10.特に厄日「いっってぇぇぇぇ!?」
「まだ、いたんだ…偽物は、罰さないと…」
「ヒッ…!?」
ゆらりとした動きで、ソイツは俺を見てゆっくりと寄って来ていた。しかも、ゆらゆらと揺れ動く割には、目だけはこっちを見つめ続けていて、余計に怖い。
しかし、その瞬間、獲物が自分に代わったと気づいたその時点で、俺の頭はようやく働き出した。いや、本能が警報を発したというべきか。逃げないと、コロサレル。このナニカとは関わっちゃいけない。と、本能でそう感じたのだ…
「う、うわぁぁああぁぁぁぁぁ…!?」
俺は本能のままに、その場所から逃げ去った。
「…あ。逃げられた?でも、顔は覚えたよ。おにぃさん?」
逃げる直前にそんな声が、聞こえた気がした…
ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイ!!
何だアイツ!?何なんだよ!!
目が、目がヤバかった!完全にイカレてやがった!
逃げないと、逃げないとヤバイ!!
「…あ、サクヤ?どうかしたの?」
「何か、何か分かったんですか?」
2人の質問に答えている時間も今はおしい、逃げ出せと言うハンドサインだけを残して走り去る。
後ろを振り向くことなく、俺は自分の安全だけを考えて逃げた。
どうにか宿屋まで逃げ帰ると、既に帰り着いていた2人が出迎えてくれた。
「…どうしたの?」
「な、何か分かったんですよね?ね?」
2人の声が耳に届くが、如何せん、自分自身何が起こったのか明確には理解していない。
恐怖とショックで、頭の中がグシャグシャになっている気がする。
「ちょっと、整理したいから…1人にしてくれ。頼むわ…」
そう言って、後ろも振り返らずに借りてる部屋へと入り込む。
途中、足が震えているせいか脛をぶつけたが、特に気にならなかった。
扉を閉めてベットに向かおうとするものの、体がまともに動かず部屋の真ん中あたりで突っ伏してしまう。
部屋に戻って気が抜けたのか、次第に意識に靄がかかり始めて、眼の前が暗くなっていくのを感じた。
寝ちゃダメなのは解ってはいるのだが、体に力が入らなくなって…
気が付いたときには、夢の中にいた。
夢の中なのに妙に意識がはっきりしていて、これが夢だということも何故か始めから分かっているという変な夢だ。
夢の中では、俺は何かに捕まっているようで、抜け出そうとしきりにもがくのだが、海の中で海藻に絡まったかの様に動けない。
それがしばらく続いた後、今度は映像の様なものが流れ込もうとしてくる事に気が付いた。
映像のような何かは、現状の俺にはほとんど理解出来ない様なものばかりが流れていて、そのほとんどが断続的なものばかりだ。
それらの映像は全くと言っていいほど要領を得なかったが、最後に、1つ、理解出来そうなものが流れ込んできた。
その映像は、誰かと誰かが、ゲームでもしているような内容で、最初は興味を失いそうになった。
しかし、その中で聞いたことのある声が聞こえて、もう興味などなかったはずの会話が俺にとって最も重要なことになった。
その声の主を俺は良く知っていたから。いや、この声を――俺が忘れるわけがない!
俺の聞いたその声は、間違いなくあの自称神のものだった。
「…あっちゃー、やっちゃったよ。どうしよ、コレ」
この、何か軽い感じの声が、あの神だ。
「ぷはは!!天秤の奴、運悪っるいなー!いきなり今回の最強候補と面識持っちゃったじゃん!!」
それに対して子供の様な、少し高い声が笑っている。おそらく、天秤と呼ばれたあの神に指でも指しているんじゃないかと思う。
「ふむ、天秤は自分の駒にどんな能力を与えたのか?」
今度はしわがれた爺さんの様な声だ。
(こいつら…いったい、何人いるんだ?)
