おじいさんの職業
昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんとおばあさんはこの近所ではとても評判が悪く、悪どいやり方でお金を貸し付けては法外な金額で取り立てる金貸しを生業としていた。
この日もおじいさんは貸し付けたお金で商売に失敗した、とん平という村人の所へ借金の取り立てにきていた。
「なあ、とん平さんよ。どんな事情があれ借りた金は返すのが人としての筋ってもんじゃねえのかい』おじいさんはパイプの先から煙をとん平の方に吐き出し睨みつけた。
「そ、そんな勘弁してくださいよ。それにワシはこんなにもお金を借りた覚えはないですよ、ワシが借りたお金は返済額の半分もないはずじゃ」おじいさんの無茶苦茶なやり方にとん平は疑問を口にした。
「おいおい、馬鹿をいうんじゃないぞ。どこの世界に貸した金をそのまま取り立てる金貸しがいるってんだ、借りた金には利息ってもんがかかるんだよ。こっちだってこれで生活してるんだ、いくら学のないあんたでもそれぐらいの事は分かるじゃろ」おじいさんは呆れたという顔で自分の正当性を主張した。
「しかし、いくらなんでもこんな爆大な利息なんてのは常識で考えてありえないじゃないか。大体失敗した商売ってのもワシはそんなものやるつもりはないと何度もいったのにそこへ何日も泣きついてきてこの金で自分の代わりに商売をして欲しいと頼み込んできたのはあんたの方じゃないか。ワシは商売なんて柄にもないことは嫌でしょうがなかったんじゃ、あまりにも泣くもんで不憫に思い引き受けたんじゃないか。あの時いってた自分には理由があってこの商売をすることができないってのもワシを騙す為の嘘だったんじゃろ」どうやら人のいいとん平はそこに目を付けられカモにされたようだ。おじいさんはニヤニヤした表情で
「ワシがどんな手をつかおうが、どんな理由があろうがとん平さん、あんたはワシから借金をしてそれを返さなければいけないのが現実じゃよ。それに無茶苦茶な利息といったがそのことについてはここにある借用書にしっかりと書いてあるじゃないか、ほらここにあんたの母印だってしっかりおしてあるんだ。利息が高いだのなんだのってのはちゃんと借用書を読まなかったあんたのミスじゃよ」おじいさんはそういっ借用書をとん平に突きつけた。
とん平が借用書を見てみると確かにおじいさんが今いっていた通りのことがかかれている。母印も当然自分のものである。
『し、しかしこんな小さな字で書くなんて明らかに罠じゃないか、こんなやり方はワシは納得できんぞ。いやワシだけじゃない、あんたのやり方には村人全員我慢の限界なんじゃ」
おじいさんはパイプの中身の灰をとん平に投げつけ。
「ごちゃごちゃうるせーぞとん平。いいかワシはお前等がどう思って様がどうでもいいんじゃ、要はワシから借りた金を返せといっとるんじゃ。それともなにか、お前はワシから金を借りたいいが返すつもりは無いという気か? ほー、こいつはたまげたわい、何ならどっちが悪党か出るとこでて決めてもらう事にしてみるか。もっとも貧乏なお前をお上の連中が相手にするとは思えんがの」おじいさんが不気味な笑みを浮かべた。
「くっ、それは・・・ 分かった、金は必ず全額返すからもう少し待ってもらえんじゃろうか。今のワシの稼ぎじゃ一気に全額返すのが無理なのはあんたも分かってるじゃろ。何とか少しずつでも返していくからそれで勘弁してくれ」とん平はおじいさんにそう悲願した。
おじいさんはパイプに火をつけゆっくりと煙を吐き出し、ニヤリと笑みを浮かべた。
「ジタバタせず最初からそういっとけばよかったんだよ。しかしなとん平、金は一気に返してもらうぞ。ワシもお前ももう年じゃからな、ちょっとずつ返済を待っていたら全額返してもらう前にお互いあの世にいくのがオチじゃからな。お前に返済能力がないなら嫁さんを売り飛ばすなりして金を作ってもらわんとな、なんならワシがいい店を紹介してやろうか?」そういっておじいさんは奥のふすまで閉じられている部屋をチラッと見た。
「そんな、それだけは勘弁してくだせぇ、ちょっとでも早く返せるように死ぬ気で働きますからどうかこの通りです」とん平は涙ながらに土下座をしながら頼み込むがおじいさんはニタニタと笑みを浮かべてるだけである。
「ちょっと待ってください」
その時奥のふすまが開きそれまで二人のやりとりを聞いていた妻のサチコが姿を表した。
