表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女はお姫様がお好き  作者: 神河千紘
1/19

第01話 私が魔法少女になった理由(前編)

 夜空を疾走る、一条の熱線。

 それは迷いなく真っ直ぐに、空を泳ぐ私に向かってくる。

 超高温の熱線。鉄をも溶かして貫通するであろう、極めて指向性の高い焔。

 私は空中で急停止するとそれに左手を翳し、障壁を展開する。

 障壁に当たったそれは指向性を失い分裂、拡散していく。

 熱線を放った相手はその様を忌々しげに見つめ、自分の周囲の火球に指示を出し、更に幾本もの熱線を放つ。


 そんなワンパターンな。


 私は障壁を更に展開し、その全てを防ぐ。


 もう、こんな事してる時間が勿体無い。

 この時間にも私は、あの人の側にいたいのに。


 時間の無駄遣いはよろしくない。私は次の一手でこの戦いを終わらせる決意をする。

 右手を相手に向けて翳し、微かに呪文を呟く。


 敵はこちらに向けて更に熱線を放とうと言うのだろう。小さな魔力の玉を自分の周囲に浮かせ、攻撃の準備をしている。もしかしてアレしか攻撃手段が無いのだろうか。

 しかし次の攻撃は確実に、私には当たらない。相手には私が横に移動しているように見えているだろう。

 目線がそちらに流れている。光の屈折を少々弄って、相手にはそう見えるようにしたのだった。

 その間に私は攻撃用の呪文を用意する。左手の先に杖を呼び、自分の魔力を集中させ、タイミングを計る。

 相手が攻撃を放つまで、3、2、1、今!


「トゥインクル・トゥインクル・シューティングスター!」


 私の声と共に、杖から7束の閃光が迸る。その内1本は正面から。残りは相手の周囲を囲むように伸びて行く。周りに散った6束が全て何かに反射するように折れ曲がり、あらぬ方向に熱線を放ち呆然とする敵に向かって突き進む。


 周囲を包む眩い光。全ての閃光が命中し、ぶつかり合って極大の光を放つ。


 光が収まった時、そこには何も残っていなかった。


「さて、お仕事終了、っと」


 あの人に会いに行こう。

 少し遅くなってしまったけれど、きっとあの人も待っていてくれる筈。


 時間が勿体無い。

 一分一秒も惜しい。

 全ての時間をあの人と過ごしたい。


 でも、その為には戦わなくちゃ。


 私は彼女を守る、魔法少女なんだから。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 1ヶ月前。


「大丈夫?」


「あ、はい……!」


 私、須藤すどう はながしつこいナンパに困っていると、クラスメイトのお姫様がナンパ青年を追い払ってくれた。


 彼女の名前は春美里はるみり 彩綾さあや

 お姫様と言うのは、彼女についた、クラスでのニックネームだ。

 金髪碧眼、スタイル抜群、頭脳明晰、スポーツ万能、なのにちょっと世間知らずで、それすらもその美貌で可愛いと思わせるお姫様。

 こんな人になりたいと、私はずっと考えていた。


 私はと言えば、胸までの黒髪を背中で2本にまとめて、スタイルも普通……と言うか貧乳、眼鏡で、背も低くて、彼女と並ぶととても貧相で地味な感じ。


 どうしよう、信じられない……。

 彼女に憧れ過ぎていた私は、緊張して学校でも全く彼女に話しかけられずにいたので、会話した事は数える程しかなかったのに。

 そんな私を助けてくれるなんて。


「気をつけてね? お断りって時はハッキリ言った方がいいと思うわ」


 彼女が少し背を屈めて、私の目を覗き込んでくる。

 憧れの人に話しかけられて、頭の中がまるで台風に巻き込まれてしまったようだ。


「ご、ごめんなさい……」


 どうしよう、めちゃくちゃに顔が熱い……。


「相手だって期待しちゃうわよ?」


 そう言って彼女が微笑む。

 心臓がものすごい勢いで脈を打つ。


「須藤さん、可愛いんだから」


 か、可愛い? 私に言ってるの……?

