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新・桃太郎  作者: matukou
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桃太郎誕生

一話が三千文字位でしたが、今回は六千文字程になってます。ちょうどいい区切りがなかったもんであまり気にせず読んで下さい

「さて、今日はなかなかついてるわい。借金の取り立てはできんかったがまさかとん平の奴からこんな立派な桃が手に入るとはな、これならばあさんもやかましくいうことはないじゃろう」おじいさんは心底嬉しそうに鼻歌を歌いながら家の前まで辿り着いた。



おい、ばあさんや。今帰ったぞ、戸を開けとくれ」おじいさんは大声で叫ぶ。

「何だい大きな声をだして。戸くらい自分で開けたらどうなんだい。ん!? じいさんや、その背中に背負ってある大きなものは何だい?」めんどくさそうに戸を開けたおばあさんはおじいさんの背中にある物に気づき不思議そうな声で聞いてきた。



「ふふふ、見てみいばあさん。これは桃じゃ、今日はとん平の所にいってきたんじゃが、あの野郎が金を返せんなどと、ふざけたた事をいいやがるんでとことん追いつめてやろうとしてる時にこの桃を見つけたんじゃ。ワシはこの桃を譲るなら借金を次に来るときまで待ってやるといって手に入れてきたんじゃよ」おじいさんはとん平の家での出来事を説明した。


「はー、そんな事があったんか。しかし、こんな大きくて立派な桃をよくとん平みたいな貧乏人が持っていたもんじゃのう」おばあさんは大きな桃をまじまじと見ながら疑問を口にした。

「何でも、子供が産まれたお祝いに嫁の両親からもらったもんだといっておったぞ」

「ああ、なるほど。それならあの貧乏一家にこんな高そうな桃があっても不思議ではないね」おじいさんの答えに納得がいったという表情をして、おばあさんがもう一度桃の方を見て嬉しそうに笑う。

「この桃だってあの未来も希望もないボンクラ一家に食べられるよりも、ワシ等みたいな物の味が分かる者に食べて貰った方が本望じゃろう」おじいさんは心底愉快そうに大声をだして笑った。

「しかし、こんだけ大きいと台所にははこべないじゃないか。クワでも持ってきてこの場で真っ二つにでもしないと、とてもじゃないが大きすぎて食べられそうにないよ」おばあさんはどうしたもんかと悩んでいる。



「そうじゃな、どれ。ワシがやってやるから早速この桃を食べてみようじゃないか」おじいさんはそういって庭から畑で使うクワを持ってきた。

「それにしてもこんだけ大きな桃だと中から赤ん坊の一人や二人くらいでてきそうだね」おばあさんが嬉しそうに冗談をいう。

「そんな馬鹿な事あるもんか。さあ、ばあさんどいたどいた」おじいさんが手にしたクワを降り上げ桃に向かって一直線に振り下ろした。



  次の瞬間、玄関の戸が開きおじいさんとおばあさんが振り返るとそこには見るからにたくましい体つきをした一人の少年が立っていた。

「じじ、ばば、今帰ったぞ」少年がそういうと。

「おお、太郎かちょうど良いところに帰ってきたの。ほれ、これを見てみろ」

「随分、大きなものじゃが何なんじゃこれは?」おじいさんの指指した方をみても太郎はあまりに大きいせいか真っ二つに割れた桃が何なのか分からないようである。



「よう見てみい、これは桃じゃ」おじいさんがそんな太郎の様子を愉快そうにみながらいった。

「これが桃じゃと!? はー、確かに桃じゃ。こりゃたまげた、オラこんな大きな桃は初めて見たわい」太郎は割れた桃を持ち上げたりしながらまだ信じられないといった表情をしている。



「太郎や、おじいさんに感謝しなさい。この桃はおじいさんが仕事でとん平の所から手に入れたものなんだよ」おばあさんがそういうと、太郎はさらに驚いた表情になり。

「とん平じゃと! 何であんな貧乏人のじいさんがこんな高そうなもの持ってたんじゃ?」太郎が先程のおばあさんと同じ事を聞いてきたので、もう一度おじいさんが事情を説明した。

