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魔法少女はお姫様がお好き  作者: 神河千紘
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第02話 私が魔法少女になった理由(後編)

 妖精は妖しい笑みを浮かべながら、お願いを口にする。




「私と契約して魔法少女になって、サーヤを守ってよ!」




「はい喜んで!!…………え?」




「おっけー、契約成立ね! ではでは、実際に君を魔法少女にしまーす」



 目の前の妖精は、私の動揺を見透かし、その上でそれを無視して話を進める。

 何がどうなってるの?! 魔法少女って何?! いや、知ってるけど、どんなものかは知ってるんだけどそうじゃなくて!



「ちょ、ちょっと待ってイリス! 魔法少女にする? せめて私に説明してからにして!」



 彩綾ちゃん!

 涙目で崩れ落ちる私に背を向けて、イリスと呼ばれた妖精が返事をする。



「もー、いいところだったのに。サーヤを守る為だよ。それに本人も今、はい、喜んで! って言ってたでしょ?」



 はい、すみません、言いました。



「もう! 華もそんな迂闊に返事して! どういう意味だかわかってるの?」


 わかるわけないよ?!

 衝動的に返事しただけだよ?!

 とも言えず、私は押し黙って下を向く。


「とにかく、きちんと説明して。どうして華にそんな事……」


「あー、サーヤは言い出したら聞かないんだから。こういうのは相手が何もわからないままにして勢いにノッて契約を済ませるのが一番なのに……。仕方ない。ちゃんと説明するしかないか。えーと、私も華って呼んでいい?」


「あ、はい、どうぞ……」


 妖精は私と彩綾ちゃんの間でヒラリヒラリと舞う。

 その羽根から鱗粉のような物が待って、鮮やかに軌跡を残す。

 わぁ……無駄に幻想的。


「っていうかその前に、大前提であるサーヤの正体を彼女に教えないといけなくなっちゃうね、これ」


 しょ、正体……?


「イリス、今気付いたの?! 絶対後先考えて無かったわよね?!」


「あははーそんな事ないよー。面白そうな素材が来たからついつい閃きに任せてポロリと契約しようとしたなんて事ないよー」


 100%そうだとしか思えない口調で答える妖精。


「まぁいいじゃない。この子は信用できるよ。絶対にサーヤを裏切らない」


「それは……! 私だって華ときちんとお話出来たのは昨日が初めてだったのよ? イリスが言うならそうなのかもしれないけれど……」


「絶対に裏切らないよ。ね? 華」


 何がなんだかわからないけれど、確かにそれだけは私も100%有り得ないと思ったので、必死にこくこくと頷く。


「という訳で、サーヤが求めてる通り華にもきちんと説明しちゃうけど、いいでしょ? サーヤ」


「……イリスがそう言うなら、任せるわ……」


 彩綾ちゃんもヤレヤレと言った感じである。

 でも私としてもいきなりで何がどうなってるのか全くわからないので、とりあえず説明してもらえるのはありがたい……。



「えーとね、まず、サーヤはこの世界の人間じゃない。この世界と平行して存在している別の世界の住人なんだ」



「そうなんだ……」



 衝撃的過ぎるだろ……。

 これじゃ私と結婚出来るかも怪しいよ……。

 私の頭はその言葉を素直に受け止める。


「え、華……? なんだかあまり驚いてないような。と言うか割と素直に受け止めてない? 異世界人の私が言うのもなんだけれど、こういう時はもう少しこう、そ、そんなバカなー?! とかそう言うリアクションがあるものじゃないの?」


「だって妖精が目の前に飛んでるんだよ? 彩綾ちゃんの正体が異世界人だって事くらい、そりゃ信じるよ。それに私オタ……」


「?」


 ……オタクだからそういう事への理解力高いから、とは言えなかった。


「ご、ごめんなさい、続けて説明お願いします、イリス、さん……」


「イリスでいいよ! それと私は妖精じゃなくて精霊!サーヤのお付き件ボディガードみたいなものね! ええと、なんでサーヤがこの世界に来たかと言うと、サーヤはそっちの世界でも飛びきりでっかい王国のお姫様で、跡継ぎの座を巡っての権力争いに巻き込まれてしまったワケさ。で、その追手から逃げるためにこっちの世界に来た、と。ここまでおっけー?」


