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魔法少女はお姫様がお好き  作者: 神河千紘
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第06話 Dear my friend(前編)



 彩綾ちゃんがお泊りする事になった夜。

 『わかば』さんの1期目が終わった所で、まずは晩ご飯を食べる事になった。

 お母さんはこんな事もあろうかと今日はカレーを作ってくれてたらしいけど、多分彩綾ちゃんがいなくてもカレーだった気がする。


「華のお母さんは料理が上手ね! カレー、すごく美味しかったわ!」


 という彩綾ちゃんの声が聞けたので、私としては一安心。お姫様にご家庭の味が合うのかちょっと不安だったけれど、その辺は大丈夫だったみたいだ。

 

 何よりも、お母さんがすごく喜んでくれた。


「華がもえちゃん以外のお友達を連れてくるなんて! しかもこんな可愛い子を!」


 血筋は疑う余地もなかった。母よ……。


 でも本当に、うちにもえちゃん以外の人が遊びに来る事なんて、無いと思ってた。

 私はクラスで話すのはもえちゃん位だったし、別に他の子と話さないわけじゃなかったけれど、仲が良いって程でも無かったから。


 人と関わる事が嫌なんじゃない。

 ただ、私が好きなものや、相手の好きなものを共有出来る気がしなかったから、そこまで踏み込めずにいただけだ。


 でも彩綾ちゃんは踏み込んで来てくれた。

 私と、『わかば』さんを共有してくれた。

 理由はともかく、それが私も嬉しかった。



 とりあえず2期を見始める前に、やるべきことはやっておこうという事で、先にお風呂に入る事になった。


 ……いやさぁ、流石に一緒にお風呂はハードル高いよね。


 そりゃあ、見たいですよ。彩綾ちゃんがお風呂に入ってる所はね?

 でも一緒にってなるとね……私も見られるわけでしょ?

 流石にそれはちょっと緊張すると言うか怖いと言いますか。


 まずは彩綾ちゃんに先にお風呂に入っていただきました。


「私が先にいただくなんて、いいのかしら……?」


 と彩綾ちゃんは戸惑い気味だったけれど、私は満面の笑みで彩綾ちゃんをお風呂に送り出した。

 お母さんに姿が見えないようにしていたイリスちゃんが、私をジト目で見ている。

 

 大丈夫だよ、彩綾ちゃんがあがった後にそのお湯飲んだりしないよ……。


 ちょっと見に行くだけ☆


 いやぁ、私、女子で良かった。良くないけど良かった。


 彩綾ちゃんがお風呂に入って既に10分程度経過している。

 今こそ作戦を発動する時!


 私は洗面所兼脱衣所の前に立つ。


 そろりそろりとドアを開けると……お風呂のドアの向こうから彩綾ちゃんの鼻歌が聞こえてくる。

 イリスちゃんが巧みにそれにハモっていた。

 なんだその無駄な技術は。お姫様と精霊のコンビはお風呂の鼻歌すら芸術にするというのかっ。


 !!


 当たり前ですけど服が!!


 服が脱がれていますよ!!


 あぁあぁぁあアグレッシブな人達が羨ましい!!

 私にはまだクンカクンカしにいく度胸は無いみたいです……!

 とっさに鼻を押さえたけれど、幸い鼻血は出ていなかった。


 と、とにかく!


 私がやるべきことは1つ。

 『湯加減いかがですか作戦』だ。

 何気なくお風呂のドアを少し開き、中を覗きながら湯加減を伺う。


 彩綾ちゃんがお風呂に入っている様を堂々と見るためのパーフェクトプランである。

 

 よし、今しかない。


 深呼吸を1つ。


 このドアの向こうには、裸の彩綾ちゃんが……!


 何気なく。あくまでも何気なく。お湯の加減を聞くだけよ私!


 せーのっ。


 カラカラという音と共に、少しだけドアを開け、すかさず声をかける!


「彩綾ちゃーん、お湯加減どうかなぁ?」


「きゃっ、は、華! だ、大丈夫よ!?」


「あ、それならよかっ――」


 そのまま中に視線をやった瞬間に、普段は薄く透けたワンピースを来ている筈のイリスちゃんの全裸が視界いっぱいに飛び込んで来て……


「出たわね華! 来ると思ってたわっ!」


 ぺちーん! と私のおでこに軽い衝撃が走る。

 ま、魔法だってー!?