「おう、サチコさんかどうもお邪魔してますよ。実は今とん平さんに貸している金の話しをしているんじゃが、これが困った事に返すアテがないというんでな、ワシも随分困っている所なんじゃよ」おじいさんはサチコが奥で会話を聞いていた事を知りながらわざとらしく今の状況を説明した。
「はい、あの。話しを聞いていたので内容は全部分かっています」サチコはそういってうつむいた。
「そうか、それなら話しは早い。金が無いなら作るしかないからな、お前さんを売り飛ばしてでも金を作ってもらおうと思ってるんじゃが・・・何かお前さんに他のいい考えでもあるかい?」そういいながらサチコにイヤラシい視線を向ける。
「お金は夫と一緒に必死に働いて返すのでどうかそれだけは堪忍してください、それ以外の事なら何でもしますから」サチコはとん平の方へいき一緒になって頭を下げた。
「チッ話しは聞いていたんだろ、他に方法がないならお前を売り飛ばして金を作るしか返済する方法はないんじゃ」舌打ちをしておじいさんが二人に向かって怒鳴りちらした。その時おじいさんは視界の先に何かをとらえた。
「おい、あそこにあるのは何だ?」さっきまでサチコがいた部屋の方を指さして聞く。
「はっ? ああ、あれですか。あれは桃です」とん平は一瞬困惑した様子だったがおじいさんの指指した方をみてすぐに答えた。
「桃だと!? あんな大きなのは見た事ないぞ、どれちょっとこっちに持ってきて見せてみろ」とん平はいわれた通りに目の前に桃を置いた、おじいさんはその桃を様々な角度から見て。
「うーむ、これは立派な桃じゃ。こんな大きな物は見たことがないわい・・・ やいとん平、お前この桃は一体どうしたんじゃ?」
「どうしたといいますと?」とん平はおじいさんの質問の意味が分からず聞くと。
「とぼけるんじゃない、借りた金も返せんお前がこんな高そうな桃を買えるはずがなかろう。どこで盗んできたんじゃときいているんじゃ」おじいさんはそういってとん平を睨みつけた。
「盗んだなんてとんでもねぇ、この桃は生まれたばかりの子供の為にと妻の両親から貰った大事な桃じゃ」とん平は強い口調でおじいさんを睨み返した。
「両親からねぇ、まあ、そんなことはどうでもいいわい。あの桃はワシがもらっていくぞ」おじいさんはまだ疑うような声でいい、とん平から視線を外し桃の方をみた。
「そんな、この桃は赤ん坊の為の大事な物なんです。どうか堪忍してもらえないでしょうか」サチコが頼み込んでみるが。
「えーい、うるさいぞ。金も返せんお前等がワシに対して生意気な事をいうんじゃない。そうじゃな、この桃をワシにくれるならお前等の借金の返済をもうしばらく待ってやってもいいぞ」
「しかし、その桃は・・・」サチコは諦めきれないような声をだす。
「駄目ならしょうがない、やっぱり今すぐにお前さんの体で金を作ってもらう事にしようかの。のう、とん平お前はどう思うんじゃ?」おじいさんはイジの悪い顔で聞いてきた。
「分かりました、その桃は持っていってください。そのかわり本当に借金を待ってもらえるんですね、もう嘘はつかんでくれよ」とん平は悔しさのあまり目には涙を浮かべていた。
「おとなしく聞いていれば調子にのりおってワシは嘘をついた覚えなどないぞ、お前が間抜けだっただけの話しじゃないか。それを人のせいにするとは全く情けない男じゃ」おじいさんの言葉にとん平は言い返す事もできず、ただうつむくしかなかった。
「それじゃあ、こいつはもらっていくぞ。いいか、次にワシが来る時までに金の用意ができなかったらその時はわかってるんじゃろうな」おじいさんは玄関までくると二人の方へ向き直し、ドスのきいた声でいう。
「は、はい、必ず用意します」とん平はそういってサチコと二人でおじいさんの後ろ姿を悔しそうに見送った。
「あなた、大変な事になったね。どうしたらいいんだろうね、あんな大金」サチコは不安な声をだしとん平を見た。
「しょうがない、何とかして返すしかないじゃろう。すまんのうワシが間抜けなばかりにお前にまで苦労をかけて、その上両親から貰った大事な桃までとられてしまうとは本当に情けないわい」とん平はそういって拳を床に叩きつけた。
「そんな事ないわよ、あなたは何も悪くないじゃない。騙される方が悪いなんてあるはずないわ、絶対に騙す方が悪いに決まってるわよ」サチコはとん平の肩に手を置き慰める。
とん平は夕日を見ながらこれからのサチコと息子の事を考え涙をふいた、二人の為ならどんな汚い手を使ってでもお金を返し、あの男から逃れてやると心に決めた。