紙飛行機の教室
規則正しく私を呼ぶ目覚ましを放り投げて起床。
遠くまで飛んでいったそれは、
白白とした空に微かに光る。
制服を横目にごそごそと手袋を探した。
息が綿菓子のような塊となって、
いつまでも私の視界を曇らせている。
やっと見つけた真っ赤な手袋は、洗濯したせいか
なんだか小さくなっていた。
手首が寒い。
もそもそと制服を着て、髪を二つに結んだ。
そうして、なんだか良く分からない生き物だった私は女 子校生になる。
毎朝、毎朝。
なんだか良く分からない、暗くて、ふわふわしていて、 幸せな記憶でできた悪夢のような私は、女子校生に変装して いる。
いつかバレてしまいそうで怖いけれど、
なんとか上手くやれていると思う。
予定時間を10分過ぎたところでやっと家を出た。
学校について、お汁粉と狸を足して二で割ったような 担任に挨拶をした。
声が小さずきたせいか返事をもらえずに悲しくなる。 悲しくなったので、教室に住んでいる、やたらと攻撃力の 高い人たちへの挨拶は今日もやめておいた。 立って、礼をして、何か呟いて、座って。
朝のHRが終わった。
本を読む時間があったので、
家から持ってきた本を読んだ。
みんなは文庫本だった。
私はハードカバーだった。
浮いているんじゃないかと心配になり、
私の意識が教室の中に浮いた。
ぷかぷか。
浮き続けるそれは、廊下まで出ていって見えなくなった。ああ。
そして始まった時間割を、 ぼんやりとやり過ごした。
記憶に残っているのは、紙飛行機。
数学の時間、つまらない、眠たい教室に紙飛行機が飛んだ。
それを飛ばした主は誰なのかわからなかったけれど、少しだけ憧れた。
そして、いつのまにか私は外にいてサッカーをしていた。
ボールを転がして、戻ってきたのを、また転がす。 単純な練習は心地よかった。
試合の間は、海の中にいるクマみたいな気分だった。
魚たちはスイスイ泳いでいて綺麗だった。
しばらくすると昼ご飯。
私が持ってきていたそれはみかんジュースだった。
お腹は満たされないが、 爽やかな気分になれた。
あとは机について、早く帰りたいと願っていたら学校が終わった。
願いは神様に届いたようだった。
早く息を吸いたいと思って教室を出た。
教室の空気は毒ガスが混じっているので吸えません。
途中、 靴箱で友だちに会う、向こうは三人、
私は一人
なんとなく惨めな気分になって帰った。
少ししてから、さよならと言い忘れたことを悔やんだ。
言い忘れというか、私は少し挙動不審だった気がする 。
泣きたくなった。
なぜこんなにままならないのか。
泣き虫な私を慰めるために、近くのコンビニであんまんを買った。
甘くて柔らかいそれは、私を慰めるのに適していたようだった。