彼女の呪いはとれはしない
前作『勇者の連れの騎士の弟子』と同世界観ですが、見なくても楽しめます。
勇者「聖なる刃は悪を貫く!」
騎士「……切り裂け」
魔術師「ギッタギタにしてやるよ!」
僧侶「悪・即・撃・斬・浄・滅!」
勇・騎・魔・僧「聖光無双撃!」
魔王「ばっ馬鹿な!こんなやつらにぃぃぃ!」
◇◇
魔王が倒されて一ヶ月。
盗賊、いや元盗賊はとある村にいた。
盗「ひまだー」
そして、テーブルで寝そべっていた。
仕「なら、掃除でもしてて」
そんな元盗賊に仕立屋が雑用を言い付けた。
盗「あいよっと」
元盗賊、もう盗賊でいい。とにかく盗賊は店先の掃除を始めた。
盗「まったく、なんでこんなことを……」
ぶつくさいいつつもしっかりと掃き掃除をする盗賊。
どうしてこんなことになったかというと、話は単純である。
盗「身ぐるみ置いていけっ!」
仕「えー、今から魔王を倒しにいくところなのにぃ」
盗「ふっ、残念だったな。お前の旅もここで終わりだ!」
仕「ていっ」げしっ
盗「ぐふぁ!」吐血。
仕「ま、こんなものか」
盗「………………」沈黙
仕「おーい。生きてるか?」
盗「……んんぅ、俺は生きているのか?」
仕「うん。でさあ、ものは相談なんだけど」
盗「何だ?俺は今、色々なことがあって疲れたのだが。主にあんたが原因で」
仕「私の仲間に入らない?」
盗「……冗談で言っているのか?」
仕「いや、わりと本気。言ったよね。魔王を倒しにいくって。それの連れに」
盗「ふざけんな。負けたとは言え、別にお前から逃げてまた盗賊稼業に戻るだけだ」
仕「……噂を流す」
盗「噂?」
仕「そ、噂。具体的にはこんな女の子の私にこんな道具で負けたって」
盗「!!」
仕「そしたらどうなるかな?なめられたら盗賊なんてやってられないよね」にやっ
盗「確かに。こんな馬鹿な方法で負けたなんて知れたら成り立たない」
盗「…………ちっ、しゃあねえ。その魔王退治ってやつを手伝ってやる 」
仕「ありがとう♪」
的なことがあったからだ。
そうして仕立屋と盗賊の魔王退治の旅が始まった。
仕立屋が善意でとある村の人達、全員分の服を仕立てたこともあった。
村人を苦しめる山賊の身ぐるみを盗賊が剥いだこともあった。
巨龍を仕立屋が盗賊を打ちのめした道具で倒したこともあった。
捕らわれのお姫様のために盗賊が塔の鍵を盗み、無事救出したこともあった。
それでも魔王は倒せなかった。何故ならその前に勇者と呼ばれる人達によって倒されたから。
困ったのは魔王退治を掲げていた仕立屋と盗賊だった。特に盗賊が。
盗「………………魔王倒されたけど、どうする?」
仕「…………仕立屋を開店するけど従業員として雇われない?」
盗「ま、いまさら盗賊に戻るのもなんだしな、いいぞ」
そんなこんなで開かれた仕立屋『エアコスチューム』。名の由来は空気のように軽い着心地。
盗「まあ、前よりは楽でいいけどな」
盗賊は一人呟く。
盗賊は今やただの仕立屋の経営する仕立屋の従業員と成り下がった。
しかし、衣食住の保証され、安定された生活。
盗「昔が懐かしいな」
最後に短刀を握ったのは一ヶ月前。
……包丁は毎日握っているが。
殺気など昔と異なり、どこからもにじみ出ない。そのことを惜しくないとは思わない。
もう誰かから物を盗むことも、馬と同じくらいの速さで走ることもおそらく出来ないだろう。
鎧の間を縫って相手を傷つけることも、
鱗の間に毒刃を突き立てることももう出来ないだろう。
そんな腑抜けた盗賊の働いている仕立屋のもとに一人の客が訪れた。
騎「こんにちは」
