第5話
少し間があいてしまいました。申し訳ありません。
無言で差し出されたグラスを受け取り、エリックは一気に飲み干した。
タン、と勢いよくグラスを置くのと同時に、溜めていた息を大きく吐き出す。
傍に控える執事のジョゼフから、行儀が悪いと窘めるような視線が送られたが、そうでもしなければやっていられない気分だった。
夫婦の寝室へと続く扉を睨みつけ、どうするべきかと思い悩む。
こんな風に悩むことになったのは、晩餐で再び顔を合わせたリュシールとの会話が原因だった。
※ ※ ※
「エリック様、お礼が遅くなりましたが、様々な手配をありがとうございました」
「いや、―――気に入ってくれたのならば、よいのですが」
「はい。感謝しております」
にこり、とリュシールが笑みを浮かべた。
馬車の中でのことで、意気消沈していたエリックは、何故か軟化したリュシールの態度に、今度はどんなことを言われるのかと警戒した。
すでに、お礼の言葉も素直に受け取れないほど、エリックは身構えてしまっていた。
「王族ではなくなりましたが、貴族として領地を預かる者として、誠心誠意努めます。よろしくお願いいたします」
真摯な目で、一心にエリックを見つめるリュシール。
その甘さの欠片もない視線を受けて、エリックはぐっと奥歯を噛みしめた。
それは、国民のため領民のために尽くすという宣言だった。他国に嫁いだ王族としては、立派な心がけだろう。
しかし、エリックにとってそれは何の意味もない言葉だった。
「他に、優先するべきものがあるのではないのですか?」
その言葉が、酷く冷たく響くのを聞いた。しかし、エリックにはそれをどうすることもできない。まるで、自分の声ではないように感じているほどだったのだから。
「『他』、ですか? デガルトに嫁いできた以上は、ファストロよりデガルトのことを考えねばならないとわきまえています。もちろん、ファストロを切り捨てることはできませんが…」
「そうではなく!」
衝動にまかせてテーブルに叩き置いたカトラリーが、耳障りな音を立てる。
「エリック様?」
不思議そうに聞き返すリュシールを見る限り、エリックの気持ちを欠片もわかっていない。あれほど遠回りと無茶をしてようやく叶った、この結婚もただの『策略』と未だに思っているのだろう。
「あなたは、まだ真意を見つけていないのですね」
「え?」
「貴族としての義務も、領主の役割も、私が背負うものです。あなたが一番に優先するべきものは別にあります」
「それは、一体?」
生真面目で、強いリュシールのことだ、言えばエリックの希望に沿うように努力するだろう。
けれど、それでは虚しいだけだと今はわかっている。
「考えもせず、安易に答えを聞くのですか?」
「っ!!」
リュシールの頬が、羞恥と怒りからさっと赤く染まった。
釣り上がり気味の目が、怒りをたたえてこちらを睨みつけてくるのを、しっかりと受け止める。どうか、自分で答えを見つけて欲しいと祈りながら―――。
※ ※ ※
「いい加減参りませんと…」
「わかっている」
侍女頭のマーサが「支度が整った」と伝えてきたのは、もう30分ほど前のことになる。
呼びに来たマーサは、同時に「あまり急ぎませんように」と釘を刺してもいった。
マーサとジョセフは、子供のころから世話になっているので、その意見を簡単に無視することができない相手でもあった。
急がないように初夜を迎えるとはどうすればいいのか。
すでに支度が済んで、そのドアの向こうで待っているであろうリュシールのことを考えて、エリックは頭を抱えてしまった。
「ストック」というのは、都市伝説…なわけないですが、私の辞書にはない言葉でした。すみません。
何かとバタバタしており、なかなか思うような文章が書けません。
週一くらいで更新できるといいなぁ。