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天上の皇子  作者: ひろやん
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プロローグ 天上の皇子の伝説

 地球とは別次元に存在するパラレルワールド。この世界の地球では魔法が存在し、霊獣と呼ばれる魂の半身たる獣を従える者たちがいた。


 龍の中では最高位の存在である応龍を霊獣として持つ帝の子、親王ワタルはある日征夷代将軍に任命された。東の地、富士の山で4匹の凶悪な魔獣が人々を苦しめているので応龍の力で討伐せよとの命が下されたのだ。そして魔獣討伐後はその地で幕府を開く事を許された。


「と言う訳だ、都を離れるが着いてきてくれるか?」

「もちろんですとも、皇子」


 帝からの命を受けたワタルはその夜、腹心で乳兄弟のクオウに都を離れる覚悟があるのかと聞いた。そしてクオウの返事を聞いたワタルは満足げに頷いた。


「それともう1つ、サクヤの事だ」

「皇女様のことですか?」


 サクヤというのはワタルの同腹の妹で母方の親族がいないワタルにとって唯一の血の繋がった家族といえる存在だった。


「主上はヤクヤの事を内親王としてではなく俺の妹として扱うことに決められた。今回の討伐任務にも着いて来る。そこで討伐の任が無事に済んだらサクヤを嫁として迎えるつもりはあるか?」

「皇子…」

「幼い頃から3人でずっと一緒だったんだ。隠しているつもりでも分かる」

「ありがとうございます」


 ワタルは嬉しさで泣き崩れるクオウを見て微笑むのだった。しかしこの時この話を盗み聞きしている存在には気づかなかった。


 それから数日が過ぎた。ワタルはクオウとサクヤそしてミツカという近衛の者と兵を連れて都を出た。


 道中は何事も無く目的地に着いたが、着いた先は魔物によって荒れ果てていた。ワタルは兵士達に生き残った者たちを集めさせ彼らを保護した。そして何人かの者達から魔物の情報を集めていた。


「四凶…」

「何ですかそれは?」

「集めた情報から推察した魔物の正体だ。渾沌こんとん饕餮とうてつ窮奇きゅうき檮杌とうこつの4つで悪神とも言われている」

「そんな魔物聞いた事が有りません」

「大陸の魔物だからな、しかしどうしてヤマトに」


 魔物の正体を推察し、思案に暮れていると2人の男がやってきた。彼らは大陸の人間の服装をしていて、武人風の男はゴウラ、軍師風の男はハゲツと名乗った。


「我々は大陸から四凶を追ってヤマトまで着ました」


 事の起こりはこうである。治世が乱れた事で中華の国で四方に散ったはずの四凶が中央に集結。宮中に巣くって悪事を働いていた。それが原因で各地で反乱が勃発。最終的に新しい国と新皇帝が誕生したがその過程で世を乱していた四凶を取り逃がしていしまう。しかし出来たばかりの国に四凶を追撃する余裕は無く、ゴウラとハゲツが2人だけで四凶を追ってヤマトまでやってきたのだと言う。


「ですので我々も四凶討伐の仲間に加えて下さい」

「加えるのは構わないが力を見せて欲しい。強き魔を前に数は不要。必要なのは強気霊獣が霊力。それを私に見せて欲しい」


 ワタルは『皇子モード』となって威厳の有る声で言った。


「私は法術を使った後方支援が担当です。霊力の強さは視れば分かるかと」

「確かに」


 最初にハゲツがそう言ってワタルはハゲツの霊力を認めた。


「我輩は接近戦担当であります。霊獣は犀のカクジュ。武器は蛇矛(だほう)、そして霊獣武装!」

 

