魔法の薬
ちゃんと覚えていればよかった。
夢の中の私はヘッドライトめいいっぱい光らせて走る。
本当に真っ暗で、遠くに見えるビルやなんかの明かりの集まりがあって、それがちらちらするように眩しかった。
周りの街頭は変な形で、まるでクリップみたい。
静かで寂しかったから、少し寒いのに、窓を開けてみた。
風が髪にまとわりついてうっとおしかった。
ふんわりとしたコンビニの明かりがすごい速さで後ろに消えていく。
窓から身を乗り出して呟いた。
「もう嫌だ」
いつの間にか車は止まっていて、地面には小さな蛍みたいな光がふわふわ浮かんでいた。
いつの間にか横に男の人がいる。
良く知らないけど、私みたいで、そうじゃないような、夏の終わりのうちわみたいな寂しそうな感じがしていた。
その人は私の足を見ていた。
腕だけじゃ収まらなくなって、ずたずたにされてしまった私の足。
いつか全身こんなふうになってしまうような気がしていた。
やがて男の人は私の足を持ち上げて、
「こんなことして飽きないの?」って聞いた。
「うーん」って、私は唸った。
その人は、小さな白い紙切れに、カタカナで良く分からない薬の名前を書いてくれていた。
どんな名前の、なんの薬か覚えていない。
でもなんだか、あの薬を飲めばちゃんと生きていけるような気がした。
遠くに見えていた明かりの集まりは、まだ
ぴかぴかと元気に光っている。
私は男の人の横で、ただただ紙切れを弄んでいた。