「あ、わかりやすい説明ありがとうございます。続きどうぞ」


「は、華?! 適応力高すぎない?! ちょっと私予想外なのだけど」


「あ、うん、大丈夫だよ彩綾ちゃん、ちゃんと理解してる」


 まぁ割とある話だよね。

 権力争いに巻き込まれたお姫様。

 そしてその追手から逃げる為にこちらの世界へ。

 うん。納得。

 何よりも、彩綾ちゃんがお姫様、だなんて。

 納得でしかない。

 ……段々とこのありがちな展開に思考が冷静さを取り戻していく。

 オチが見えてきた。つまり、


「つまり、そっちの世界からやってくる追手から、魔法少女になってサーヤを守って欲しい、と言うわけなんだよ!」


 やっぱり。

 でも一番の疑問が残る。


「でも、なんで私にそんな話を……?」


 これは彩綾ちゃんも気になっていたみたいで、私と同じ目をイリスちゃんに向けている。


「それはね、華がビックリするほど才能溢れているからだよ。とてつもない魔力を感じる。それに質もいい。まっすぐで、初々しくて、呆れるほど純粋なエネルギーを感じるんだ」


 ちょっとわかんないです。


「おや、ここはわからないみたいだね。魔力っていうのはつまるところ、その人の感情のエネルギー、意志の力なのよ。それがものすごく大きいという事で、えーとつまり、その、深くは言わないよ! 深くは言わないけど、華の中にあるすっごく大きな気持ちが、ものすごい量……サーヤよりも大きい、全力の私と同じくらいの魔力の源になってるって事!」


 ビクッ!! と体が反応してしまった。

 つまり、私が、その……彩綾ちゃんを好きだと言うこの初恋のエネルギーが、尋常じゃない程の魔力の源になる。

 こんな重要な話の最中なのにも関わらず、彩綾ちゃんへの気持ちがそんなにも大きいと言ってもらえて、私は少し嬉しくなってきてしまう。


「ど、どういう事? そんなすごい魔力を、華が……?」


 彩綾ちゃんには上手く伝わっていないみたい。

 そりゃそうだよ! 今伝わっても困らせるだけだしね!

 ……と改めて認識して少し凹むけれど、事情はわかった。

 魔力の源がそういう事なら、私が絶対に彩綾ちゃんを裏切る筈がない。

 もしも裏切った時には、その力は消えている。


 つまり、確実に信用できる強大な力になりえる、と。


「華には伝わったみたいだね。私もサーヤも、魔法が使えないわけじゃない。むしろ得意な方だけど、私は今、こうしてこの世界に存在するだけで、それなりに魔力を使っているの。眠っていれば節約出来るし、栄養を摂ったりすれば回復するけれど、人よりお腹が空くのがとっても早いって感じかな? そんな状態だから、全力で戦うとなると私もかなり覚悟がいる……サーヤが戦う、なんてのは以ての外。守られる対象が戦う、なんて言うのは、愚策でしょ?」


 ごもっとも……。

 でも、それなら、


「それなら最初からそう説明してもらえれば、私は絶対に断らなかったのに」


「うん、華? 私には未だよくわからないけれど、華ってとっても適応力が高いのね? 今の説明だけでそんなに納得して、しかもそれをちゃんと聞いていれば絶対に断らなかったなんて言い切っちゃうなんて」


 彩綾ちゃんが目を丸くして私を見る。

 そんな顔も綺麗で可愛いよ彩綾ちゃん。

 それに、私の中には今、別な気持ちが沸々と湧き上がってきているのだ。


「うん、彩綾ちゃん。私それなりに適応力が高いみたい。今の説明を聞いたら、俄然私がやるしかないって気持ちになってきたよ、イリスちゃん」


「そっか! 契約してから説明しようかと思っていたけど、流石にそれだけの感情エネルギーを抱えているんだもんね! かえって面倒かけちゃった」


 私達は笑顔で頷き合う。


「で、でも、華がイリスの代わりに戦うなんて……危険な事なのよ? 私は命を狙われているの。追手だって素人じゃないわ。魔法を使う暗殺者なのよ?」


 まぁ、それはそうだよね。

 でも、私はもう引くわけにいかない。

 湧き上がってくるこの気持ちに逆らう事が出来ないから。


「危ないかもしれないね……。でも、そんな危ない人達に、彩綾ちゃんが襲われるかもしれないってわかっていて、知らないふりなんてできないよ」


「華……」



「私じゃ頼りないかもしれないし、まだ自分がどこまでやれるか実感も湧かない……。でも、私に彩綾ちゃんを守れるだけの力があるっていうのなら、私やりたい。彩綾ちゃんを守れる私になりたいの」