 私は負けじと足を踏ん張る、が、踏ん張った場所は足ふきマットの上で。

 次の瞬間私は、マットごと足を滑らせていた。


「わわわあああっ、ちょっ、うそ、あああぁぁああ!!」


 か、体が勝手にっ!?





 ばしゃーーーーーーーん。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 結局、一緒に入る事になりました。

 お風呂に飛び込んだ私は、お母さんに着替えを持ってきてもらい、そのままお風呂へ。

 彩綾ちゃんが笑顔で歓迎してくれたので、本当に助かりましたが、私の心臓はメタルバンドのツーバス並のドッコドコです、ハイ。


「もう……一緒に入りたかったならそう言ってくれればよかったのに」


「ふえぇっ?! な、そんな恐れ多い事私から言えないよっ!!」


「友達なんだから、このくらい別にどうって事ないでしょう? 急にドアを開けられる方が余程ビックリするわよ」


「その節は大変申し訳御座いませんでした……!」


 彩綾ちゃんが浴槽の中から私を見ている。ついでにイリスちゃんもニヤニヤしながら私を見てくる。

 な、なんという羞恥プレイ……。

 とにかく私は、このプレイを早めに終わらせるべくいそいそと頭を洗う。


「もう、華ってば。そんなワチャワチャとしちゃダメよ。私が洗ってあげましょうか?」


「しゃ!? ちょ、彩綾ちゃんが?!」


「私、昔から、友達とこういうのした事が無かったから、ちょっとした夢だったのよね」


「いやいやいやいやいや私死んじゃうよ?????」


 なんで頭を洗われると死ぬのよ、と苦笑い気味のツッコミを入れながら、彩綾ちゃんが浴槽から出てくる。

 イリスちゃんは浴槽からこっちをニタニタと見ている。なんだよう、イリスちゃんがあんな事するから私のパーフェクトプランが……!


「ほら、華、手を降ろして?」


 頭にやりっぱなしだった私の手をそっとよけると、彩綾ちゃんの細い指が、私の髪に触れる。

 私はそれだけで緊張してしまって、無駄に背筋を伸ばして鏡の前に座る。

 

「華の髪は柔らかくて細いわね……すごく綺麗。ちゃんと手を入れてあげないと、勿体無いわよ?」


「そ、そんな……彩綾ちゃんの髪の方が何万倍も綺麗だよ。私は別に、普通っていうかその」


「そう? 私は華のこの黒髪、すごく好きよ? だから丁寧に洗ってあげなきゃ。ね?」


「う、うん……」


 彩綾ちゃん、あの、背中にですね。あたってますあの、ハイ。私には無い奴が。


「彩綾ちゃんは、さ……」


「なぁに?」


 私の髪を優しく泡で包みながら、彩綾ちゃんが相槌を打ってくれる。


「綺麗だよ、本当に。私と違ってスタイルもすごくいいし。髪も何もかも、本当に、綺麗」


「もう……そんなに褒め倒しても、何も出ないわよ? それに」


 彩綾ちゃんの指先が私の首筋をサラリと撫でる。

 私の体はそれに反応してしまって、小さく震えて。


「さっきも言ったけれど、私は華のこの黒髪も、細い体も、白い肌も、綺麗だと思うわ」


「彩綾ちゃん……」


 私は少し潤んだ瞳で鏡越しに彩綾ちゃんを見る。

 すると、鏡越しに彩綾ちゃんの碧眼と視線が衝突する。

 彩綾ちゃんは柔らかく笑って、視線を合わせたまま耳元に口を近付け


「本当よ。華は可愛い。だから、もっと自信を持って?」


 そのまま囁いた。


 私の心臓が悲鳴を上げている。

 理性が全力で煩悩を捕縛する。

 

 体中が熱に浮かされたようにふわふわして、私の心は全部、この人のものだと本能が理解していた。



「ほーら、そろそろ流してあげないと、華もサーヤも湯冷めしちゃうよー?」


「あ、ごめんなさい、そうね。華の髪に触れてるのが気持ちよくてつい」


 そのまま彩綾ちゃんがシャワーでお湯をかけてくれる。

 