目(今自分に存在するのかわからないが)を凝らして見るものの、やはり不鮮明でよく見えない。
「え?あ、あぁ…えっと、確か…彼の特徴を活かしたものをと思って、器用さの上昇系スキルを…」
「うっわぁ…その子、カワイソー。その子だけじゃん?そこまで酷いステータス」
「だよねだよね!!天秤の奴、それは流石にハードモード過ぎだって言ってんのにさぁ」
(言っている意味はよく分からんが、やっぱりゲームの話なのか?スキルにステータスって言ってるし。その子って言われているのが、
何だか他人じゃ無い位に親近感が湧いてくるんだが…)
「ねぇ?弄らない方がこの子ステータス高かったのにねぇ?私らじゃ弄れない属性だって雷と氷って結構珍しいし、サイコロ振り直しまで使って下げないでもいいと思うんだけどぉ?」
「あ、あはは…僕も、本当はもっと高い数値にしてあげたかったんだよ?まさか、ここまで低くなるなんて思ってもみないさ」
(何だか、人物の判定が出来ない位に増えてきたな…でも、やってるゲームがTRPGみたいなのは分かった。あの神が何考えてんのかとかは全然分からなかったけど、それだけは分かった)
「で?次は誰の番だっけ?」
「「ん?あ、次は獅子でしょ」」
2人分の声が全く同じタイミングで聞こえた。
しかも、声も似ているとかではなく全く一緒の物だ。
「ふむ?わしだったか…では………ん?これはまた…わしも天秤のが居る所に派遣されるみたいだな。面白くなってきたではないか。ククク…」
「獅子爺、こわっ!!天秤もうかうかしてられないんじゃない?」
「いや、わしの駒が狙うのは…蟹よ。貴様の駒だぞ」
「ほぅ、俺ンとこの嬢ちゃんを狙ってくるたぁ…覚悟、出来てんだろうなぁ?ア?」
どうやら天秤は弱すぎて標的にもされていないようだ。
この状況にようやく慣れてきた俺の頭は、あのクソ神に少しの同情さえも感じ始めていたのだが…
次の言葉を聞いて、俺の考えは、憎悪に染まった。
「獅子爺も蟹も、僕の所のサクヤ君を忘れて貰っちゃ困るなぁ…」
(………今、コイツなんて言った?)
俺の疑問に特に答えることなく、天秤は告げる。
「もう僕の所の駒は、どちらの駒とも面識があるんだよ?巻き込まれない訳が無いじゃないか?なぁ、――サクヤ君?」
天秤と呼ばれていた神が、一瞬こっちを見た。まるで、まるで、君の為に見せてあげてるんだよ?と、言うかのように。
心の底から腹立たしい。一発と言わず、何発でも殴ってやりたいが…
「…さて、次はだ………k…ぁ…………―――」
結局体は動かず、やがて映像は消えて、俺の意識も、そこから消えた。
精神が、体へと戻り始めた。ゆっくりと、体の感覚が戻ってくる感じがして…胴、腕、足、手のひら、指先…段々と動かせる部位が増えていき、
「――ッ!?!!??!!いっってぇぇぇぇ!?」
そして、脛の辺りに感覚が戻った瞬間、俺は、あまりの痛みに吼えていた。
脛の色は赤黒く変色しており、血が滲み出ている。どうやら、さっきここに来る途中でぶつけたのがここに来て戻って来たらしい。
あまりの痛みに、床の上を転げまわる事しかできない。
「サクヤ!…無事?」
「血が出てますよ!?全然無事そうじゃないですって!!」
あぁ…なんか…なぁ…俺、どうすりゃ、いいのかな……
借金だらけだし、無一文だし、何だかいつのまにか巻き込まれ体質になってるし、神のせいで余計に頭がこんがらがり出して…
はぁ…今日は厄日だな。と、思ったのだが、よくよく考えれば厄日じゃなかった日なんて1度もなかった事に気が付いた。ただ、今日は酷い厄日だったのだと、そう、思うことにした。
まぁ、取りあえずは、この足の痛みかな。
すっごい、痛てぇや…
それから三日、悩みが1つも解決しないままに、神が俺に見せたものの意味を知ることになる。
その日は、嫌に青い空が凄く鬱陶しく、もう昼間だということを主張していやがる、そんな日。
事件は、この町に勇者が来訪して始まった。
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高原 作也
人族・18歳・男
≪天秤に触れし者≫≪恐怖を忘れえぬ者≫
≪迷宮初心者≫
職業 学生
Lv.2
HP20/20 MP15/15
Str.7
Vit.5
Int.5
Fai.4
Dex.40
Agi.6
Skill
全ての物の歯車Lv.1(0/10) 槍術Lv.1(0/10)
受け流しLv.1(0/10) 投擲Lv.1(0/10)
魔力制御Lv.1(3/10) 指導Lv.1(2/10)
追跡Lv.1(5/10)
EXP.220
NEXT EXP.300
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