 見知らぬ誰かに彩綾ちゃんが殺されちゃうかもしれないだなんて、私には許容出来ない。絶対に認められない。

 だから、私が守る。



「サーヤ、もう観念しなよ? 華はもう覚悟を決めてるよ。サーヤにはわかんないかもしんないけど、華にも考えてる事があるんだから」


「そう、なの……? なんだか私、華よりもこの状況に付いて行けていないみたい……。私がおかしいのかしら……」


「いや、間違いなく華がおかしいから安心して、サーヤ」


 し、失礼なっ。


「それはともかく、少し華にだけ伝えないといけない事があるから耳貸して」

「あ、はい」


 イリスちゃんがふわりと私の耳元に舞い降りる。

 揺れる風が少し心地いい。

 そしてひっそりと、私にしか聞こえない音量で話の続きが始まる。


「ありがとう。華。華の感情を感じ取った時点で、ここまでは納得してくれると思ってた。でもね、契約してから説明しようと思ったのは、別な理由があるの。華の覚悟を聞いたからこそ、あえてこれも説明してから改めて契約したいと思ってる」


「な、なんですか……?」 


「華の魔力の源になるのは、華が今抱えているその気持ち。即ち、サーヤを好きって気持ち。だから、その気持ちが減ったり、乱れたりしたら、魔力も弱まっちゃう。どういう事かわかる?」


 ――? わからない。

 私の気持ちが減るなんて有り得ない。

 こんなに人を好きになれるんだって、私自身がびっくりしているくらいに彩綾ちゃんが大好きなのに。


「そうだよね……。ねぇ、華。好きって気持ちが減ったり、乱れたりするのはどういう時かな? 想像してみて?」


 そんな状況なんて有り得るのだろうか……?

 彩綾ちゃんにフラレたりでもしない限りそんな――


「あ」


「わかってもらえた? つまり、華がサーヤに告白したとして、華がフラレたりなんかしちゃったら……魔力も消える。サーヤを守れなくなる」


 そ、んな。それって……



「華にサーヤを守ってもらう為には、サーヤへの気持ちを隠し通してもらわなくちゃいけない。残酷な事を言うけれど、女の子が、女の子に告白されたりなんかしたら、普通はどういう答えを出すか、わかるでしょ……?」



 それは、そんなこと、しってる、けど……



「……ほら、少し心が乱れた。でも、華の覚悟をさっき聞いたから、私は素直に説明したんだよ。ねぇ華、


今後絶対に、サーヤに気持ちを伝える事は出来なくなる。


それでも、サーヤを守ってくれる?」



「わ、た、わたし――」



 そんな事、知っていた。

 私は多分頭がおかしくて。

 きっとヘンタイで。

 女子なのに女子が好きで。

 まだ恋だって自覚して2日目なのに、こんなに気持ちが膨らんでいて。


 でも、伝えたらきっとフラレる。


 友達ですらいられなくなってしまう。

 一緒にいられなくなってしまう。


 そんな、普通じゃない、感情を抱いている。


 こんな話をしている最中にも、今でもとてつもなく膨らんでいる。



 彩綾ちゃんが不安そうな目で私を見ている。


「華、あなたの気持ちは嬉しいわ。でも、本当に、無理はしないで――」


 彩綾ちゃんが私を心配してくれている。


 命を狙われてるのは彩綾ちゃんだよ?


 きっと今までも、たくさん怖い思いをしてきたんだよね?