盗「いらっしゃ……い」
見た目はただの男性だった。両手には手荷物はあるものの、盗賊の衣服とはたいした違いは無い。
見た目上は。
盗「(こいつ…………できる!)」
盗賊はその男性の隠そうとしても隠しきれない闘気、殺気を感じた。
腑抜けた盗賊でも十分に実力が分かる、それほどの実力者だった。
盗賊は知らなかった。
この男性こそが魔王を倒した勇者と呼ばれる人達の内の一人にして、勇者と肩を並べて前衛で戦った騎士だということを。
そんな英雄の一人である勇者がどうしてこんな仕立屋に来ているのにはもちろん理由がある。
騎「ここで、頼みたいことがあるのだが」
盗「…………あー、はい、なんでしょうか」
騎「ここで服を一つ、仕立ててほしいのだが」
盗「すいませんが、ちょっと、俺、私は服については詳しくないので詳しくは中で話しましょう」
盗賊はここで話すのを止め、中で話すように言った。盗賊は服に関しては多少ボタンを止めれる程度で、仕事は仕立屋が全て担当しているのだ。
盗賊は雑務担当。
盗「じゃ、荷物もちますよっと」
騎「別にいいですよ」
盗「いいからいいから」
騎士の制止を聞かず、盗賊は半ば強引に荷物を持った。そして、変化はすぐに起こった。
荷物にではない。盗賊にだ。
腕が急に下がった。詳しく伝えると右腕だけ。魔法的なものではなく、物理的、重力的なものでだ。
盗「!!」
騎「ほら、いったじゃないですか。『別にいいですよ』って」
盗「これ、右の荷物、何が入っているんだ?」
騎「これには、まあ、その、あれですよ」
盗「あれ?」
騎「笑わないで下さいよ……ただの鉄板なんですよ」
盗「鉄板?ただの鉄板?なんでまた」
盗賊の問いに騎士は照れくさそうに続けた。
騎「その、私は旅をしててですね、その移動手段に『加速』って言う魔法を使っているんですが」
盗「へぇ、魔法使えるんですか。すごいですね」
盗賊は感心した、ふりをした。
盗賊も『加速』を使えるからだ。
しかし、わざわざ客の気分を害するようなことは盗賊は言わない。
多少ながらも盗賊も接客はできるようになっているのだった。多少だが。
騎「それで、普段『加速』を使っている時に鎧を着込んでいまして、で重いものを持ってないと」
盗「ないと?」
騎「速度が出過ぎてしまって、停止するのが難しくなるのでそれで……」
騎士は照れたように頬をかいた。
盗「そうなんですか」
盗賊は軽く相づちを打った。
表面上は先ほどと同じく感心している。
内心は大きく異なり、動揺していた。
盗「(鎧を着込んで『加速』を使う。それがそもそも変だ。『加速』は風を操って追い風にして移動速度を一時的に上げるか、脚力を上げて、走る速さを急激に上げる魔法の二パターンだ。でも、どちらも自分の体重が重いと十分に効果を発揮できない。なので、俺みたいな軽装のやつならよく使えるが王国の騎士団などの連中は使わない。それなのに、こいつは重りを持っていないと速すぎるとまで言えるなんて……)」
騎「すいませんが返してくださいね」
そういい、騎士は盗賊から荷物を取り、戻して店内へと入っていった。
◇ ◇
仕「いらっしゃーい」
騎「どうも」
仕立屋『エアコスチューム』の店内。
多少雑多な雰囲気だが、独特の優しい店構えで好感が持てる造りになっていた。
仕「それでご注文は?」
盗「あんまり腕は期待すんなよ。」
仕「うるさい」べしっ
盗賊の余計な口出しに軽くはたいて返す。
今、カウンターに仕立屋と盗賊が並んでたたずんでおり、騎士が椅子に座っている。
盗「いてて、で、どうすんだ」