「なるほど、そういう事か。それならあのとん平のじいさんがこんなものを持っていても不思議ではないな。なあ、じじよ。そんな事より早速この桃を食べてみようじゃないか」事情を理解した太郎は納得し今度は目の前の桃をよだれを垂らすように見ている。



「そう慌てるんでない。ほら、太郎お前が一番に食ってみろ」おじいさんが一口で食べれる量を取り出し太郎に渡した。

「こりゃ、うまいわい。これまで食べた物の中で間違いなく一番うまいぞ」太郎はむしゃぶりつくように食べるとすぐにおかわりをしようと桃の方へ近づいてくる。

「はっはっは、慌てるなといってるではないか。こんだけ大きければいくらお前が食いしん坊でもそう簡単には無くならんわい。しかし、そんなにもうまいもんなのか、どれワシも食べてみようじゃないか」おじいさんが桃を手に取りパクリと一口で平らげる。



「うむ、本当じゃ。こんなうまい桃は今まで食べた事がないぞ。ばあさんも食べてみろ」おばあさんはいわれた通りに桃を食べるとあまりのおいしさに感動しおじいさんに何度も感謝の言葉をいった。

 三人はしばらくとりつかれたようにむしゃむしゃと桃を食べ続け、すっかり桃が無くなるころには三人とも身動きがとれない程だった。

「ふー、食った食った。もうこれ以上は何もたべれんわい」太郎がゲップをだしながら苦しそうにいう。

「食いしん坊のお前でもさすがにこれには参ったじゃろう」おじいさんの言葉に三人は楽しそうに笑った。しばらくするとおじいさんとおばあさんは仕事の話しをしはじめた。太郎は二人の様子を見ながら一人で何やら考えごとをしている。



「なぁ、じじばば。オラには最近ちょっとした悩み事があるんじゃ」突然太郎が喋りだした。

「悩み事じゃと!? お前がか」おじいさんは意外そうな顔をしている。

「じいさんや、太郎だって年頃の男なんですよ。一つや二つ悩みがあってもおかしくないじゃないか。さぁ、何を悩んでいるのか聞かせておくれ」おばあさんがやさしく聞いてきた。

「うん、実はの・・・オラの家はじいさんが金貸しをしてるじゃろ。その事で村の連中にオラまで評判が悪いようなんじゃ」太郎は遠慮気味に話しはじめた。



「何じゃ、お前の悩みとはそんな事か。お前にはワシの仕事の話しは何度もいってるじゃないか、困ってる人に金を貸してやる立派な仕事じゃと」

「そうだよ、太郎。今日だっておじいさんのお陰で大きくておいしい桃を食べれたじゃないの。私たちが裕福な暮らしをしてるのは全部おじいさんのお陰なんだからそんな事いうもんじゃないよ」おじいさんの機嫌が悪くなってきそうなのでおばあさんがすかさず間に入ってきて話した。

「そんな事オラだって分かってる。しかし村の連中はどうもその辺がいまいち分かってないみたいなんじゃ。学がない連中じゃから仕方ないのかもしれんがな」太郎はおじいさんの機嫌など気にせず話しを続ける。



「ふん、どうせ文句をいってくる奴らはワシから金を借りるだけ借りてろくに返す事もできんろくでなしのの連中に決まっておる。そんな奴のいうことなど気にする必要はない、お前は堂々としておれ」おじいさんは煙管を取り出し火をつけて吸いはじめた。

「もしかして太郎、その事でいじめられてたりするんじゃないだろうね」心配そうな声になりおばあさんが聞いてきた。



「馬鹿いうでねぇ、この村にオラより強い子供がいるもんか。ちょっとでも生意気な事をいう奴にはげんこつかましとるさ。オラは喧嘩なら大人にも負ける気はしねぇど」太郎はそういって力こぶを見せた。

 太郎は周りの子供達と比べて幼い頃から体が大きく、十三才になった今では大人と見違えるほどになっていた。実際に腕力の方も並の大人ではかなわないほどである。

「ふむ、大人でもお前に勝てる奴はそうそういないじゃろうからな。しかし、いじめられるわけじゃないなら何も悩む必要はないじゃないか」

「それはそうじゃが、あまりにも評判が悪くての」太郎はまだ悩んでいるようである。

「くだらないことばかり考えてふらふら遊んどらんで、お前もそろそろ仕事を覚えてワシの手伝いをしろ。お前が手伝えば今までより強引に取り立てができるしもっと儲かるんじゃぞ」おじいさんはこれ以上太郎の話を聞く気はなく奥の部屋にいき金庫からお金を取り出し、数えはじめている。