 

 私の理想が、そこにいる。

 私に話しかけている。

 私を可愛いと、言ってくれている。

 それだけで、私の心がどうにかなりそう。


「じゃあ、また明日、学校でね?」



「あ、あの!!」



 立ち去ろうとした彼女は不思議そうな顔で振り返る。

 私は喉がカラカラに乾いていて、上手く声が出せない。



「どうしたの? 須藤さん」



 もう一度微笑む彼女。整った顔、サラサラの金髪。大きな碧色の瞳を少し細めて。逆光がその美しさを引き立てる。



「あ、の……」


 どうしよう。緊張がすご過ぎて胃に穴が空きそう。


「何も無いなら、もう行くけれど……」



 今しかない。こんなチャンスはもう、二度と来ないかもしれない。だから私は、



「わ、私とっ! お友達になって下さい!」



 右手を差し出しながら全力で頭を下げた。


 彼女はきっと呆然としているだろう。ほとんど話した事も無い私達。

 いきなりこんな事言われても誰だって困るに決まって――そこまで考えた所で、私の右手がそっと包まれる。


「私で良ければ、喜んで」


 3度目の微笑み。



 それを見た時、私の中で何かが弾けとんだ。

 もしかしてそれは理性とか、倫理観とか、そういった類のモノだったかもしれない。

 私は、自分の中で確信する。



 ――あぁ、これはもう憧れじゃない。恋だ。



 1日に3度もこんな笑顔を見せられたら、誰だって恋に落ちるに決まってる。


 例え相手が同性だろうと。




 もう、私はヘンタイでいい。




 こうして、私の初恋が始まった。




 家に帰るなり制服を脱ぎ捨て、部屋着に着替えてベッドに横になる。


 あの微笑みを思い出す。


 春美里 彩綾さん、かぁ……。

 誰にでも優しいクラスのお姫様。まさか私を助けてくれるなんて……。

 とは言え、こんな気持ちがバレたら、せっかく友達になれたのに一緒にいられなくなっちゃう。

 と言うか気持ち悪すぎて笑えない、よね、相手からしたら。

 どうしたらいいんだろ。

 唐突にこんな事になっても戸惑うばかりだ。


 仕方ない、まずは勉強するか。


 私はもっともらしい理由を得て、録画していたアニメを漁る。

 結構前の、百合百合しいと話題になった魔法少女アニメの録画が残っていた筈……。


 こういった状況の参考になるに違いない!


『友達に、なりたいんだ……!』


 アニメから流れる名台詞。

 ふむふむなるほど、まずはお友達から。

 私のとっさの行動は間違っていなかったらしい。


 アニメの二人はここから最早嫁同士と言われる程仲良くなるわけで……私もまずはお友達になってもらった事だし、とにかく仲良くなる所から始めなくちゃ。


 その内彼女も私の事をこんな風に想ってくれたらいいな。


 ……早々アニメみたいには、いかないだろうけれど。


 私は世間一般的にはオタクと言われる部類だし、アニメもゲームも漫画も大好きだ。

 でも、それとこれとは違うって、理解してるつもり。現実がそんな風に優しいなら、私はそもそも現実から逃避したりしていない。


 しかし今何よりも、とにかく早急に、出来る限り速やかに、私は彼女の事が知りたくて仕方ないのだった。


 話しかけられれば良い方……かな。でも。出来ればたくさんお話したい……。

 普段はどうしているんだろう? 家はどこ? ご家族構成は? 漫画とか読むのかな? アニメは見る? ゲームはやるのかなぁ? 家の中と外はどっちが好き? 好きな食べ物はなんだろう? どんな服が好き? どんな音楽が好き? どんな映画が好き? どんな人が好き? 

 


 ……好きな人は、いるの? 



 そんな悶々とした気持ちを必死になだめて、とりあえず眠る事にする。

 明日になれば、また彼女に会えるのだから。


 


 翌日。




「いってきまーす!」


 お母さんに手早く挨拶をして、いつもより早く家を出る。

 別に早く行ったからと言って早く会えるかはわからないけれど、逸る気持ちが私を走らせる。


「華ー! おはよー!」


 少し進んだ所で声をかけられた。


「今日は早いじゃん。しかもそんなに急いでどしたの?」


 彼女は私の幼馴染、平原朋絵ちゃん。通称もえちゃん。


「もえちゃんおはよ! そしてごめん! 私ちょっと今日は早く学校行きたいの!」


「何々? 華がそんなに急ぐなんて絶対何かあったでしょ。いつも遅刻ギリギリだったのに」


「今度話すー!」


 話せるわけないんだけれど。


 とにかく今は早く学校に行きたい。私の心はここには無いのだ。

 意外と長距離走れるぞ、私。恋の力は偉大だ。もえちゃんも言っていた通り、私はいつも遅刻ギリギリなのに、今日はなんと30分前に教室に着いてしまった。

 引き戸を開いて教室に入るが、流石にまだ誰もいない。


 そりゃあ、そうか……一番乗りだなんて、初めてかも。


「おはよう」


「ひあああ?!」


 後ろから不意打ちで声をかけられて、私は自分でもビックリするほど反応してしまう。

 こ、この声は!