 ゴウラがそう言うとゴウラの霊獣カクジュは武器である蛇矛(だほう)に吸い込まれていった。そして蛇矛(だほう)がとんでもない霊力が漲って来た。


「何これ?」


 未知の武法にワタルは素に帰って聞いた。


「霊獣武装です。触媒に霊獣を同化させる事で一時的に能力を上げる事が出来るようになります。大陸の戦乱で発見された武法なのでヤマトの方達は知らなくて当然でしょう」

「そんな事を教えてもいいのか?」

「問題ありません。いづれ伝わる事でしょうし、今は戦力の強化が優先です」


 ハゲツがそう言い切ったのでワタルは突然荷物をあさりだした。そしてある物を取り出すとクオウ、サクヤ、ミツカに渡した。


「こ、これは」

「まさか…」

「三種の神器!」

「の複製品だ」


 ワタルが3人に渡したのはヤマトに伝わる三種の神器、草薙剣(くさなぎのつるぎ)八咫鏡(やたのかがみ)八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)の複製品だった。しかし複製品とは言え太陽神である天照の神気が込められた宝具で有る事には間違いなかった。


「主上から頂いた物だ。3人に貸し与えるから霊獣武装を試してみろ」

「分かりました。獅子丸!」

疾風(ハヤテ)

亀桜(キオウ)


 3人が己の霊獣を呼ぶと、大獅子、隼、甲羅に桜の模様がある亀が現れて三種の神器に吸い込まれていった。


 そして獅子丸と同化した草薙剣(くさなぎのつるぎ)は大剣に、疾風(ハヤテ)と同化した八咫鏡(やたのかがみ)は盾に、亀桜(キオウ)と同化した八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)は衣を出現させてサクヤの身を纏った。


「凄いな、霊力が倍増している」

「これが宝具と霊獣武装の力。ですが皇子はどうするのです?」

「私が戦前で切り結んでもいいのか?そもそもキリュウは武器にするよりも直接戦わせたほうが強力だろう」

「申し訳ありません、失言でした」


 応龍であるキリュウの力を使ってワタルは宮中をたびたび抜け出していた。そして厄介ごとに首を突っ込んでは暴れまわっていた。その所為で今回も前線に立って無茶をするのかと心配したクオウだったが今回は皇子として危険な事はしないつもりのようだった。


「では四凶その名の通り4体いる。よって私とクオウ、ミツカ、ゴウラ殿で1対ずつ受け持ち、サクヤとハゲツ殿は後方で法術支援で行く」

「分かりました」


 ちなみに連れて来た兵は民の避難の為に後方に下がる。『魔』に対しては雑兵は役に立たないのである。


 そして夜になり四凶が人を喰らいにやって来た。しかし待ち構えていたワタル達を前に手も足も出なかった。このまま行けば被害はゼロで終わるはずだった。


 しかし戦いに参加する者の中に邪念を抱いている者がいた。その男はある少女を愛していた。しかしその少女が他の男のものになると知ってその男を憎んだ。


 だから勝利を確信した時、自分が戦っている相手を誘導しその男にけしかけようと考えた。


 ミツカはわざと足を滑らせて自分が戦っていた饕餮とうてつをクオウの方に行かせた。饕餮とうてつ窮奇きゅうきと切り結んでいたクオウの背中を狙って爪を振り下ろそうとした。


「駄目!」


 しかし後方で支援していたサクヤがそれに気づき、霊獣武装を解除して亀桜(キオウ)を盾の代わりにしてクオウを守らせた。


 その時だった、


 クオウと切り結んでいた窮奇きゅうきはクオウを飛び越えて無防備なサクヤを襲った。


 サクヤはそれに対応できず、


 窮奇きゅうきはサクヤの頭を噛み砕いた。

 



 そのあまりの出来事にワタル達は動きを止めた。


 しかし残りの四凶はワタル達を無視してトウカの亡骸に群がった。


 ワタル達が正気に戻り動ける様になった時、トウカのいた場所には服の切れ端と僅かな血溜りしか残っていなかった。

 