 太郎がここまで評判をきにするのには理由があった。その理由とは女の事である、年頃ということもあり興味があるのだが評判が悪くだれも近寄ってこないのである。以前、好きになった子がいて誘ってみた事があったのだがやはり相手にされることはなかった。その態度に激怒した太郎は強引に手を引っ張り林の中に連れていこうとしたことがあった、幸いにもその時村の大人が近くを通り異変に気づき駆けつけたので何事もなくすんだ。太郎はあまりの恥ずかしさにその場から走り去ってしまった。そんな事もあり村の女達はよりいっそう太郎の事を避けるようになっていた。そんな恥ずかしいことはさすがにおじいさんにもおばあさんにもいえず悩んでいるのである。



「うーん、何かいい方法はないかのう」太郎は寝転がりながら一人で考えていた。その時、太郎の頭の中に数日前村の子供が話していた噂話を思い出した。

 その話しとはこの村から山を二つか三つ越えた所にここより大きい村があるそうでその村には人間の他にも鬼と呼ばれる生き物がいるらしく、その鬼は恐ろしい顔をしており人間の大人よりも背が相当高く腕力も桁違いなものがあるようできっと、そこの村人はその鬼とやらに無理矢理こき使われてるんじゃないかといっていつかこの村にも襲ってくるんじゃないかと子供達は震えながら噂していた。

「これだ」太郎は身を起こしながら思わず声に出していった。その鬼とやらを退治すればきっと評判があがるに違いない。この村の評判が悪いままでも鬼がいるという村では英雄的扱いをうけるのは間違いない、そうなれば女の事で悩むことなんてないじゃないか。早速太郎は二人にこの話しをして鬼退治に出かけることを話してみた。



「鬼退治じゃと、全くお前はまだしょうもない事を考えていたのか。くだらん事いっとらんでさっさと仕事を覚えろといっとるじゃろ」おじいさんは太郎の話にうんざりしたように叱りつける。

「太郎や、じいさんのいう通りじゃよ。それにそんな危険な事をしないでおくれ」おばあさんは太郎の身の危険を心配していた。

「大丈夫じゃ、ばば。オラだって大人より強いんじゃ、鬼なんかに負けるはずがないわい。それにじじは仕事を手伝えといっておったな、鬼退治をする事はじじの仕事を手伝う事になるんじゃぞ」

「何じゃと、鬼退治のどこがワシの仕事を手伝うことになるんじゃ?」おじいさんは苛立った口調になっている。

「いいか、じじ。オラが鬼退治をするとその村では英雄扱いをうけることになるじゃろ、そうなるとじじの商売だってやりやすくなるんじゃないか?何しろ英雄の親になるからの、この村の連中のように文句もいえまい。ここより広い村らしいし人間もおおいじゃろうから今よりもっと商売繁盛間違いなしじゃ」太郎は得意げになり話す。

「むむっ。それはそうかもしれんな・・・」おじいさんから苛立った様子は消えぶつぶつと考えごとをはじめた。

「私はやっぱり反対だよ、鬼というのが人間とは次元が違うくらい恐ろしい生き物だったらどうするんだい、太郎お願いだから馬鹿な事は考えないどくれ」おばあさんはやはり心配のようである。

「心配するな、ばばよ。もしオラでもかなわんぐらい強いなら逃げればいいだけの話しではないか、オラは足だって誰にも負けたことはないんじゃ。図体がでかいだけの鬼なんぞに捕まるはずがなかろう」太郎は自信満々に笑ってみせる。



「よし、分かった。お前がそこまでいうなら鬼退治とやらをやってみろ」考えごとをしていたとおもったら何やら決断したかのようにおじいさんが口を開いた。

「さすがはじじ、分かってくれたみたいじゃな」太郎はその言葉を聞き飛び跳ねるように喜んだ。

「何いってるんだい、じいさん。そんな危険な事をさせるなんて太郎がかわいくないのかい」今度はおばあさんの方が怒鳴るようにいってきた。



「えーい、うるさい。お前には分からんかもしらんが男にはやらねばならん時というものがあるんじゃ、困ってる人の為鬼退治するなどとは実に立派じゃないか、お前だって太郎の強さはよく知っておるだろう親なら余計な心配ばかりせず少しは応援してやろうという気持ちはないのか」止めるつもりが逆に叱られたのでこれ以上は何をいっても無駄だと思ったのかおばあさんは説得するのをようやく諦めた。