「ごめんなさい、驚かせちゃった? 須藤さんがこの時間に登校してくるなんて珍しいわね」


「お、おはようごじゃいます!」


 春美里さん!

 春美里さんもこの時間に登校してるんだ……。

 脳内にタイムスケジュールをメモする。

 まさかいきなりエンカウント出来るなんて! 油断していた私は脳みそが回らない。


「どうしたの? 今日は早めに来て、何かしたい事があったとか?」


「あ、ひゃい、あの、あれです、あれ、えっと、あな、あなたに……」


「ん?」


 会いたくて。

 とは流石に言えず、言葉に詰まる。

 どどどどどうする私。ちゃんと会話しないと変な奴だと思われちゃう……って言うかもう思われてる可能性が。


「っていうか、あなた、だなんて。友達なんだから彩綾って呼んでくれていいのよ?」


「そんな、呼び捨てなんて滅相もございません!」


 忠臣か。


 そんなツッコミが脳内に響いてきたものの、緊張して口に出ている言葉が制御出来ないのだ。

 しかしここで、私は昨日予習に使ったアニメのセリフを思い出す。


『友達になるには、名前を呼べばいい』


 そうか、名前だ! 名前を呼び合う事で友達は友達たらしめるのだ!


「滅相もございませんって、部下じゃあるまいし。須藤さんって面白いのね」


「あ、あはは……あ、でもその、やっぱり私も、彩綾ちゃん、って呼んでもいいですか? 私の事は、華って呼び捨てにしてくれて構わないので」


「それなら尚更私の事も彩綾って呼んで。私も華って呼ぶから」


「は、はい。彩綾……ちゃん」


「もう、華ってば」


 あはは、と笑い合う。

 やったぜみんな聞いたかい?! 名前で呼び合っちゃったよ私達! こりゃもう友達待ったなし!


 そんなこんなしていたら、クラスメイト達が次第に集まってきた。

 もえちゃんもクラスに入ってくる。

 みんな口々に、お姫さんちーっす、姫様おはよー、等と彩綾ちゃんに挨拶をしていく。

 私に挨拶をする人はほとんどいなかったけど、みんなの視線だけは私に突き刺さる。

 

 そりゃそうだ。

 昨日まで殆ど話した事すら無かったクラス1目立つお姫様と、クラスでも地味な方の私が会話していたのだから。


 きっと違和感の塊だったのだろう。

 でもその間も、彩綾ちゃんは私ときちんとお喋りしてくれる。

 この優しさ……まさにお姫様。いやもう女神の領域か。はたまた菩薩か。

 そんな馬鹿な事を考えている内に始業のチャイムがなり、私も彩綾ちゃんも席に座る。

 とりあえず朝からラッキー! ナイス私!

 今日はいい一日になりそうな予感がする。



 

 お昼休み。

 彩綾ちゃんとは朝以来話せていないが、お昼休みこそ話しかけよう。

 何しろもっと仲良くならないといけないのだ。

 今の私なんて、彩綾ちゃんの意識の片隅に席をもらっただけの、ちっぽけな存在なのだから。

 もう少しでも、彼女の中に私がいられたら。

 そんな気持ちを抑えきれず、私は自然と彼女を探す。

 しかし彩綾ちゃんはタイミング悪く、教室から出て行こうとしていた。

 しまった、学食か購買――


「華ー、ご飯食べよー」


「もえちゃんごめん! 私急いでるから!」


 後ろからもえちゃんの、なんだよー、という声が聞こえてくるけれど、今はそうこう言っていられない。

 とにかく彩綾ちゃんを追わないと、会話すら出来ないままでお昼休みが終わっちゃうかも……!


 いた!