 殺されそうになったり、彩綾ちゃんは美人だから、きっと男性の追手だったらそういう目で彩綾ちゃんを見て、邪な欲望をぶつけようとしたりなんかして――


 

 その時、彩綾ちゃんの後ろの空間に、ヒビが入った。



「彩綾ちゃん、後ろ!!」


「?!」



 そのヒビは瞬間的に広がって、そして次の一瞬で、割れた。


 そして、その割れた穴の向こう、何もない真っ暗闇の空間から、ソイツが現れた。



「ヒャハハハハハ! 見つけたぜぇ、シャイア姫。あんたの命をもらう」



 ソイツは深くフードを被っていて、表情を見て取る事は出来ないが、声は男性。

 フードと繋がったボロボロのマントで体を覆い、腰にはビニール等では無く、皮の袋をいくつかぶら下げている。

 マントの隙間から広げた左手には、ファンタジー系のアニメや漫画やゲームでしか見た事が無いような剣を持ち、それを彩綾ちゃんに向けている。

 シャイア姫……って、もしかして彩綾ちゃんの本名、かな?


「サーヤ! 下がって!」



 私の耳元でイリスちゃんが叫ぶ。

 彩綾ちゃんがすぐさま私の方に向かってジャンプする。


 その瞬間に、彩綾ちゃんがいた場所が燃え上がった。


 あれが、魔法?!


 爆炎が広がり、私達の視界を奪う。

 しまった、これは――



「もらったァ!!」



 炎の中から男が現れ、左手に握った剣を振りかぶって、彩綾ちゃんに向けて振り下ろす!



「だめぇっ!!」



 背中に、尋常じゃない熱が、走る。



 夢中で彩綾ちゃんに飛び付いた私は、腕の中の彩綾ちゃんと一緒に倒れこんだ。



「華!!」


「あァン? 誰だコイツ。余計な事しやがって」


「貴様!!」



 腕の中の彩綾ちゃんが、私の後ろにいる男に向かって何かを放つ。

 相手はどうやらそれを警戒して後ろに下がったようだ。


「華! しっかりして、華!!」


「マズい、これは……」


 とにかく背中が熱い……。

 私、切られた?

 熱いのに制服が、下着が、どんどん湿っていく。

 