 イリスちゃんが声をかけてくれなかったら、私はもう、我慢できなかったかもしれなかった。


 お湯が泡を流していく。


 私はそのまま顔を上げて鏡の中の自分を見る。


 後ろのお姫様とは似ても似つかない、見慣れた自分と目が合う。



 ――気持ち悪い。



 ごめんなさい。



 私の頭の中が、そんな言葉で埋め尽くされていく。



 温かいお湯に包まれながら、私の心は少しずつ落ち着きを取り戻す。

 彩綾ちゃんには、そんなつもり全く無いんだから。


 ただ、友達の頭を洗ってあげただけで。


 こんな風に思っているのは私だけで。



「はい、おしまい」



 微笑む彩綾ちゃんと目が合わせられなくて、私は少し俯き、ありがとう、と呟いた。



 流石に湯船に2人で入るのは狭すぎたので、私が体を洗っている間に彩綾ちゃんに温まり直してもらって、私が浸かる時に上がってもらった。

 イリスちゃんがすれ違い様に耳元で小さく言った、ごめんね、と言う言葉が今も私の中に反響する。


 彩綾ちゃんがドライヤーで髪を乾かす音を聞きながら、そのまま私もゆっくり湯船に浸かりながら気持ちを落ち着けて、彩綾ちゃんが部屋に向かってからお風呂からあがった。


 私も私自身の髪を乾かす。


 あぁもう、ダメダメ!!


 せっかく彩綾ちゃんが来てくれてるのに、こんなテンションじゃダメ!!


 私は改めて気合を入れ直し、冷蔵庫にしまわれていた甘いモノを取り出すと、部屋で待っていてくれている彩綾ちゃんの元に向かった。


「彩綾ちゃんお待たせ! 買ってきてた甘いモノを持ってきたよー!」


「ありがとう華! 食べましょう食べましょう、そして『わかば』さんの続きを見ましょう!」


 キャッキャと彩綾ちゃんがはしゃぐ。

 ……可愛いなぁもう。

 さっきの彩綾ちゃんとのギャップはなんなのさ、もう。

 そういう所見せられちゃうとさ、もう。


 あーもう、大好き。


「よーっし、じゃあ見よう! 続きにはまた別な魔法少女も出てくるんだよ!」


「ついに3人目なのね!? どんな子なのかしら、そしてどんな魔法を見せてくれるのかしらっ!」


 ワクワクテカカな彩綾ちゃんの為にも、私は笑顔で、再生のボタンを押した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 すっかり深夜になり、画面では『わかば』さんが3人目の魔法少女を救うために必死になっている頃。


 ふと横を見ると、彩綾ちゃんが船を漕いでいた。


「彩綾ちゃん、大丈夫? そろそろ今日は眠っておく?」


「っ! だ、大丈夫! 続きが気になるの!」


「あはは、『わかば』さんは逃げないよ。続きが見たかったらまた泊まりにでも来ればいいんだしさ」


「私も流石にそろそろ寝た方がいいと思うなー。『わかば』の続きは気になるけど」


「そうかしら……。でも確かに、こんなに気になるシーンを集中して見れないなんて勿体無いわね……」


「そうそう。無理に見るよりも、はっきりした意識でバッチリ目に焼き付けた方が、アニメは面白いよ、きっと!」


「それに明日の授業やら何やらにも差し支えるんじゃないのー?」


 じゃあ今日の所は、という事で、ベッドの横に布団を敷いて寝る事になった。

 勿論、布団で寝るのは私だ。

 ベッドには無理矢理彩綾ちゃんを寝かせた。

 彩綾ちゃんを布団に寝かせて、自分はベッドで寝るなんてありえない。


 おやすみ、と言葉を交わし、部屋の電気を消す。


 真っ暗になった、私の部屋。


 この夜が明けたら、またいつもの1日が始まる。 

 なんだか今日は、やたらと1日が長かったような気がするなぁ……。

 でも、逆にあっという間だったような気もする。


 不思議な時間。


 好きな人と過ごす、愛しい時間。


 こんな楽しい時間だけで、毎日が埋まっていけばいいのに。


 彩綾ちゃんと一緒の時間だけで、全てが埋まってしまえばいいのに。


 私の心の中みたいに。



 そんな事を考えていたら、顔の横でもぞもぞと動く気配。



 びっくりして横を向くと、そこにはイリスちゃんが人差し指を立てていた。



『華、聞こえる?』


 これは、テレパス? 念話、とかそういう類の奴、だよね?