 クラスを出れば、彼女はまだ少し先に歩いていただけ。心なしか彼女の周りの人達が、彼女に道を譲っているように見える。

 さ、彩綾ちゃんクラスになると周りの人がそんな気遣いを……。

 私は話しかけたい気持ちでいっぱいだったけれど、とりあえずそれをこらえてひっそりと彼女の後を付いて行く。


 こ、これじゃ私、ストーカーみたい……。


 しかしどうやら、彼女はお弁当を持っているようなのだ。

 どこかで落ち着いて食べたいという事なのだろう。

 ここはその場に着いてから、彩綾ちゃんももここなの? 偶然だねー、実は私もここがいいなぁと思ってー、的な流れで一緒に食べるのが一番なのではなかろうかと。


 彼女はそのまま屋上に続く階段へと歩いて行く。あれ? うちの学校って屋上開放されてたっけ?


 まさかクラス1のお姫様が階段で一人ランチタイム? そんな馬鹿な。


 そんな事を考えていたら、階段の上からガチャリ、とドアを開ける音がする。

 

 か、鍵は?


 まぁ、たまたま開いてたのかな。とりあえず音がしないように注意しながら彼女を追いかけて階段を登って行く。

 ドアは閉まっているけれど、彼女はきっとこの向こうでお弁当を広げているに違いない。

 ゆっくりとドアノブを捻り、薄く開けたドアから屋上を覗き見る。


 いた。


 彼女は屋上の隅っこに座り、お弁当を広げて座っている。


 よし、今こそ『偶然だねー、私もここがいいなぁと思って作戦』を実行に移すしか……って私お弁当持って来てない!

 何やってるの私!? 馬鹿なの!? これじゃ作戦が……



「目立たないようにするのも大変ね……」



 ふと、彼女が呟いた。独り言かな? お姫様も独り言を言うんだ。

 私がそんな事を考えていたら、



「仕方ないでしょー? っていうかサーヤは十分目立ってると思うけど」



 そんな声が彼女の独り言に返事をする。


 だ、誰? 屋上に彼女以外に誰かがいるの?



「そんなつもりはないのだけれど……私そんなに目立ってる?」


「うん。て言うかニックネームがお姫さん、って、最早隠すつもりあるのかと私はツッコミたい」



 会話してる……? しかし彼女の周りには誰もいない。え、一人会話?

 と言うか声が違う。裏声で出してるような声でも無いし、もう一人いるとしか考えられない。



「それはみんなが勝手に……まぁいいわ、とりあえずお弁当を食べましょう。イリスもお腹空いてるでしょ?」


「もちろん! もうこの時間だけを楽しみに、私は学校に来てるんだから」


「警護はどうしたのよ、もう」



 うふふ、と彼女は笑う。


 だ、誰と話してるの? イリスって誰? 外国人……?


 ふと、私は彼女の側に違和感を覚え、こちら側からだとよく見えない奥側の、彼女の肩を凝視する。

 そこには、



 30センチ位の、いかにも妖精、といった姿の、背中に虫の様な羽が生えた小さな人が、座っていた。



「?!」



 私は思わず息を飲む。一歩後ずさり、視線がドアの隙間から外れてしまう。


 何? アレ……。


 よ、妖精? クラスのお姫様が、学校の屋上で妖精と会話しながらお昼ご飯食べてる?


 私はもしかして、彼女を好きになり過ぎて頭がおかしくなってしまったのだろうか。


 それともアニメの見過ぎでついに妄想を具現化出来るようになったとか?


 そんなわけがない。

 深呼吸を一つ。

 落ち着いて、もう一度確認してみよう。

 私が隙間をもう一度覗き込むと、



「誰?」


「ひやぁあっ?!」



 羽を震わせて空に浮いている小さな人が、隙間の向こうから私を見ていた。



「華……?」



 思わず悲鳴を上げてしまった私に、奥から彩綾ちゃんが声をかけてくる。


「ご、ごめんなさい、私……」


 思わずその場に座り込む。

 ど、どうしよう。私が後を付けてきたのがバレちゃう……!

 っていうか、この状況何?!