「があああ!!!」

「うわわわ!!!」


 まず、クオウとミツカが四凶に向かって突撃した。しかしトウカの、神の末裔とされる帝の子の血肉を喰らった四凶はその力を増し2人の力では太刀打ち出来なくなっていた。


「キリュウ!」


 ワタルはキリュウに2人を助けさせようとした。しかし間に合ったのはクオウだけでミツカは四凶によってその身を引き割かれてしまった。


「なんと言うことだ。もはや我々には打つ手がない」

「諦めるな!この程度の危機、幾度と無く乗り越えてきたであろう」


 絶望の言葉を口にするハゲツを余所に、ゴウラはまだ戦う気だった。しかし四凶の体が溶け出し1つの魔になった時ゴウラもまた恐怖で体がすくんでしまった。


 もはや、渾沌こんとんでも饕餮とうてつでも窮奇きゅうきでも檮杌とうこつでも無い。『四凶』呼べる悪神がそこにいた。


「皇子逃げてください!」

「いや、まだ手は有る」



 圧倒的な魔の前にワタルは僅かな勝機を見出していた。ワタルは四凶の中に天照の神気を感じていた。それはサクヤは喰われた時一緒に四凶の腹の中に納まった八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)の力だった。


「霊獣武装の事を知ったとき考えていた事が有る。この身は神の末裔、もし俺の体を触媒にしたらどうなるのか」

「駄目です、そんな事をしたら霊獣と意識が交じり合って人に戻れなくなります」

「大丈夫だ、キリュウは俺の魂の半身なのだから。キリュウ、霊獣武装」


 覚悟を決めたワタルの声に答えてキリュウはワタルと同化した。そして1体の龍が現れた。しかしそれは応龍では無かった。


「あれは…」

「まさか伝説の」

「皇子…」


 黄龍、最上位とされる応龍のさらに上位の伝説の龍。古の神話にのみ登場する伝説の龍がクオウ達の目の前に顕現した。


『クオウ、後の事は任せる』

「皇子?」

『俺は四凶を天に連れて行く。天照の太陽の力を直接奴にぶつけて奴を倒す』

「駄目です。そんな事をしたら皇子まで」

『クオウ、お前は生きろ。これは命令だ!八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)よその神気を解放しろ!』


 ワタルがそう言うと四凶の体内に有る八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)は神気を解放させて四凶の動きを封じた。そして動けなくなった四凶の体を掴むと黄龍は天に昇っていった。


『お前は地上に残れ。そして生まれ変わって又生きろ』


 天に登りいく中、黄龍は四凶の体に手を入れ八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)を取り出した。


『お兄様…』


 神気を解放した八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)にはサクヤの魂が入っていた。黄龍は八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)を地上に向けて落とした。そして地球を半周し太陽が見えると太陽に向かって直進するのだった。


 一方、1人残されたクオウはその場で泣き崩れていた。


「皇子…」

「何か落ちてるぞ」

「え」


 天を見上げていたゴウラがそう言うと天から八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)がクオウ目掛けて落ちてきた。クオウはそれを優しく受け止めた。


「サクヤ様…」


 クオウは八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)を両手で包み胸に押し当てると再び泣き崩れるのだった。


 この後、この事を知った帝はワタルに『天上の皇子』の名を与え神の眷属として祀った。


 ゴウラとハゲツは大陸には帰らずヤマトに使え大陸の技術をヤマトに伝えた。


 そしてクオウはと言うと…


「本当に行くのだな」

「はい、天照様のお告げで皇子が大陸の西の果てで帰ってくると出ました。だから行きます。何年かかろうと、何年待とうともう一度皇子と会うために」


 ワタルの帰還を予言されクオウはワタルと会う為に旅に出た。


 この後クオウは旅先で多くの人々を救い英雄と称えられる事になる。


 そして大陸の先にある島、アルビオン。


 ここでは国を奪われた1人の王子が騎士達と共に国を取り戻そうと戦っていた。クオウは最初傍観を決めていたが知り合った男が王子の乳兄弟であり、王子を庇って命を落としたことで自身の境遇と比べ王子に協力する事を決意。


 しかしあくまで主はワタル1人として国には仕えず終戦後は長閑な村に腰を落ち着けワタルの帰還を待つのだった。

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