 赤い、液体が、彩綾ちゃんに、垂れて――。


「イリス!! 今すぐ治療を! 私の魔法じゃこんな深い傷は……! あなたなら治せるでしょう?!」


「でも、そしたらそれに集中しないといけなくなる。サーヤを守れなくなる。それは出来ないよ」


「イリス……?!」


「私はどんな事をしてでもサーヤを守る。それがサーヤのお母さんとの契約だよ」


「そんな契約、今はどうだっていいでしょう?! 華を助けなくちゃ――」


「どうでもよくない」


 意識が、ギリ、ギリ、飛びそう、痛い、熱い――。

 だ、め。

 今、言わなく、ちゃ……。


「い、イリス、ちゃん……私」


 そこまで言った所で、背後に何かが飛来して来た。


「!」


 イリスちゃんが咄嗟にバリア(?)を展開してそれを防いだみたいだったけれど、そのバリアの外側が、真っ黒な煙に包まれて行く。


「……煙幕袋か」


 イリスちゃんはバリアを全方位に展開して、私達全員を包む。

 彩綾ちゃんが私を俯せに寝かせてくれる。


「おねが、い、イリスちゃん、きい、て」


 私は全力で言葉を絞り出す。うまく、声にならない。


「華!! イリス、とにかく今は最優先で華の治療を!」


「バリアを解除したらやられるよ?! その状態の華を連れてたら逃げられない!!」


「置いて逃げるって言うの?! そんな事出来ない!!」



「イリスちゃん!!」 



 なんとか出た私の大きな声で、二人が同時に私を見る。



「私を置いて、逃げて」



「華……?!」


「私がいなけれ、ば、逃げられるんでしょ……? なら置いて、逃げて……」


「駄目よ、華!! あなたも一緒に逃げるの!!」


「む、むりだよ、はしれない、もん……だから、わたしをおいて、にげて」


 なんとか安心してもらいたくて、笑顔を作ろうとするけれど、上手く笑えない。


「華!!」


「イリス、ちゃん……ごめんなさい、わたし、だめ、みたい……でも、ね」


「華、喋ったら駄目!! 」


 彩綾ちゃんは涙を流して、私を見つめる。

 あぁ、やさしいね、彩綾ちゃん。


 そんなあなただから、わたしは――


「わ、たし、つたえられな、くても、さあやちゃんを」



 まもりたかったよ。



 ことばが、かすれて、いしきがもう、



「その言葉を待ってた!!」



 イリスちゃんの叫びと同時に、真っ白な空間が広がった。



 あれ、私、意識がハッキリしてる。


 それに、背中が熱くない。



「華! 君の力を開放する! 契約は成立したよ!!」



 一瞬。


 そう、一瞬の間。


 私が放ったらしい光が、真っ白な空間を壊し、そして周囲の煙幕も消し飛ばし、そして私は立ち上がった。



「華!!」



 彩綾ちゃんの声が聴こえる。


 彩綾ちゃんが泣いている。



「な、なんだソイツは?! こんな奴がいるなんて聞いて――」



「黙って」



 私は本能的に左手を相手に向け、意識を集中して『力』を放つ。



「ぐぁっ、痛――!!」



 解き放たれた『力』が男の足に突き刺さる。

 『力』は形を変え、光の鎖となって男と屋上の地面とを繋ぐ。



「彩綾ちゃんを、泣かせたな」



「く、クソッ、なんだこの鎖は! うごけ――」



「絶対に許さない」



 私はもう一度左手から、さっきよりも集中して、より強い『力』を放つ。

 『力』を放った衝撃で、私の立っている場所にヒビが入る。



「うわぁぁぁあああああ!!!」



 『力』はそのまま、悲鳴を上げる男と直線上の地面を飲み込んで一際輝きを増し、屋上のフェンスを飛び越えてしばらく進み、霧散した。


 私は何事も無かったかのように、彩綾ちゃんに振り向く。



「心配かけて、ごめん。私、大丈夫みたい」



 そして今度こそ、出来うる限り上手に笑った。


「華……!!」


 彩綾ちゃんが抱きついてくる!

 なにこれすごい彩綾ちゃんの香りが私の鼻孔を包み込んであぁぁあもうこれトレビアーーーーーーン!!!

 そんな脳内を必死になだめながら、彩綾ちゃんを抱きしめ返す。

 し、至福……っ!!


「良かった……! 良かったよぉ……!!」


 彩綾ちゃんは私を抱きしめながら泣いている。


「ごめんね……」


 私はなんとか安心して欲しくて、彼女を強く抱きしめ返す。


「うまくいって、よかったわぁ……」


 イリスちゃんがふと呟く。

 すると、


「イリス!! あなた、華が本当に死んじゃってたらどうするつもりだったのよ?!」


彩綾ちゃんが私から離れて顔を上げ、イリスちゃんに叫んだ。


「その時はサーヤを連れて逃げてたよ……。でも、本当にうまくいって、良かった。ギリギリのタイミングだったわぁ……」


 ヤレヤレと言った感じに両手を広げるイリスちゃん。


「イリスちゃん、ありがとう」


 お礼を言う。

 

 きっと、イリスちゃんは本当にギリギリまで、私の気持ちを待ってくれたんだ。

 私が、イリスちゃんの話をきちんと聞いて、その答えを出す時間を。


「お礼を言うのは私達の方だよー。サーヤを守ってくれて、本当にありがと」


 イリスちゃんも私の気持ちを察してか、私を見てニッコリと笑う。


「もう……でも、本当にありがとう、華……」


「その言葉だけで、私はお腹いっぱいだよ」


 私はとっても嬉しくなって、調子にのってもう一度彩綾ちゃんに抱きつく。

 彩綾ちゃんも私を受け止めてくれる。


 あぁ……幸せ……!

 これぞ役得……!!


 はぁあ彩綾ちゃんの香りクンカクンカ……ってあれ?

 そこで私はふと違和感を抱く。なんだろう? 私手袋してる?