 妖精(?)は今も私を見下ろしている。

 奥から歩いて来た彩綾ちゃんが、私を見て溜息をつく。


「どうしてここに……。仕方ないわね。華、そこにいると声が中に響くし、こっちに来て?」


「あ、は、はい……」


 彼女に呼ばれ、なんとか立ち上がった私は屋上の中に入る。

 腰と膝が震えて上手く歩けない。


 屋上には私と彼女と、謎の妖精の三人(?)。


 中程迄進んだ所で、ガチャリ、と背後のドアの鍵がかかる音がした。


「な、何? なんで、鍵が……」


「ごめんなさい、イリス。人避けの魔法を使っていたから、誰かが来るなんて思わなくて」


「仕方ないねー。でもどうするの?」


「どうしたものかしら……」


 妖精と彼女は何かしら打ち合わせている。

 彼女は不思議そうに首をかしげ、何やら思い悩んでいる様子。

 私は下を向いて、何も言葉を発する事が出来ない。

 どうしよう、どうしよう……! このままじゃ嫌われちゃう?


 妖精がどうこうよりも私にとってはその事の方が大きかった。


 初恋だって気付いて二日目にして破れるなんて嫌!

 どうしても彼女に嫌われたくない!

 こんなに大きくなってしまった気持ちが、相手に届かないどころか、その相手から嫌われるなんて、考えただけでも死にそう!

 何か、何かしら考えなくちゃ、私が付いて来た理由――!!


 彩綾ちゃんが好き過ぎて、彩綾ちゃんの事もっと知りたくて!!


 馬鹿! そんな事口にしたら色んな意味で破滅!!


「! この子……」


「どうしたの? イリス」


「ねぇ、サーヤ。ちょっと私に考えがあるんだけど」



 ハッ、今こそ! 今こそ偶然だねー、私もここが良いなぁと作戦を実行に……だからお弁当忘れてきたんだってば私の馬鹿!! どうしたらいいの?! ここは、あ、大変、お弁当忘れてきちゃったーてへぺろー、とか言って一度教室に逃げる! こ、これ?! これしかないんじゃない?! よーし、まずはいい笑顔を作って


「ねぇ君」


「うわひゃいっ! 私お弁当を忘れてきちゃって!!」



 まとまる前に妖精に声をかけられ、私の思考と動きは再び停止した。


 すると妖精が私のすぐ顔の横までヒラリと宙を舞って、私の耳に向けて直接、私にしか聞こえないような音量で話を続けてくる。



「あのさ、君、サーヤの後を付けて来たんでしょ?」


「あああああああああのそれは違うんです、その、あれ私そういうんじゃなくて!!」


「大丈夫、サーヤは気付いてないよ。人避けの魔法を使っていたサーヤに付いてくるなんて、そうそう出来る事じゃない。すごい事なのよ」


「お、おおお褒めに預かり光栄です、でもあの、私、ここにいるのは偶然っていうかその、決して後を付けたりは」


「してたよね」


「してました……!」


「サーヤが好きなの?」


「大好きです……!」



 あ。つい認めてしまった……。


 きっとこの妖精は彼女にそれを伝えるだろう。


 そしたら私の初恋はここで終わり。


 開始2日でハートブレイクだ。


 でもそんなのって無いよ。あんまりだよ。


 確かにまだ自覚して2日目だけど、私の中では初恋だったんだよ。

 今まで男の子にだってこんな事思った事無かったのに。

 どうしても好きだって思っちゃったんだよ!

 女の子同士で普通じゃありえないってわかってる。それでもいいって思っちゃったんだよ!

 頭の中がいっぱいいっぱいで、私だっておかしいと思ってるよ! でも仕方ないじゃない!


 

 大好き、なんだもん。



「安心して、サーヤに私から伝えるなんて、そんな残酷な事しない。あの子はニブチンだからね。君の気持ちになんて気付きはしないだろーし。私から伝えなければ、バレやしないよ」


「え……?」


 涙目になっていた私に、妖精はこう言った。



「ただし、黙っているのは、私のお願いごとを聞いてくれたら、という条件付きで」



 お願い?!

 黙っていてくれるって言うなら喜んで!!

 なんでも聞きます!!



 そんな私の思考を読んだのか、妖精は妖しい笑みを浮かべながら、お願いを口にする。

  



「私と契約して魔法少女になって、サーヤを守ってよ!」




「はい喜んで!!…………え?」




 ――こうして私は、魔法少女になる事になった。

というわけで第1話(前編)です。

アニメで言ったらAパートです。

Bパートにあたる後編も、早めにUPしたいと思っておりますので、よろしければお付き合いいただければと思います。

コンゴトモ ヨロシク。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