「なーに、心配するなばばよ。さっきもいったように危なくなったら逃げるから死ぬことはないわい。安心せい」太郎はそういっておばあさんの方に手を置いた。

「約束じゃよ、太郎。無茶はやめとくれよ」

「分かった、分かった。それよりばばにはきび団子をたくさん作って欲しいんじゃが、ばばのきび団子は力が沸いてくるからの。あれを食べれば鬼なんぞいちころじゃ」太郎はそういって豪快に笑った。

「さすがはワシの子じゃ、実に立派だぞ。それで出発はいつになるんじゃ?」

「そうじゃのう、早い方がいいじゃろうが今日はもう時期に日暮れになるし明日の朝一で旅立つ事にしようかの」太郎は外をみて答えた。

「うむ、そうか。それなら今晩は長旅に耐えれるように豪華なものをたくさん食べて栄養をつけんとな。ばあさん今晩の飯は一番いい食材を使ってたくさん作っとくれ」

「任しとくれ、腕によりをかけてとびっきりの力がつく料理をいっぱい作るから残すんじゃないよ」おばあさんは早速料理にとりかかった。



その夜、豪華な料理を前に太郎は一つも残さず平らげ明日に備えていつもよりたっぷりと睡眠をとった。

 次の日の朝、おじいさんの家の前には三人の姿があった。

「太郎、いよいよ出発じゃの期待しておるぞ。お前に渡す物があるのでちょっと待っておれ」おじいさんは物置の方へ歩いていった。。

「しっかりね、いいかい絶対無茶は駄目だからね。これは太郎にいわれたきび団子だよ」そういってたくさん作ったきび団子を太郎に渡した。

「おお、これはありがたい。これさえあれば長い旅で寂しくなってもばばの顔を思い出せるからな」太郎はまだ心配しているおばあさんに笑ってみせた。

「じじは何をしてるんじゃ、そろそろ出発したいんじゃがな」太郎は物置がある方をちらっとみた。しばらくするとおじいさんが出てきて太郎の方へ歩いてきた。

「これを持っていくんじゃ太郎」そういっておじいさんは刀を一つ渡した。

「おお、これは実に見事な刀じゃないか。こんな物がオラん家にあったとは知らんかったぞ」太郎は刀を鞘から抜くとその見事な姿に惚れ惚れした様子でいう。



「この刀は以前村人の一人が借金を返せんかった時に、そいつの家じゅうあさっていたら出てきたもんじゃ。隠し持っていたから怪しいと思っていろいろ聞くとその昔、ある有名な剣豪が使い山をも斬るといわれたほどの名刀だそうじゃ。そのうち価値が分かる奴に売ろうと思っていたんじゃが、残して置いてよかったわい。鬼退治にいくお前にぴったりの刀じゃないか」おじいさんは満足そうにいった。

「これはいい物をもらった、じじの心遣い嬉しく思うぞ」太郎は刀を鞘に納めておじいさんに向かって頭を下げる。



「うむ、いよいよ出発じゃな。よし、旅立つ息子であるお前にこのワシが勇ましい名前をつけてやろう。そうじゃな、うーん・・・桃太郎というのはどうじゃ。太郎が大きな桃を食べさらに強くなり鬼を退治する。どうじゃ?」おじいさんはこれしかないというように手を叩いた。

「桃太郎か・・・実にいいではないか、じじよオラはその名前が気に入ったぞ。この桃太郎じじより譲り受けた名刀とばばがこさえたきび団子を持って見事、鬼を討ち取ってじじとばばの前に帰って参ります」

「うむ、期待してるぞ。」

「がんばってね」挨拶をすませた太郎改め、桃太郎はそのまま出発した。朝の霧の中に入っていくその姿が見えなくなるまでおじいさんとおばあさんは手を降り続けた。

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