 って言うか、これ……。


 ガバッ! と彩綾ちゃんの胸元から頭を離し、自分の格好をよく見る。


「うわぁああ何これ?!」


 私はいつの間にか、全身着替えていた。


 いかにも魔法少女、と言った具合の、真っ白なフリルのついたワンピースに、白くてこれもフリルのついたフワフワの上着。

 それに真っ白な肘までの手袋に、白いレースのニーソックス。

 いつの間にかツインテールにまとめられた髪と、それを留める真っ白なレースのリボン。

 眼鏡も片側だけの小さなモノクルになっているのに、レンズが無い方でも視力に困らない

 それぞれワンポイントにピンクが入っていて、甘ロリみたいで可愛い……けど、これっ……!



「は、恥ずかしいいいいいいいい!!!」



「あ、今更気付いたの? 変身してたんだよー、華ってば」


「さ、先に言ってよー!! てかこの衣装何?! どこからきたの?!」


「それは魔力で着ていた服を変換している、防御力を高めてある魔法少女用の装束よー。戻ろうと思えばすぐに戻るからだいじょーぶ」


 か、解除っ! 変身解除っ!

 恥ずかしさのあまり即座にそう念じたら、一瞬服が輝いて、いつもの制服に戻った。


「はぁぁ……はずかし……」


「そう? 私はすごく可愛いと思ったけれど……」


 そんな彩綾ちゃんの呟きで、私の顔が余計に熱くなる。


「ちなみに装束のデザインは変身する人のイメージによるのよ。だからあの衣装をデザインしたのは華ってわけ」


 ニヤニヤしながら余計に恥ずかしくなる事を言ういたずら好きの精霊に、私はむぅっと膨れて見せる。

 ……ほめてもらえたからいいけど、もう少し恥ずかしくないデザインになって欲しかった……。

 どうしてバリアジャケット系のカッコイイヤツじゃなくて甘ロリなのよぅ……。


「あ、マズい、サーヤの人避けの魔法が、さっきの華の魔法で吹き飛んでる」


 イリスちゃん、言うのが遅い。


「さ、さっきの魔法を見て人が来ちゃう?! どうしよう、あんな抉れた地面見られたら怒られるどころじゃ済まないよ!」


「華がやりましたって素直に謝れば?」


「そんなわけにいかないでしょ!」


 そう言った彩綾ちゃんにもう一度抱きしめられる。

 急な展開に私は顔が瞬間沸騰して爆発しそうになるけれど、なんとか抱きしめ返す。


「なななどうしたの彩綾ちゃんっ?! こんな姿皆に見られたら私嫉妬で殺されちゃう!」


「さっきは自分で抱きついてきたじゃないの」


 笑顔で返されて、私は言葉を失って。真っ赤になった顔をもう一度彩綾ちゃんの胸に埋める。


「華、一旦ここから離れるわよ。しっかり掴まっていてね? 流石に私だけの力で人一人を抱え続けるのはキツいから」


「ま、一応私も手伝うけど、落っこちないように力入れときなよー」


 私はギュッと彩綾ちゃんを抱きしめる腕に力を入れる。


「それじゃ行くわよ?」


「よ、よろしくお願いします!」


 ふわっ……と彩綾ちゃんの体が宙に浮いて、そのまま屋上から、人気の無い校舎の裏に向けて飛び降りる。


 って、重力?! ちょ、大丈夫ってわかっててもこ、怖、


「きゃああああああああああああああああああああああああああああ」



 情けない私の悲鳴が、上から下にドップラーしていった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 あれから、もう一ヶ月かぁ……。


 今ではすっかりこの衣装にも慣れてしまった。

 空もきちんと、自分で飛べるようになったし。

 それに……。



「おかえりなさい、華」


「ただいま、彩綾ちゃん」



 戻ってきた私を、彩綾ちゃんが笑顔で迎えてくれる。


 そしてこの笑顔を見るたびに、私は思うのだ。


 魔法少女になって良かった。

 

 ――確かに私は、彼女に自分の想いを伝える事もできない。


 それでも、この笑顔を守る事は出来る。

 

 これからも全力で、彼女の笑顔を守るのだ。




「安心して出かけられるようになった所で、コンビニに深夜のお供のアイスでも買いににいかない?」


「うん、喜んで!」




 私は異世界のお姫様に恋をした、魔法少女なんだから。

というわけで彼女が魔法少女になった理由でした。


3話からはもう少し話も展開してきますので、よろしければまたお付き合い下さい。

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