騎士に聞く盗賊。
騎「ええ、ウエディングドレスを一着」
盗「へえ、あんたが着るのか?」
仕「そんなわけないでしょ」べしっ
盗「ぐふぁ!!!」
盗賊の余計な口出しに軽くはたいて返す。
しかしさっきとは様子が大きく異なった。
叩かれた頭はカウンターに大きくめり込んだ。
木製の家具が壊れる軽い音が聞こえた。
それほど大きな衝撃がかかったが、仕立屋が加えた力はそれほど先ほどとたいして変わらない。
仕「あ、ごめん」
カウンターにのめり込んだ盗賊が顔を起こした。
盗「ちょ、さてはあれ、着けてますか?」
仕「いや、外したはずだけど……あっ」
仕立屋は指を、中指を見た。
そこには、最初の時には無かった指貫があった。
騎「……なにがあったのですか?」
騎士が尋ねる。当然の問いだ。
それを指貫を着けた仕立屋ではなく、盗賊が答えた。
盗「ああ、彼女なんだけど」
仕「彼女だなんて、きゃ♪」
盗「黙れ。こいつなんだけど、この手にある」
仕「う~んーめい~」
盗「黙っとけ。こいつの手にある指貫なんだけど」
仕「結婚指輪のか・わ・り♪」
騎「へぇー」
盗「騙されんな!
その指貫なんだけど、呪いの品なんだよ」
騎「呪いの品?」
仕「そ、先祖代々伝わる由緒正しき呪いの品!」
由緒正しき呪いの品。胡散臭いことこの上ない。
胡散臭いことを言い、指貫を騎士に見せる仕立屋。
盗「これを着けていると、本人の指は傷つくことはなく、これを着けて殴ると大ダメージを与えれるという恐ろしい代物だ」
まあ、外しても勝手に装備されることがあるのがデメリットだけどな、と盗賊は付け加えた。
騎「すごいですね。呪いの品なんて久しぶりに見ました」
盗「久しぶり?他にも見たことあるのか?」
騎「ええ、仲間が持っていました名前は、」
騎士は少しため、
騎「呪いの聖剣」
騎士どや顔。
仕・盗「(聖剣なのに呪いって)」
二人は同じことを思ったが、口には出さなかった。
騎「とても硬く、邪を切り裂く破邪の性質を持っています。ただ、デメリットがあってですね、その聖剣を持つとですね」
騎「いうには、その聖剣を持つ者の周りにはすごい変人かすごい常識人しか集まらなくなるとか」
ま、冗談でしょうですけどね、と騎士は笑った。
盗「ふーん、そうなんですか」
あんたは前者だろうな、と思う盗賊と
仕「へぇ、そうなんですか」
あなたは後者でしょうね、と思う仕立屋。
常に同じことを思うとは限らない。
騎「おっと失礼。話を反らしてしまいました。それで、出来ますか?」
仕「ウエディングドレスですね、サイズはどのくらいでしょうか?」
仕立屋に聞かれると、騎士は左手にある荷物の中身を仕立屋に見せるため、半壊したカウンターの上に乗せた。
騎「じゃあこの服に合わせてください」
仕「はい、それじゃあだいたい3日くらいで出来るので、しばらくおまちください」
そういい、仕立屋はカウンターから離れていった。
騎「だいたい4日後くらいにくればいいんですか?」
盗「ああ、そんぐらいにはできてるだろ」
騎「失礼しました」
盗「ありがとうございましたー」
そして、騎士は帰っていった。
盗「やっと帰ったか、…………あっ、あいつ」
ここで盗賊は先ほど騎士が見せた服の見本が置いてあることに気付く。
盗「ちっ、忘れてやがる」
盗賊はその服をとり、店外にでて、叫ぶ
盗「おーい、チャイナドレス、忘れてるぞー」
彼女の呪いはとれはしない。なぜなら本人に解く気がないから!
久しぶりの投稿です。しかし、今後のペースは遅くなりますが、よろしくお願いします。