『そ。サーヤは寝たみたいだったから、静かにお話したかったんだけど、いい?』


 考えればきちんと伝わるんだね。私は大丈夫だよ。


『ありがと! さて、華、今日も1日ありがとね』


 何急に、私、今日は何もしていないよ。ただ彩綾ちゃんと遊んでただけで。


『それだけでもすごくありがたいよ、私は。サーヤがあんなに楽しそうにしてるのは、本当に久しぶりに見たから』


 そう、なの……?


『そりゃあね。周りの子達はみんな、サーヤの事情なんか知らないわけだし、こんな風に素を見せて話せるのは華だけなんだよ』


 そっか……。そりゃあ、そうだよね。

 そう考えると、いつも彩綾ちゃんはあんなにクラスでニコニコしてたけど、ずっと無理していたんだね。


『うん。こっちに来たばかりの頃からずーっとね。でも、サーヤもあんなだから、周りの子に気を使わせるわけにいかないって、色々勉強したんだよ』


 うん……。

 大変だったろうね。


『言葉に関しては魔法ですぐ習得出来たから問題なかったけれど、やっぱりあっちにあって、こっちにないものとかあったしね。イメージが出来ないモノは、どうしようもない』


 てか言葉も魔法でどうにかなるんだね。便利だなぁ、ほんと。


『ただ、やっぱり万能では無いよー。さっきも言ったけど、イメージ出来ないものはどうしようもない。言葉なんてのは自分が伝えたい事や、相手の言いたい事を知る為の物だし、イメージの塊、具現化みたいなものだからね。魔法とは存在が近いんだよ。人間が言葉を交わすのは、それだけで一種の魔法みたいなものさ』


 今日はロマンチックな事言うね、イリスちゃん。


『私は元々ロマンチストなんだよー? じゃなきゃいくら約束したとはいえ、自分の住んでた世界を出てまで、サーヤと一緒にいたりしないよ』


 そう言えば、約束したって言ってたね。彩綾ちゃんのお母さんと、だっけ?


『うん。私がサーヤを守ってあげないと。それがサーヤのお母さんとの約束。でも、それをこうして華に手伝わせてしまって、本当にごめんなさい』


 ――もしかして、話したかった事ってそれ?


『そうだよ。やっぱり、きちんと謝りたかった。華の気持ちを、利用しているようなものだからね……』


 別に、私はいいんだよ。だって私は、好きでやっているんだから。


 私が頑張る事で、彩綾ちゃんが助かるのなら、それでいい。


 そうしたいの。


『……ありがとう。サーヤにとっても、きっと華はかけがえのない存在になるだろうね』


 ……そう言う言い方の方が、私は辛いよ。

 期待、しちゃいたくないの。


 期待しちゃったら、我慢が緩んじゃうから。


『そっか……ごめん、無神経だった。でも、きっと大切な人って言う形は1つじゃないから』


 ……うん。


『少なくとももう既に、サーヤにとって華は大切な友達なんだって事、忘れないで』


 ……うん。


『ありがと、それじゃもう時間も遅いし、華もゆっくり休んでね。付き合ってくれてありがとー』


 うん、おやすみ。


 ふっと、頭の片隅から何かが途切れるような感覚。


 きっとイリスちゃんがテレパスを切ったんだ。

 手をぶんぶん振って、ベッドの彩綾ちゃんの横に戻っていく。



 私はそれを笑顔で見送って、目を閉じる。



 大切な友達、か。



 私が、彩綾ちゃんの、大切な友達。



 十分。




 十分だ。




 好きな人の側にいられるなら、それでもいい。




 私はこれからも、精一杯、友達でいよう。




 胸に響く鈍い痛みに、私は気付かないフリをして、そのまま意識を手放した。

というわけでまた分割です。

Bパートも読んでいただければ、幸いです。

よろしくお願いします。

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