表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

要するに私たちは淋しい

冷蔵庫と扇風機の音の中に、携帯の着信音が混ざる。

ピカピカと私の顔を照らす光を拾い上げ、君からの着信を知る。

何度かかけなおすけれど繋がらない。

うーん。これはまずいぞと、やけになって飲んだ薬の残っている私は、とぼとぼ歩き出してみた。

すごく短い距離で何回か転んだ。

こうして私の体は痣だらけに斑模様にいく。

氷入れを開けると、私は氷を2つほど口の中に放り込んだ。

冷たい、と思う。

ついでに保冷剤を頭に乗せた。

少し思考がはっきりしてくる。

どうやら君のピンチに私は寝ていたようだった。

気持ちが焦っているのに、しどろもどろの思考回路と足は、どうにもならくて不愉快。

そこらに転がるビールの空き缶を蹴っ飛ばした。

どうしたらいいか分からず、好きな人も頼ってみるけれど、どうやらそれどころではない様で、明後日に返信したような文章が飛んできていた。

これはひどい。呟いて諦めた。

今の私は車のカギさえまともに探せない。

早く、早く、独り言を染み込ませながら探し物をする。

やっと見つかった時には、もう3時間たとうとしていた。


パジャマのままだけれど、外へ出た。

久しぶりの外の空気に肌がビリビリとする。しばらくすれば慣れるはずなので、気にせず車に乗り込む。

陽気なクマがgood nightと話しているワンピースが、汗で湿った太ももにまとわりつく。

風がそれをふわりと持ち上げる。

最高に間の抜けた格好に、笑ってしまいそうになる。

君もこんな私を見たら、ぜひ笑ってくれればいいと思った。

車をなんとか発進させる。

不機嫌に唸るエンジンにヒヤヒヤした。

しばらくして、勝手に流れ出した曲が少しだけかっこよくて、うるさい筈なのに消せなかった。

君といつかこんな曲を作れたらいいなとか、そんなことを考えていた。


窓からすごい勢いで風が入ってくる。

信号機は揺らめいていてよく見えなかった。

それでもなんとか君を目指す。

だんだんスピードが出せなくなる。

いつまでも君からの着信音がならないから、私は怖くなって、どこへも行かないでと声をこぼした。

同時に涙もこぼれてきて、水色のパジャマにシミを作る。

そんな私を励ますようにきらりと光った、ハンドルを握る私の手首のブレスレット。

実は君がくれた枷なんだって、知っててつけたままだった。

もう一度、ブレーキを強く踏み込む。

2人の緩やかな停滞は、困った困ったをしながら、結局ここにあり続ける。

君は、君がここに居続けるために、私にこんな枷をつけているように。

私もそれに心地よさを感じている。

矛盾する私たちは、それでいて、私たちはどこかへ連れていってくれる人を待ってるけれど。

きっとどこへ行きたいわけでもないのだ。

そして互いに現れたその人を認められない。

停滞したこの場所で私たちは夢をみよう。、

いつまでもここにいながら、いつかここから出ていく夢。

その時私は泣いているから。

君は慰めてくれないとこまるなぁ。

そんないつかが、私たちのエンディング。

でもまだ、大丈夫。私も君も、ここにいれるはず。

願って、不安を打ち消そうとした。

窓の外は怖いくらい変化していくけど、空はなんだか昨日と代わり映えがしなくて安心した。


ふいに、車内に2つの曲が混ざり出す。

後から加わったのは、君からの着信音だった。

深呼吸をしながら、通りの少ない道なので適当に止まる。

「えへへー。ごめんごめん。」

電話越しに聞こえる決まりの悪そうな君の声に、泣きそうな私の声が答える。

「どうしたのさー!」

「ごめんね。大丈夫大丈夫。」

そう言って笑う君は、全然大丈夫じゃなさそうで安心した。

「そっか。わたしも大丈夫じゃないかな」

「早く来て。」

「うん。わかったよ」

私は君の家へと、もう一度車を発進させる。

大丈夫じゃない私が、大丈夫じゃない君にできることなんて。

一晩考え込んだって、きっと、あんまり思いつかないけれど、要するに私たち、淋しいのだから。

せめて2人でいよう。

1人よりもっと淋しいけれど、2人でいよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