない!」



 もえちゃんが叫ぶ。

 あぁ、そう。



「いい加減にしてよ」



 私は杖をもえちゃんに向ける。



「もえちゃん、私の事は、私が決める。もえちゃんにどんな事情があるのかはわからないよ。でも、私にも譲れない物があるの。絶対に、誰にも譲りたくない気持ちがあるの。それはさ、今も私の中でどんどん強くなっていって。どうしても収まらない。私の中から今すぐにでも全部漏れでてしまいそうなの。でもね、それは出来ない。わかる? そりゃあ、辛いよ。すごく辛い。私は今、本当に頭がおかしくなりそうなんだよ。でもね、手放せないの。全部投げ捨てる事なんて出来ない。それは私にとって、すごく痛くて、すごく辛くて、私の体を内側から全部バラバラにしそうな程……大切な気持ちだから」



 握り直した杖に、魔力を圧縮する。


 もえちゃんは、ハッとしたような表情で、涙をこらえるような顔になって。


 その上で、私に言い放った。



「それでも、アンタはそのお姫さんにとって、友達・・なんだよ!!」



「トゥインクル・トゥインクル・シューティングスター」



 私の杖の先端から、7本の光の線が、放たれた。



「チィッ!!」


 舌打ちと共に、もえちゃんが自分の全周囲に、障壁を張り巡らせる。


 その間も私は、まだ杖に魔力を込める。


 不思議と、私の内側からは、力が溢れてきていた。


 まだ、撃てる。



 カッ――と。爆発音と共に極大の光が辺りを照らす。


 その光が晴れた時、球体状の障壁に包まれながら息を荒くするもえちゃんの姿が見えた。



 ごめんね、もえちゃん。



「トゥインクル・トゥインクル・スーパーノヴァ」




 杖の先端から、建物を1つ丸呑みにしようかという白と黒が二重螺旋に織り込まれ、放たれる。

 周囲から一切の音が消える。

 私の足の踵が地面に溝を刻みこみ、杖が辺りの地面を抉る程の排熱を行う。



 放たれたソレは、膨大な魔力を渦と巻いて、衝撃を撒き散らしながら、もえちゃんへと向かう。



 咄嗟にもえちゃんが、私が放ったのと同じレベルの障壁を展開するのが見えた。



 直撃。



 辺り一面を、星が爆発したかのような光が覆う。


 その上で、その光を、中心の闇が飲み込む。


 一瞬の暴虐。暴力。絶対的な消滅を目的とした、星を飲み込むような超重獄。



 音も、光も、全てを飲み込むようなその闇が終焉を迎えた時。


 そこには、衣装も羽も全身ボロボロになって、それでもなんとかそこに浮かんでいる、もえちゃんの姿があった。



 しかし、力が全て抜けたのか、もえちゃんは落下を始める。



 私はそれを受け止めるべく踏み出そうとするが、私の全身からも力が抜けきり、足が動かない。



「――もえちゃん!!」



 私の叫びに呼応するかのように、周囲の背景を歪ませ、男が1人、姿を表した。

 ソレはもえちゃんを抱き止めると、その場から即座に退却する。



「もえちゃん!! もえちゃん……っ!!」



 駄目だ、力が、入らな――



 踏みとどまっていた足が勝手に膝をつき、私は地面に倒れ込み、そのまま意識の全てが闇に飲まれていくのを感じていた。

挨拶代わりに全力で戦闘する人達って……!

とりあえず『Dear my friend』一段落ですが、お話はまだ続きます。

今後も宜しくお願い致します。

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